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第六章 婚約破棄にむかって
49、気持ちがわからない(シモン視点)
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「シモン殿下!!」
最近は、聞き慣れた明るい声にシモンは歩いていた足を止めた。
あの日コーデリアに嫌悪感を持ってその場を立ち去ってからシモンは鬱々とした日々を送っていた。
コーデリアは学校を休み、話すことも何が起こったのかも確認する事は出来ない。
その上シモンはコーデリアと考えるだけで、嫌な気分になるのだ。
そんな時に親身になって話を聞いてくれたのがミア・グランデだった。
初めは挨拶程度だったのだが、コーデリアがいない学校では一人でいることが多いシモンに少しずつ話しかけてくるようになったのだ。
初めは警戒していたシモンも、一人の時間を持て余し、ポツリポツリと話すようになっていた。
ミアは第一印象で抱いたハンターのような女性ではなく、とても聡明で優しく、少しお節介で、面倒見が良いことがわかってきた。
正に誘拐事件の時に帽子を貸してくれた少女そのものだった。
シモンはこの一年、コーデリアを独占する事にかまけていて、周りを全く見てこなかった事にも気付いていた。
それからはコーデリアも心配しつつ、ミアともよく話すようになった。
すると、不思議な事に今まで遠巻きにしていたクラスメイトからも話しかけれられるようになり、今や全員と名前で呼び合う仲になったのだ。
「ああ、ミア。どうしたんだ?」
シモンは話しかけてきたミアを振り向いてからその全身を見つめた。
コーデリアに比べるとかなり小柄なミアはそれでも元気一杯という印象で可愛らしい。
例えるならピョンピョン跳ねる仔馬のようだ。
「聞いてください! シモン様。今度やる学校祭での出し物の候補なんですが、何と劇になるようなんです」
「劇?」
「はい!! シモン様はご存知ですか? ほら二十年近く前にはやった王位をかけた恋の物語です」
目を輝かせて話すミアを見下ろしながら、シモンはふむと考えた。
「それは、あの公爵と王女の話か?」
「え? 違いますよ。公爵令嬢と王子様のお話ですよ?」
それを聞いてシモンはああと思い直した。
確かにモチーフはバルターク公爵とアリアドネ王女の実話だが、国民の劇に直された時に男女は逆になったのだった。
「そうだな。王子と令嬢の物語か」
「はい! それでクラスのみんながシモン様に王子役をお願いしたいんだそうです」
「王子役? 王子が王子役をやっても面白くないだろう?」
「でも、他に適任もいなくて……」
「そうか……どうしてもなら仕方がないが、令嬢役は誰なんだ?」
するとミアがモジモジして答えた。
「それがぁ、そのぉ。私なんです……。ちゃんと断ったんですよ? それでもみんながどうしてもというんで……。やっぱり私なんかが令嬢とかおかしいですよね?」
「いや、そんなこともないだろう? 劇なんだ。普段とは違う役をするのも良いんじゃないか? 私もそうしたいくらいだ」
「ダメダメダメですよ! シモン様は王子役でお願いします!」
シモンは仕方がないと王子役を引き受けた。
成人したら王子ではなくなるのだ。
いい思い出になるやもしれない。
成人したら……か。コーデリアとの関係はどうなっているんだ?
