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第五章 物語の始まり
40、シモンとコーデリア(シモン視点)
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シモンは目の前の馬車の座席に座り窓の外を見ているコーデリアを、飽きる事なく見つめていた。
確かに公爵夫人が言っていたように、今日のドレスは恐ろしいまでにコーデリアに似合っていた。
いや、似合いすぎている。
豊かに波打った黒髪が明るいグリーンに映えて眩しいくらいだ。
この一年でコーデリアは本当に美しくなった。
もともと、可愛らしかったのに蛹が蝶になるように、美しく成長してしまったのだ。
女性らしい体つきになり、少し胸元が開いたドレスを身につけていると心配でたまらない。
勿論シモン自身もドキドキが止まらない。
コーデリアが自分以外のクラスメイトと話しているだけで、嫉妬してしまうのだ。
ただのクラスメイトだと自身に言い聞かせても、どうしてもコーデリアを睨んでしまうのだ。
その事がコーデリアの不満となっている事もよくわかっているのにやめられない。
特に今日のような格好をしていると女子生徒と話していても気になって仕方がないのだ。
だからコーデリアには、なるべく地味で体の線が隠れた服を勧めてしまう。
「コーデリア、何か外に気になる物でもあるのか?」
シモンは外ばかり見ているコーデリアに声をかけた。
「私には、どうせこのようなドレスは似合わないのでしょう? ほっといて下さい!」
すっかりヘソを曲げてしまったコーデリアを見てシモンは自分の顔が笑顔になるのを感じていた。
コーデリアは怒っているが、怒っているコーデリアも可愛らしいのだ。
「もう、病気だな……」
「はい?」
「いや、別に似合っていないとは言っていない。ただ、学校に行くには少し斬新なデザインだと思っただけだ」
「それが、似合っていないと言っていると同じなんです!!」
シモンの方をキッと睨むとコーデリアは再びプイッと外に目を向けてしまった。
「クククッ」
思わずシモンの口から笑い声が漏れてしまった。
「何がそんなにおかしいのですか?」
元々少しつり目の瞳を吊り上げてコーデリアが、シモンを睨みつけた。
「いや、すまない。何でもないのだ」
それでも、忍び笑いをしているシモンを呆れたように見るとコーデリアは諦めたように再び窓の外に顔を向けた。
シモンの事が気になるけれど、訳を聞きたくないという態度が可愛らしいとは本人はわかっていないらしい。
シモンは満足そうに頷いて、コーデリアの視線を追った。
外の景色は貴族の住むエリアから町人が住むエリアに移動したようだった。
街の様子が珍しいのかコーデリアは毎朝この景色を眺めるのを楽しみにしているようだった。
「コーデリアは街中を歩いた事はあるか?」
「歩く……ですか?」
「ああ、公爵家の令嬢ではなかなか難しいか……」
「そうですね。家とお城と学校以外では歩いた事はありませんわ」
コーデリアが少し残念そうにしているのが印象的だった。
「そうか」
その時シモンの頭には一つの案が浮かんでいた。
直ぐには難しいが、コーデリアに町娘のように町歩きをさせてあげたいと思った。
これだけ毎日眺めているのに歩いた事もないなど、籠の鳥にも程があるという物だ。
王子であるシモンでさえ、護衛付きだが何度か街を視察している。
そのうちの数回は平民の服を着てのお忍びだ。
あれは楽しい。
シモンはコーデリアに町歩きをプレゼントする計画を立てる事にした。
きっと喜ぶし、今の不満も解消するだろう。
それくらい刺激的なのだ。
「どうしたのですか? 何が楽しい事でも?」
コーデリアが不思議そうに尋ねてきた。
どうもコーデリアとお忍びで町歩き、いやこれはデートだなを考えてにやけていたらしい。
「い、いや、別になんでもない」
「まだ、私のドレスが似合わないとか他の方に笑われるとか考えていましたか?」
