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第四章 学校生活
33、可愛い婚約者(シモン視点)
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久しぶりのバルターク公爵家を訪問したシモンはその門を眺めた。
入学式の後、コーデリアを探し回ったが見つけられず、アルバートに確認してもらって、やっと家に帰ったことが分かったのだ。
それからアルバートに無理を言って馬車に同乗して訪れたのが約2年ぶりの公爵家だった。
エントランスホールで懐かしい顔触れを見て、彼らの中に驚愕を感じ少し気恥ずかしくなってしまった。
確かに二年前は今よりも子供だったのだ。
「シモン王子、こちらでございます」
よく知った執事に応接室に案内されると程なくしてアリアドネ公爵夫人とコーデリアが現れた。
まずは無事に帰宅していた事に安堵して息を吐いた。
アリアドネ公爵夫人に型通りの挨拶をする。
はっきり言ってアリアドネ公爵夫人は美魔女だ。
年齢不詳も甚だしい。
ぱっと見は二十歳くらいにしか見えないが、アルバートは既に十七歳、それはありえない。
変わらぬ美しさの公爵夫人の後ろでモジモジしているコーデリアを見て目を細めた。
二人は親子だけあってよく似ているのがわかった。
きっと、将来はコーデリアも美しくなるのだろうな。
その時は自分の隣にいてくれるのだろうな。
そんな事を考えているとアルバートがコーデリアにキツく当たったのだ。
「コーデリアは謝罪しろ!」
どうもアルバートはコーデリアに当たりが強すぎるのだ。
実の兄からきつく言われたコーデリアは目に涙を一杯に溜めて、いつもの高飛車な物言いから一変してか細い声で謝った。
そのギャップに胸のドキドキが止まらない!!
可愛い、可愛すぎるぞ!! コーデリア!!
多分少しの間ボーッとしていたのだろう。
気づいた時にはコーデリアは走り去ってしまっていた。
「あ……」
アルバートと公爵夫人の会話に入り込むようにここに来た理由を並べ立て、何とかコーデリアを追いかける許可を取るとシモンは部屋から飛び出した。
後ろではアーノルドが「甘やかすなよ!」と言っていたが、そんな事は知ったこっちゃない。
そうしてシモンは勝手知ったる公爵家の庭園に急いだのだった。
シモンが庭園をキョロキョロしながら歩いていると茂みの奥から小さな泣き声が聞こえてきた。
すると一旦収まっていた胸のドキドキが再開して口から飛び出しそうだった。
「泣いてる……のか?」
小さな声で呟くとその泣き声がピタリと止まった。
「そこにいるのはコーデリアなのか?」
「……」
カサリ
シモンが茂みを掻き分けると、コーデリアが少し開けた隠れ家のような場所に座っているのが見えた。
「コーデリア、大丈夫か?」
「……」
小さな頃の大人の様な顔でもなく、婚約者として協力させた時の様な生意気な顔でもなく、怒られて泣いているコーデリアの顔が見たくて、どうしても見てみたくてシモンは大きく一歩を踏み出した。
「コーデリア!!」
コーデリアの顔を覆っている腕を掴むと優しく広げた。
するとコーデリアが恐る恐る顔を上げてシモンの顔を見つめた。
か、か、か、か、か、か、可愛い!!!!
元々可愛らしいが、どうしても我儘で高飛車なイメージがあるコーデリアの泣き顔が大人びた美しい容姿を少し幼くみせていた。
そのアンバランスさにシモンは息が止まりそうだった。
「は、離して……頂戴」
取ってつけた様な高飛車な物言いが、虚勢を張っている様にしか見えない。
少しキツ目の容姿が涙に濡れているのだ。
初めて見るコーデリアにシモンはやばいなと独言た。
この二年の間に積りに積もったコーデリアへの思いが一気に溢れそうになったのだ。
もしかしたら、婚約発表の場でもこんなに近付いたのは初めてかもしれない。
エスコートはしたが、あの時は前王原理主義者を警戒しすぎて、はっきりいってコーデリアのドレスさえ覚えていない。
その後はなるべく接点を持たない様にしていたし、警護の者達の報告を聞くのみだったのだ。
それが、久しぶりに会ったコーデリアのギャップ責めにシモンは破壊寸前だった。
今日は朝から驚いてばかりだ。
こんなに綺麗になったのか!
こんなに美しくなったのか!
こんなに人を惹きつける魅力があったのか!
こんなに可愛らしかったのか!
シモンは思わず天を仰いだ。
は、鼻血が出そうだ……。
「あ、兄に叱られたからと言って、あの様に逃げ出すものではない」
シモンは上を向きながら、何とか言葉をかけた。
いや、もっと違う言葉をかけるのだ!
お前を放っておけないとか、守りたいとか、美しくなったなとかだ!
「え? ……わかったわ」
「あ、いや、違うんだ……。ゔ、駄目だ!!」
もう鼻血が垂れそうだ!!