頭では大好きだが、心が拒否するこの感じか気持ち悪くてシモンは頭を振ってコーデリアの事を考えないようにしていた。
「さあ、それじゃあ、早速練習に行きましょう!!」
「え? 今からか?」
「はい! 学校祭まで、あと一か月しかないんです! 一秒だって無駄にできませんよ?」
「ああ……」
ミアは躊躇なくシモンの手を掴んで、グイグイと引っ張った。
そのままクラスに行くとみんなが待っていて、早速台本を渡された。
それを見てシモンはミアが自分を呼びにきたのは一応の確認だったのだな。とため息をついた。
何故なら、配役にはシモンの名前が堂々と記載されていたのだ。
殆どのクラスメイトの名前が書かれた台本にないのはコーデリアの名前だけだ。
それを寂しげに見つめたシモンだが、まだコーデリアに会う勇気もでない。
会ったらまたあの時のように嫌悪感を、抑え切れないかもしれないのだ。
シモンは自分がどうすべきなのか、どうしたいのかがわからなかった。
コーデリアに会いたいのか会いたくないのかもわからない。
シモンは答えの出ない考えを振り払い、劇の練習に参加したのだった。
最近は、聞き慣れた明るい声にシモンは歩いていた足を止めた。
あの日コーデリアに嫌悪感を持ってその場を立ち去ってからシモンは鬱々とした日々を送っていた。
コーデリアは学校を休み、話すことも何が起こったのかも確認する事は出来ない。
その上シモンはコーデリアと考えるだけで、嫌な気分になるのだ。
そんな時に親身になって話を聞いてくれたのがミア・グランデだった。
初めは挨拶程度だったのだが、コーデリアがいない学校では一人でいることが多いシモンに少しずつ話しかけてくるようになったのだ。
初めは警戒していたシモンも、一人の時間を持て余し、ポツリポツリと話すようになっていた。
ミアは第一印象で抱いたハンターのような女性ではなく、とても聡明で優しく、少しお節介で、面倒見が良いことがわかってきた。
正に誘拐事件の時に帽子を貸してくれた少女そのものだった。
シモンはこの一年、コーデリアを独占する事にかまけていて、周りを全く見てこなかった事にも気付いていた。
それからはコーデリアも心配しつつ、ミアともよく話すようになった。
すると、不思議な事に今まで遠巻きにしていたクラスメイトからも話しかけれられるようになり、今や全員と名前で呼び合う仲になったのだ。
「ああ、ミア。どうしたんだ?」
シモンは話しかけてきたミアを振り向いてからその全身を見つめた。
コーデリアに比べるとかなり小柄なミアはそれでも元気一杯という印象で可愛らしい。
例えるならピョンピョン跳ねる仔馬のようだ。
「聞いてください! シモン様。今度やる学校祭での出し物の候補なんですが、何と劇になるようなんです」
「劇?」
「はい!! シモン様はご存知ですか? ほら二十年近く前にはやった王位をかけた恋の物語です」
目を輝かせて話すミアを見下ろしながら、シモンはふむと考えた。
「それは、あの公爵と王女の話か?」
「え? 違いますよ。公爵令嬢と王子様のお話ですよ?」
それを聞いてシモンはああと思い直した。
確かにモチーフはバルターク公爵とアリアドネ王女の実話だが、国民の劇に直された時に男女は逆になったのだった。
「そうだな。王子と令嬢の物語か」
「はい! それでクラスのみんながシモン様に王子役をお願いしたいんだそうです」
「王子役? 王子が王子役をやっても面白くないだろう?」
「でも、他に適任もいなくて……」
「そうか……どうしてもなら仕方がないが、令嬢役は誰なんだ?」
するとミアがモジモジして答えた。
「それがぁ、そのぉ。私なんです……。ちゃんと断ったんですよ? それでもみんながどうしてもというんで……。やっぱり私なんかが令嬢とかおかしいですよね?」
「いや、そんなこともないだろう? 劇なんだ。普段とは違う役をするのも良いんじゃないか? 私もそうしたいくらいだ」
「ダメダメダメですよ! シモン様は王子役でお願いします!」
シモンは仕方がないと王子役を引き受けた。
成人したら王子ではなくなるのだ。
いい思い出になるやもしれない。
成人したら……か。コーデリアとの関係はどうなっているんだ?
頭では大好きだが、心が拒否するこの感じか気持ち悪くてシモンは頭を振ってコーデリアの事を考えないようにしていた。
「さあ、それじゃあ、早速練習に行きましょう!!」
「え? 今からか?」
「はい! 学校祭まで、あと一か月しかないんです! 一秒だって無駄にできませんよ?」
「ああ……」
ミアは躊躇なくシモンの手を掴んで、グイグイと引っ張った。
そのままクラスに行くとみんなが待っていて、早速台本を渡された。
それを見てシモンはミアが自分を呼びにきたのは一応の確認だったのだな。とため息をついた。
何故なら、配役にはシモンの名前が堂々と記載されていたのだ。
殆どのクラスメイトの名前が書かれた台本にないのはコーデリアの名前だけだ。
それを寂しげに見つめたシモンだが、まだコーデリアに会う勇気もでない。
会ったらまたあの時のように嫌悪感を、抑え切れないかもしれないのだ。
シモンは自分がどうすべきなのか、どうしたいのかがわからなかった。
コーデリアに会いたいのか会いたくないのかもわからない。
シモンは答えの出ない考えを振り払い、劇の練習に参加したのだった。
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