悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第三章 王子改造計画

17、文通……なの?

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「コーデリア?」
数日後、コーデリアの部屋を訪ねると部屋の中は凄い事になっていました。
「まぁ!! 何なの? この便箋の山は!!」
わたくしが呆れたように話すと窓際に立って外を見ていたコーデリアが不満そうに振り返りました。
「だって、しょうがないでしょう? 手紙なんて書いた事ないし、何を書けばいいのかわからないんだもの」
わたくしは散らばっている便箋を拾い上げるとそこに書かれている内容を確認しました。
「貴方の失礼な態度は忘れたわけじゃないけれど、許して差し上げるわ……?」
別の便箋を拾い上げると更に読み上げます。
「お兄様と勉強して少しはマシになったようね……?」
わたくしは落ちている便箋を拾っては読み、拾っては読み致しました。
そこに書かれているのは、まさに悪役令嬢そのままの、言葉だったのです。
「コーデリア……やっぱり、貴女、手紙にも強制力が働いてしまうのね……」
きっとコーデリアは一生懸命優しい手紙を書こうとしたのだわ。
でも、強制力が働いて思うようには書けずこんな事になってしまったのですね。
わたくしは残念そうにコーデリアを見つめました。
するとコーデリアがかなりバツの悪そうな顔をしているのでございます。
「コーデリア?」
「……違うのよ」
「え?」
「違うの! 手紙には強制力は働いていないわ!」
「え? でも、この内容は……」
コーデリアは顔を真っ赤にして答えました。
「は、は、恥ずかしくて……そういう風にしか書けないのよ!!」
肩で息をする見た目五歳のコーデリアの可愛らしさに、わたくしは目を細めました。
「まぁ! そうですの? 真理子さんはラブレターとか前世でお書きになった事はないの?」
「ラブレター? な、な、な、ないわよ!!」
「でも、どうしてそんなに恥ずかしいのですか?」
するとコーデリアはギュッと手を握ると下を向きました。
「だ、だって……この二年話はしなかったけれど、毎日その窓から見ていたもの。お兄様とはどんどん仲良くなるのに……。私の事は全然見てくれないのよ? 私はずっとここから見ていたのに……」
その様子に本物の恋を感じましたわ!
わたくしが思うに、コーデリアは毎日ここからシモン王子を見ている内に恋に落ちてしまったのですわ!
確かにこの部屋からは体操や剣の稽古、魔法の訓練が、見えますものね。
可愛らしいシモン王子が頑張る姿は見えたはずですわ。
でも、恋は自分で気づく方が嬉しいですもの。
わたくしは恋については何も言わずにまず手紙について確認いたしました。
「コーデリア、貴女はどんな内容のお手紙を考えているの?」
「えっと、貴方が色々な事を頑張っているのは知っているから、あの時の事は許してあげる。それに初対面の時に引っ叩いたのは悪かったわ。そんな感じかしら?」
「そうなのね……。それではこんな感じではどうかしら?」
そう言ってわたくしは拾った便箋の空白部分にサラサラと文面をしたためました。
それをコーデリアに手渡したのです。
「す、すごいわ!! どうしてこんな手紙をすぐに書けるのよ!」
「どうしてって、この世界には電話もメールもないんですもの。手紙は大切なコミュニケーション手段ですわ。お父様とも何度も何度も手紙を遣り取りしましたのよ? 懐かしいわぁ」
わたくしがレオポルト様との恋愛期間を思い出しているとコーデリアがポツリとつぶやいた。
「こ、これが経験値なのね……」
そうして、わたくしの書いた手紙お手本にコーデリアは何とか一枚の便箋を書き上げましたわ。
内容も五歳らしく可愛らしい物でわたくしでも読めば頬が緩んでしまう内容でした。
「どうかしら? 大丈夫そう?」
わたくしが手紙を、確認しているとコーデリアが不安そうに聞いてきました。
「ええ! この内容でしたら問題ありませんわ」
コーデリアはわたくしの返事を聞いて、安心したように息を吐きました。
「よ、よかったー」
わたくしは机に突っ伏したコーデリアの頭を何度か撫でてから、キスを落としまた。
「頑張りましたわね。偉いですわ! 早速このお手紙はシモン王子に届けますわね」
「はーい」
少し恥ずかしそうにしているコーデリアを残してわたくしは部屋を出てシモン王子の元に向かいました。
思ったよりも時間がかかってしまったのでもう王宮に帰る時間なのです。

「じゃあ、アルバート兄様、また明日よろしくお願いします」
「ああ、シモン。今日も頑張ったな! 気をつけて帰れよ! でも、母上はどうしたんだろう?」
「シモン王子!」
わたくしは既にエントランスホールに立っている二人に何とか急ぎ足で近づくとほうっと息を吐きました。
「母上、大丈夫ですか?」
「おば様?」
「遅くなってしまってごめんなさいね? シモン王子、今日もよく頑張りましたわ」
わたくしはそう言っていつものようにハグをして、いつものように頬にキスを落としました。
「はい!! 明日も頑張ります!」
「ええ、そして、この手紙なのですが、コーデリアからシモン王子に宛てたものですの」
そうして、コーデリア渾身の手紙をシモン王子に手渡しました。
「わかりました。後でゆっくり、しっかりと読ませて頂きます!」
シモン王子は大切そうに手紙を受け取ると少し恥ずかしそうに笑いましたわ。
わたくしはこれからの二人の関係に胸が膨らむのを止められませんでした。
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