悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第五章 物語の始まり

42、豚になれとは?(シモン視点)

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シモンは走り去ったコーデリアを呆然と見つめていた。
コーデリアに叩かれた頭は未だにジンジンと痛い。
そして、コーデリアが言った言葉だ。
豚になれとはどういう事だ?
何かの暗号か?
「あ、あの、シモン殿下……。私に何か御用でしょうか?」
直ぐ近くから今自分が話しかけたミアの声が聞こえた。
シモンはミアの方を振り向くと、その顔を見つめた。
確かに整った顔をしているが、それだけだ。
コーデリアを直ぐに追いかけたいが、ミアに話しかけた手前、話を続けるしかなく顔をしかめる。
その時シモン達のクラスの扉が、開かれた。
「シモン王子! 何かありましたか?」
ひょっこりと現れたのはアルバートだった。
「ああ、アルバート!」
シモンはミアに少し待つように話すとアルバートに向かって話しかけた。
「アルバート! 丁度良かった。コーデリアが一人で走って行ってしまったんだ」
「コーデリアが?」
「ああ、申し訳ないが、探してくれないか? 一人だと何があるか心配なんだ」
「シモン王子はどうするんですか?」
「僕はここにいる彼女と話す必要があるんだ。すまない」
「あ、ああ、わかりました。しょうがないやつだな。コーデリアは」
アルバートはブツブツ言いながらも、クラスを出て行ってくれた。
本当なら自分で行きたいが仕方がない。
それでも手短に話そうとミアを振り返った。
「ゔ」
ミアの瞳は王宮でよく見る目そのままだった。
あわよくば自分に取り入ろうというハンターの目だ。
シモンは一歩足を引いてしまったが、仕方がない。
「あー。ミア・グランデだな!」
「はい!!!」
あまりの大きな声に耳を塞ぎたくなった。
「いや、何でもない」
一歩引いた分だけ詰めてきたミアに嫌悪感が増してシモンは話を打ち切ってクルリと踵を返すとコーデリアの後を追ったのだった。
コーデリアの為とはいえ、あの目をしている者には近づかないに越した事はないのだ。
それは王宮での生活で身についた知恵と言ってもいい。
引きこもりの公爵家なので、あわよくばシモンの関心を引こうという輩が多すぎた。
だから、あの目をする人間がろくでもない事をシモンはよく知っている。
しかし、そんなシモンの考えなど、クラスメイトは知る由もない。
シモンが出て行ったクラスではこの話題が一気に盛り上がったのだ。
見ているだけの人間には、シモンがミアに話しかけて、コーデリアが怒ってシモンを叩き、シモンはすぐにコーデリアを追いかけずにミアに話をしてから出て行った。
それはどう見てもシモンはミアにコーデリアの行動をフォローしているようにしか見えない。
この一年はシモンはコーデリアにべったりだったが、そろそろ飽きたのか?
シモンの行動は、女子生徒は自分達もアタックしてみようという気になり、男子生徒にはコーデリアに話しかけてみようという気にならせた。
そして、ミアに近い者達はワーッとミアを囲んだのだ。
「ミア!! 凄いじゃない!! あのシモン王子殿下がコーデリア様以外の女子に話しかけるのを初めて見たわ!!」
「そうよ!! ミアの言っていた通りね!! 一年間我慢すれば、次はミアの番だなんて……夢だと思っていたわ!!」
興奮して話す友達にミアは得意満面の顔をした。
「でしょ? 私にはわかってるのよ!! 本当はシモン殿下はコーデリア様が大っ嫌いなんだもの。そうじゃないとお話が進まないのよ」
「お話?」
「ええ、夢のお話だけど、よくその通りになるのよ!」
「まぁ、ミア貴女は夢実の魔法が使えるの?」
「夢実の魔法?」
「ああ、ミアは平民だからあんまり魔法に詳しく無いのね。魔法の種類を勉強するのはこれからですもの」
「ねぇ、それってどんな魔法なの?」
「それはね……」
その生徒の話を聞いて、ミアは胸を撫で下ろした。
そして、希望に満ちた瞳を今はいないシモンの席に向けたのだ。
そんなミアの肩を叩いて、魔法に詳しいその生徒が遠慮がちに話しかけてきた。
「でも、ねえ、ミア……。もし本当に夢実の魔法が使えるのなら、ちゃんと先生に報告してね。その魔法はとっても危険なのよ。しかも、無意識に発動させては絶対にいけないものなのよ? わかった?」
ミアは明るい笑顔に戻して、友人達を見ると、邪気のない返事を返す。
「ええ、わかったわ! でも、よく聞くと夢実の魔法ではないと思うの。さっき言われたような事なんかは全然起こらないんだもの」
ミアの返事を聞いた生徒達はお互いを見てから頷いた。
確かに夢実の魔法は希少魔法に入る。
高位の魔法使いでも出来ないものなのだ。
それを、平民の魔法もよく知らないミアができる訳がないのだ。
そうして、ミア達はいつものたわいの無い話に会話を戻したのだった。
ミアは友人達と流行りのお菓子など話しながらも、ドキドキが止まらない。
自分に特別な力があるかもしれないのだ。
そのミアのドキドキに気付くものは誰もいなかった。
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