悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第四章 学校生活

29、コーデリア入学します!(コーデリア視点)

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「それでは、行ってまいります」
私はエントランスホールに立つ、この世界での両親に礼を取ると兄であるアルバート兄様に手を引かれて馬車に乗り込んだ。
「気をつけて行ってくるのてますよ?」
心配気なお母様の瞳には涙が浮かんでいるようで私は安心させるように微笑んだ。
「頑張ってきなさい」
いつもは忙しいお父様も今日は見送ってくれた。
私は馬車の窓から大きく手を振ると二人に別れを告げて座席に腰を下ろした。
「コーデリア、大丈夫か?」
いつもは冷たいアルバート兄様も流石に心配してくれるようで嬉しくて笑顔を返した。
なんと言っても深層の令嬢である私は今日がお城以外では初めての外出だった。
バルターク公爵家は表に出ない関係で、私には友達はいないし、お茶会に出たこともない。
シモン王子が来なくなってからは家族以外と話したこともない。
究極の箱入り娘なのです。
「ええ、ありがとう、アルバート兄様」
「お前はまだまだ世間知らずだからな。周りのものをよく見て行動するのだぞ」
一足先に学校に通っているアルバート兄様は学校までの道のり中ずっと私に注意事項を繰り返し話して聞かせた。
最後には三回目となって流石に私も投げやりに返事をした時に馬車が止まった。
「着いたようだな」
アルバート兄様が先に馬車から降りると私に向かって手を差し出してくれたので、わたしはよしっと気合を入れてからアルバート兄様の手を取って馬車から降り立った。
「わーー」
私は初めて見る学校の建物に興味津々なのです。
なんと言っても前世の物語の挿絵そのままなのが嬉しい。
気分は本に入った感じで、ワクワクが止まらなかった。
「どうした?」
「あ、いえ、学校というのは結構大きなものなんですね」
「まぁ、そうだな。なんと言っても数百人が勉強するんだ。広くないとやっていけない。それに学びたいことを自分で探して授業を受けるんだ。楽しいぞ」
「まぁ、楽しみ!」
「さぁ、あちらが入学式が行われる講堂だ。行くぞ」
「はーい」
アルバート兄様は私がキョロキョロ見回しているのを珍しそうに見て不思議そうに首をかしげた。
はっきり言ってこんなに多くの同年代を見るのは初めてで、それだけでキョロキョロしてしまう。
王宮での婚約発表の時も規模自体を縮小したので各主要貴族の当主のみの出席だったからだ。
「さぁ、こちらだ。早くしろ!」
アルバート兄様が少しイライラと言ってきたので私は周りを見るのをやめて兄様に手を引かれるまま講堂に足を踏み入れた。
「…………」
今まで少しガヤついていた講堂内の話し声が一瞬やんだ。
皆こちらを見て口を開けてポカンとした顔をしている。
「……あ、アルバート兄様……」
「気にするな。我が公爵家は物珍しがられるのだ。私の時もそうだった」
「そうなのね」
私はアルバート兄様の言葉に確かに引きこもりの公爵令嬢は珍しいのかと、そのまま指定された席まで行くとアルバート兄様と別れて席についた。
「ありがとう、アルバート兄様」
「気にするな。我が公爵家の恥とならないように行動するように」
「はい」
アルバート兄様が離れると途端に視線が私に向かって集まったように感じる。
でも、だからと言って誰かから話しかけられることもなく居た堪れない雰囲気の中俯いて座っていた。
「おい……。王子が来たぞ!」
「え? シモン王子か?」
「ああ」
シモン王子という言葉に顔を上げると講堂の入り口を振り向いた。
シモン王子とはあの事件の後は婚約発表の時会っただけなので久しぶりの対面だった。
同じ年のシモン王子の背は随分と伸びて多分私よりも20センチは高そうだ。
元々の整った顔立ちは可愛らしかったが、今は格好が良かった。
キラキラと光る金髪に深いブルーの瞳だけでも人目を惹きつける魅力がある。
「え?」
そして、思わず立ち上がったわたしの目にはシモン王子にもたれかかるように手を組んで歩いている少女が飛び込んできた。
「あれは? ミア?」
私はお母様と話したイベントの乗っ取りに出遅れたことに気がついた。
入学式当日からスタートする物語はもう始まっていたのだ。
あの調子ではミアは出会いイベントをこなし、イベント通り気分が良くないと言ってシモン王子に案内されてここにきたのだ。
「でも、おかしいわね。物語だと、シモン王子はお姫様抱っこでミアを抱いて登場するはずなのに……」
どちらかというと少し迷惑そうな顔でミアを引きずるように入ってきたシモン王子はそのまま真っ直ぐに教師席に向かって、ミアを先生に引き渡すとパッパッと腕を払ってこちら向かって歩いてきた。
「コーデリア! 久しいな」
「えっと、はい」
それだけ言うとコーデリアの隣の席にシモン王子は腰を下ろした。
確かに婚約者同士である私とシモン王子の席は一番前の真ん中に並んで用意されているが、約一年ぶりの再会にしては簡単過ぎる。
私は思い切ってシモン王子に話しかけようとした時、司会者が壇上に上がって挨拶が始まってしまった。
仕方なく、そのまま前を向いて入学式に参加する事にしたのだった。
その時、私は全く気付いていなかった。
シモン王子が入学式の間中私の事を見つめていた事も、周りの新入生や在校生さえも私を凝視していたのだ。
それ程までに私という存在は珍しかったし、私の容姿も目立っていたらしい。
全然気がつかなかった私はただシモン王子と何を話せばいいのかを悶々と考えていただけだった。
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