悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第四章 学校生活

36、新生コーデリアよ!(コーデリア視点)

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コツン
コーデリアは初めて来るクラスの扉を緊張しながらも、開いた。
昨日は途中で逃げ帰ってしまったが、今日からのコーデリアは違うのだ。
昨日までは受け身だった。でも、今日からは自分の意思で行動するのだ。
まず、最重要事項は婚約破棄されない事!
次にシモン王子とミアを接近させない事!
これを実行するのだ。
今この世界の大切な家族を守ると決めたのだ。
コーデリアは力強く頷くと、クラスに一歩を踏み入れた。
「シモンさまぁ」
コーデリアがクラスに入るとシモン王子を呼ぶ媚びた声が聞こえて来た。
ミ、ミア……! なんて素早いの! もう再会イベントをクリアしたのかしら?
コーデリアはなるべく声の方を見ずに予め説明されていた席に座った。
昨日の早退を先生に謝罪して来た為、またまた、出遅れてしまったようだ。
コーデリアがミアの方を見なかったという事はシモン王子の方にも目を向けなかった事にコーデリアは気付いていなかった。
そして、コーデリアからあからさまに無視されてしまったシモン王子がガックリと肩を落としていた事にも気付いていなかった。
「おいおい、バルターク公爵令嬢はシモン王子を無視したぞ!」
「昨日も無断で早退したらしいぞ」
「相当なわがままなんだな、勿体ない」
「「「あんなに可愛いのに!!!」」」
ダンッ!!
コーデリアが出遅れショックで落ち込んでいると周りから非難の声か聞こえて来た。
最後の言葉は誰かが叩いた机の音で聞こえなかったが、やはり悪口なのだろう……。
「やっぱり、私は悪役にしかなれないのね……。ううん! ダメダメこれからは積極的にいくのよ! 嫌われたっていいって決めたじゃない!」
コーデリアがブツブツ言っていると突然目の前に誰かが立ったのだ。
コーデリアが不思議に思って見上げると、盛大に顔を引きつらせたシモン王子が怖い顔をしてコーデリアを見下ろしていた。
「おはよう! コーデリア」
明らかな作り笑いに引きつった笑顔のシモン王子にコーデリアの顔も自然に引きつった。
「……おはようございます」
聞こえるか聞こえないかの声でコーデリアが答えるとそのまま顔を下に向けた。
その恥ずかしそうな仕草に周りの男子生徒が驚きの声で何かを囁いているのが聞こえて来た。
何と言っているのかわからなかったが、その声は直ぐに静かになった。
シモン王子は身をかがめて、机に座るコーデリアの耳元で囁いた。
「コーデリア、みんなが誤解するからもっと堂々としてくれ! それでは私達が仲良くなさそうではないか?」
「シ、シモン王子?」
「今でもあの協力の約束は有効だ」
「約束?」
「ああ、婚約者として僕と仲良くするんだ。いいね?」
「は……はい」
その時、ガラリという音とともに先生が入ってきてシモン王子の気配はなくなった。
コーデリアはシモン王子に言われたことを考えていた。
シモン王子の言っていた約束とは、前王派を黙らせる為にコーデリアと仲良くしたいと言ったあの約束だろう。
結局シモン王子が公爵家に来なくなったのですっかり忘れていた。
今でもバルターク公爵家と仲良く見せないといけないのかしら?
お兄様がいうには現王家もかなり安定してきたといっていたのに?