コーデリアはキッとシモンを睨んできたが、頭が沸いてるシモンには只々可愛らしいだけだった。
「まず、コーデリアの安全の為に情報収集から手をつけるか……」
シモンの中である生徒の顔が思い浮かんだ。
平民で、コーデリアと同じ年で、同性で……。
平民にしては小綺麗な格好をしているから、コーデリアが好きそうな店も知っていそうだな。
シモンはうんうんと頷いて、コーデリアを見つめた。
「楽しみだ」
その時、街を抜けて馬車は学校に到着した。
シモンは先に降りるとコーデリアに手を差し出した。
コーデリアをエスコートするのは、自他共に認めるシモンの特権だった。
コーデリアは、あまり社交をしないので、自分がどれだけ目立っているのか、注目されているのかがわからないらしい。
今もグリーンのドレスを着たコーデリアは注目の的だが、コーデリアはシモンを上から下まで見て見当違いな事を言った。
「やっぱり、シモン王子は注目の的ですのね?」
いやいや、君だからとは言えず、シモンは街でのお忍びだデートの時はコーデリアにどんな服を用意しようか? と想像していた。
平民の流行も確認する必要があるな。
シモンは頭の中で質問リストを作りながらコーデリアをクラスまでエスコートした。
そして、クラスにつくと直ぐに周りを見渡した。
いつもなら側にいるのだ。
前は話しかけてきて迷惑していたが、最近は挨拶だけで、まぁ普通のクラスメイトだ。
そして、クラスの端で数人と話しているお目当ての人物を見つけるとコーデリアに離れる事を伝えて近寄った。
「ミア!! ミア・グランデ」
多分、シモンから名前を呼ぶのは初めてだ。
ミアは話していた顔をガバリとシモンに向けると目をめい一杯見開いて見つめてきた。
シモンはその時何も気付いていなかった。
置き去りにされたコーデリアの驚愕している顔も、ミアの待ってましたという狂喜乱舞の表情も、あれだけ他の生徒に興味なさそうだったシモンがクラスメイトに更には平民に、そして、女生徒に話しかけた事に驚いているクラスメイトの顔にも気付いていなかった。
シモンの頭の中はコーデリアとのお忍びデートの計画で一杯だったのだ。
確かに公爵夫人が言っていたように、今日のドレスは恐ろしいまでにコーデリアに似合っていた。
いや、似合いすぎている。
豊かに波打った黒髪が明るいグリーンに映えて眩しいくらいだ。
この一年でコーデリアは本当に美しくなった。
もともと、可愛らしかったのに蛹が蝶になるように、美しく成長してしまったのだ。
女性らしい体つきになり、少し胸元が開いたドレスを身につけていると心配でたまらない。
勿論シモン自身もドキドキが止まらない。
コーデリアが自分以外のクラスメイトと話しているだけで、嫉妬してしまうのだ。
ただのクラスメイトだと自身に言い聞かせても、どうしてもコーデリアを睨んでしまうのだ。
その事がコーデリアの不満となっている事もよくわかっているのにやめられない。
特に今日のような格好をしていると女子生徒と話していても気になって仕方がないのだ。
だからコーデリアには、なるべく地味で体の線が隠れた服を勧めてしまう。
「コーデリア、何か外に気になる物でもあるのか?」
シモンは外ばかり見ているコーデリアに声をかけた。
「私には、どうせこのようなドレスは似合わないのでしょう? ほっといて下さい!」
すっかりヘソを曲げてしまったコーデリアを見てシモンは自分の顔が笑顔になるのを感じていた。
コーデリアは怒っているが、怒っているコーデリアも可愛らしいのだ。
「もう、病気だな……」
「はい?」
「いや、別に似合っていないとは言っていない。ただ、学校に行くには少し斬新なデザインだと思っただけだ」
「それが、似合っていないと言っていると同じなんです!!」
シモンの方をキッと睨むとコーデリアは再びプイッと外に目を向けてしまった。
「クククッ」
思わずシモンの口から笑い声が漏れてしまった。
「何がそんなにおかしいのですか?」
元々少しつり目の瞳を吊り上げてコーデリアが、シモンを睨みつけた。