シモンは掴んでいた手を少し乱暴に離すと上を向いたままその場を立ち去った。
そして、建物の影に入るとハンカチで鼻を抑えた。
「あ、危なかった……」
ハンカチで鼻を抑えながらもコーデリアの目の前で鼻血を垂らさなかった事に安堵していると、今の自分の態度はあまりに酷かった事に気がついた。
手を掴んで…………振り払ってしまった……。
バッとコーデリアの方を振り向くと、肩を落として、俯きながらトボトボと屋敷に戻るコーデリアの後ろ姿が見えた。
「あーーーー! 違うんだ!!」
シモンの叫びはだれにも聞かれずにその場に夢散したのだった。
入学式の後、コーデリアを探し回ったが見つけられず、アルバートに確認してもらって、やっと家に帰ったことが分かったのだ。
それからアルバートに無理を言って馬車に同乗して訪れたのが約2年ぶりの公爵家だった。
エントランスホールで懐かしい顔触れを見て、彼らの中に驚愕を感じ少し気恥ずかしくなってしまった。
確かに二年前は今よりも子供だったのだ。
「シモン王子、こちらでございます」
よく知った執事に応接室に案内されると程なくしてアリアドネ公爵夫人とコーデリアが現れた。
まずは無事に帰宅していた事に安堵して息を吐いた。
アリアドネ公爵夫人に型通りの挨拶をする。
はっきり言ってアリアドネ公爵夫人は美魔女だ。
年齢不詳も甚だしい。
ぱっと見は二十歳くらいにしか見えないが、アルバートは既に十七歳、それはありえない。
変わらぬ美しさの公爵夫人の後ろでモジモジしているコーデリアを見て目を細めた。
二人は親子だけあってよく似ているのがわかった。
きっと、将来はコーデリアも美しくなるのだろうな。
その時は自分の隣にいてくれるのだろうな。
そんな事を考えているとアルバートがコーデリアにキツく当たったのだ。
「コーデリアは謝罪しろ!」
どうもアルバートはコーデリアに当たりが強すぎるのだ。
実の兄からきつく言われたコーデリアは目に涙を一杯に溜めて、いつもの高飛車な物言いから一変してか細い声で謝った。
そのギャップに胸のドキドキが止まらない!!
可愛い、可愛すぎるぞ!! コーデリア!!
多分少しの間ボーッとしていたのだろう。
気づいた時にはコーデリアは走り去ってしまっていた。
「あ……」
アルバートと公爵夫人の会話に入り込むようにここに来た理由を並べ立て、何とかコーデリアを追いかける許可を取るとシモンは部屋から飛び出した。
後ろではアーノルドが「甘やかすなよ!」と言っていたが、そんな事は知ったこっちゃない。
そうしてシモンは勝手知ったる公爵家の庭園に急いだのだった。
シモンが庭園をキョロキョロしながら歩いていると茂みの奥から小さな泣き声が聞こえてきた。
すると一旦収まっていた胸のドキドキが再開して口から飛び出しそうだった。
「泣いてる……のか?」
小さな声で呟くとその泣き声がピタリと止まった。
「そこにいるのはコーデリアなのか?」
「……」
カサリ
シモンが茂みを掻き分けると、コーデリアが少し開けた隠れ家のような場所に座っているのが見えた。
「コーデリア、大丈夫か?」
「……」
小さな頃の大人の様な顔でもなく、婚約者として協力させた時の様な生意気な顔でもなく、怒られて泣いているコーデリアの顔が見たくて、どうしても見てみたくてシモンは大きく一歩を踏み出した。
「コーデリア!!」
コーデリアの顔を覆っている腕を掴むと優しく広げた。
するとコーデリアが恐る恐る顔を上げてシモンの顔を見つめた。
か、か、か、か、か、か、可愛い!!!!
元々可愛らしいが、どうしても我儘で高飛車なイメージがあるコーデリアの泣き顔が大人びた美しい容姿を少し幼くみせていた。
そのアンバランスさにシモンは息が止まりそうだった。
「は、離して……頂戴」
取ってつけた様な高飛車な物言いが、虚勢を張っている様にしか見えない。
少しキツ目の容姿が涙に濡れているのだ。
初めて見るコーデリアにシモンはやばいなと独言た。
この二年の間に積りに積もったコーデリアへの思いが一気に溢れそうになったのだ。
もしかしたら、婚約発表の場でもこんなに近付いたのは初めてかもしれない。
エスコートはしたが、あの時は前王原理主義者を警戒しすぎて、はっきりいってコーデリアのドレスさえ覚えていない。
その後はなるべく接点を持たない様にしていたし、警護の者達の報告を聞くのみだったのだ。
それが、久しぶりに会ったコーデリアのギャップ責めにシモンは破壊寸前だった。
今日は朝から驚いてばかりだ。
こんなに綺麗になったのか!
こんなに美しくなったのか!
こんなに人を惹きつける魅力があったのか!
こんなに可愛らしかったのか!
シモンは思わず天を仰いだ。
は、鼻血が出そうだ……。
「あ、兄に叱られたからと言って、あの様に逃げ出すものではない」
シモンは上を向きながら、何とか言葉をかけた。
いや、もっと違う言葉をかけるのだ!
お前を放っておけないとか、守りたいとか、美しくなったなとかだ!
「え? ……わかったわ」
「あ、いや、違うんだ……。ゔ、駄目だ!!」
もう鼻血が垂れそうだ!!
シモンは掴んでいた手を少し乱暴に離すと上を向いたままその場を立ち去った。
そして、建物の影に入るとハンカチで鼻を抑えた。
「あ、危なかった……」
ハンカチで鼻を抑えながらもコーデリアの目の前で鼻血を垂らさなかった事に安堵していると、今の自分の態度はあまりに酷かった事に気がついた。
手を掴んで…………振り払ってしまった……。
バッとコーデリアの方を振り向くと、肩を落として、俯きながらトボトボと屋敷に戻るコーデリアの後ろ姿が見えた。
「あーーーー! 違うんだ!!」
シモンの叫びはだれにも聞かれずにその場に夢散したのだった。
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