それでも、確かにあの時にははっきりと約束したし、協力者になったのだ。
これからもシモン王子が人前では仲の良い婚約者を必要としているならそのように振る舞うしかないのね。
いくら、嫌われていても……。
コーデリアはそこまで考えると深いため息をついたのだった。
その様子を周りの男子生徒が、じっと見つめていた事にコーデリアは気づかなかったし、その男子生徒達を憎々しげに睨みつけいたシモン王子にも気付かなかった。
そして、何よりミアが心底うざいという顔でコーデリアを見ていた事にもコーデリアは気づかず、まずは初めての授業に集中したのだった。
昨日お母様と話したが、中々シモン王子とミアを邪魔する案が思いつかなかったのだ。
なんと言っても二人は出会ってしまったし、再会してしまった。
更に先程の会話を聞く限りもうかなり仲良くなっているのかもしれない。
そんな二人を引き裂くのだから、それこそ物語の悪役令嬢になるしかないのかもと考えるしかなかった。
でも、コーデリアが悪役令嬢になるという事は物語通りに進むという事なので、最終的には婚約破棄となると思う。
「はぁ、どうしようかしら?」
独り言が少し大きく響いたらしく、授業をしていた先生に話しかけられた。
「バルターク公爵令嬢、この問題を前に出て答えなさい」
私は突然の事にびっくりしたが、お兄様やシモン王子の授業を一緒に受けていたのだ。
入学直後の学校の問題くらいなら、なんて事なかった。
「はい」
私は前に出て、答えをスラスラと解いて見せると先生も大きく頷いている
「よ、よろしい。しかし、授業はきちんと聞くように!」
「はい、申し訳ございませんでした」
私としては自分の知っていることなのに、周りからは感嘆の声が上がる。
「あの顔であの身分、更に頭もいいのか?」
「あの問題は来年習うものだろう? 学校になんか来なくてもいいんじゃないか?」
「おいおい、マジかよ!」
それら声を聞いた時、私の体の自由が奪われた。
強制力だ!
「皆さま、こんな問題もわからないのかしら? 情けないですわ」
私の声はまたしても教室に響き渡ったようだった。
それでも、強制力が働いている為、馬鹿にするような言葉しか出てこない。
「嫌だわ! 皆さま、ここは学校ですのよ? おわかり? きちんと勉強してから、出直すべきではないの?」
すると一人の少女が立ち上がった、ミアだ。
「あ、あの!! その言い方は日、ひどいと思います!! 公爵令嬢の貴女のように家庭教師から教わることなんか普通は出来ないもの」
コーデリアは心中でそう!そうなのよ!と叫んだが、口から出たのは馬鹿にした言葉だった。
「ふん、貴女の普通はここでは非常識なのよ」
「そ、そんな、酷いわ」
そう言って泣き崩れたミアに周りから同情が集まった。
私はあーーーー!! と思ったがまだ体の自由は戻らない。
更に口からひどい言葉が発せられそうになった時、グイッと腕が引っ張られた。
シモン王子だ。
「コーデリア! こちらに!」
強引なエスコートでシモン王子が私を教室から連れ出した。
そして、階段脇の空き教室まで腕を引かれるとその中に連れ込まれたのだ。
「手、手を離しなさい!!」
コーデリアの口からは未だに悪役令嬢らしい文句が次々とシモン王子に投げつけられた。
しかし、シモン王子は一切の反論をせずにそのままコーデリアを抱きしめたのだ。
「コーデリア、大丈夫だ!」
「やめなさい! 離して!」
「君の癇癪は君の意思でないことはわかっているし、あの約束では癇癪をフォローすると言っただろう? 大丈夫、大丈夫だよ」
コーデリアの体を優しく、でも、しっかりと抱きしめるとシモン王子は暫くそのままの体制でコーデリアが収まるを待ってくれた。
私は…………泣きそうだった。
もう、シモン王子には嫌われてもいいと思っていた。
邪魔な婚約者、嫌いな婚約者になってもこの地位を家族の為に死守しようと決めたのだ。
それなのに、何年も前の約束をシモン王子は守ろうとしてくる。
私の強制力を自分では抑えられない癇癪として受け入れてくれる。
私を……待ってくれている。
シモン王子に抱きしめられたまま、コーデリアの暴言は徐々に収まり最後にはカクンと体から力が抜けてしまった。
何とか意識を保とうとしたが、コーデリアの目の前は暗転したのだった。
そのままコーデリアはシモン王子の腕の中で意識を手放した。
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