「いや、すまない。何でもないのだ」
それでも、忍び笑いをしているシモンを呆れたように見るとコーデリアは諦めたように再び窓の外に顔を向けた。
シモンの事が気になるけれど、訳を聞きたくないという態度が可愛らしいとは本人はわかっていないらしい。
シモンは満足そうに頷いて、コーデリアの視線を追った。
外の景色は貴族の住むエリアから町人が住むエリアに移動したようだった。
街の様子が珍しいのかコーデリアは毎朝この景色を眺めるのを楽しみにしているようだった。
「コーデリアは街中を歩いた事はあるか?」
「歩く……ですか?」
「ああ、公爵家の令嬢ではなかなか難しいか……」
「そうですね。家とお城と学校以外では歩いた事はありませんわ」
コーデリアが少し残念そうにしているのが印象的だった。
「そうか」
その時シモンの頭には一つの案が浮かんでいた。
直ぐには難しいが、コーデリアに町娘のように町歩きをさせてあげたいと思った。
これだけ毎日眺めているのに歩いた事もないなど、籠の鳥にも程があるという物だ。
王子であるシモンでさえ、護衛付きだが何度か街を視察している。
そのうちの数回は平民の服を着てのお忍びだ。
あれは楽しい。
シモンはコーデリアに町歩きをプレゼントする計画を立てる事にした。
きっと喜ぶし、今の不満も解消するだろう。
それくらい刺激的なのだ。
「どうしたのですか? 何が楽しい事でも?」
コーデリアが不思議そうに尋ねてきた。
どうもコーデリアとお忍びで町歩き、いやこれはデートだなを考えてにやけていたらしい。
「い、いや、別になんでもない」
「まだ、私のドレスが似合わないとか他の方に笑われるとか考えていましたか?」
コーデリアはキッとシモンを睨んできたが、頭が沸いてるシモンには只々可愛らしいだけだった。
「まず、コーデリアの安全の為に情報収集から手をつけるか……」
シモンの中である生徒の顔が思い浮かんだ。
平民で、コーデリアと同じ年で、同性で……。
平民にしては小綺麗な格好をしているから、コーデリアが好きそうな店も知っていそうだな。
シモンはうんうんと頷いて、コーデリアを見つめた。
「楽しみだ」
その時、街を抜けて馬車は学校に到着した。
シモンは先に降りるとコーデリアに手を差し出した。
コーデリアをエスコートするのは、自他共に認めるシモンの特権だった。
コーデリアは、あまり社交をしないので、自分がどれだけ目立っているのか、注目されているのかがわからないらしい。
今もグリーンのドレスを着たコーデリアは注目の的だが、コーデリアはシモンを上から下まで見て見当違いな事を言った。
「やっぱり、シモン王子は注目の的ですのね?」
いやいや、君だからとは言えず、シモンは街でのお忍びだデートの時はコーデリアにどんな服を用意しようか? と想像していた。
平民の流行も確認する必要があるな。
シモンは頭の中で質問リストを作りながらコーデリアをクラスまでエスコートした。
そして、クラスにつくと直ぐに周りを見渡した。
いつもなら側にいるのだ。
前は話しかけてきて迷惑していたが、最近は挨拶だけで、まぁ普通のクラスメイトだ。
そして、クラスの端で数人と話しているお目当ての人物を見つけるとコーデリアに離れる事を伝えて近寄った。
「ミア!! ミア・グランデ」
多分、シモンから名前を呼ぶのは初めてだ。
ミアは話していた顔をガバリとシモンに向けると目をめい一杯見開いて見つめてきた。
シモンはその時何も気付いていなかった。
置き去りにされたコーデリアの驚愕している顔も、ミアの待ってましたという狂喜乱舞の表情も、あれだけ他の生徒に興味なさそうだったシモンがクラスメイトに更には平民に、そして、女生徒に話しかけた事に驚いているクラスメイトの顔にも気付いていなかった。
シモンの頭の中はコーデリアとのお忍びデートの計画で一杯だったのだ。
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