悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

文字の大きさ
上 下
15 / 82
第二章 生まれながらの悪役令嬢

14、王子が我が家にやって来る……なの?

しおりを挟む
わたくしたちは国王夫妻にご挨拶をして、帰路に着きました。
帰りの馬車はレオポルト様も一緒です。
「ところで、コーデリアのビンタは見ものだったな!」
突然堪えきれないという風に笑い声を立てながらレオポルト様が隣に座っていたコーデリアを膝の上に抱き上げました。
「貴方……」
「アルバートも痛快だったのだろう?」
レオポルト様がコーデリアをいい子いい子と撫でながらアルバートに声をかけます。
「……はい。あの王子はぼくの妹に対する態度がなっていませんでした」
アルバートが渋々ながらも自分の気持ちを伝えてきたのです。
「あら? アルバートはいい気味とは思わなかったの? 行きの馬車の中ではあんなに揶揄っていたじゃないの?」
「それは、そうなんですが……。いくらコーデリアが意地悪そうに見えても、初対面で更には自分の婚約者に言うのは、あの、その、許せません」
「そうなのね? お母様は安心しました。アルバートならコーデリアを守ってくれるのね? 嬉しいわ」
わたくしは隣のアルバートの頭を愛しくて撫でました。
そして、レオポルト様に抱かれてこちらを見ているコーデリアに顔を向けると少し怒って言いました。
「コーデリア? 貴女も反省しなくてはいけませんよ? いくら失礼な事を言われたからとはいえ、初対面でビンタはいけませんよ?」
コーデリアは不満そうにしながらもはーいと返事を返しました。
「ああ、アリアドネ、王子の件だが大丈夫だろうか?」
「はい、そちらはお任せくださいませ。アルバートの学友が来るという事で対応致しますわ。わたくし、そろそろ必要かしら?と考えておりましたのよ」
「ああ、そうだな。王子とはいえ、将来は同じ公爵だ。失礼はない様にせねばならないが、特別扱いは無用だよ。」
「はい。承知いたしました」
わたくしは神妙に頷きました。
「アルバートも五歳も年上なのだ。今日の事は水に流して良き友、良きライバル、そして、良き義兄弟という心積りで学ぶのだよ」
「……はい」
アルバートは渋々と頷きましたわ。
「コーデリア、コーデリアは……そうだな。好きにしなさい」
「え?」
思わずわたくしが声を出してしまいました。
「シモン王子の態度が改まらない内は仲良くする必要はないよ。あれだけの失態だ。きちんと反省していただかないとな」
「はい! お父様」
元気の良いコーデリアの返事を聞きながら、レオポルト様は意外にもかなりお怒りだったのだとわかりました。
やはり、婚約破棄となれば大変なことになりそうですわ。
わたくしは早々にシモン王子の再教育を行おうと心に決めました。
そうして、わたくし達は帰路についたのでした。

対面の日から一週間が経ちました。
あの場では明日からと王様は言っておられましたが、やはり色々と準備や手配もあり、一週間後となったのでございます。
更にシモン王子が行きたくない、やりたくないとヘソを曲げてしまい中々難しくなりましたの。
物語の事がなければ、確かに五歳くらいまでは待って差し上げても良かったのですが、三つ子の魂百までもと言いますものね。
三歳の今しか性格矯正は難しいかなと思いましたの。
わたくしは、まず、騎士道精神を学んで頂こうと先生を手配いたしました。
そして、あまり物事をご存知ない様子でしたので、基礎知識を深める為の先生、後は体を鍛える剣の稽古、それにこの世界では重要な魔法の授業を行う事にいたしました。
もちろん授業内容や教師の来歴は全て国王夫妻から許可も頂いております。
わたくしはこれから一週間の予定表を見て確認しているとシモン王子を乗せた馬車が車寄せに着いたのが見えました。
「お母様、王子がきたようです」
「そうね。お迎えいたしましょう」
レオポルト様はお仕事、コーデリアは会いたくないといことで、お迎えはわたくしとアルバートで行うことになりましたの。
わたくしは予定表の紙をドレスの隠しポケットにしまうと笑顔をつくりました。
「シモン王子殿下がいらっしゃいました!」
執事の声と共にドアが開かれて、小さなシモン王子が顔を背けたまま、エントランスに入ってきました。
横を向いて歩くと危ないわ!
わたくしがそう思った瞬間、シモン王子は何もないところで突っかかり転んでしまいました。
わたくしとアルバートは、目が点になりましたわ。
「あ、あの、シモン王子、大丈夫でございめすか?」
慌てて駆け寄って、まだ、小さな王子様の体を助け起こしました。
膝をパンパンと叩いて埃を払うと、その顔を覗き込んでもう一度大丈夫ですか?と尋ねてみました。
「だ、大丈夫だ!」
目に一杯の涙を溜めて答えた王子様は小さな頃のアルバートを彷彿といたします。
「ふふふ」
思わず漏らした笑い声に王子様は肩を怒らせてキッと睨みつけてきました。
「な、何がおかしい!!」
「申し訳ございません。シモン王子が大変可愛らしくて……」
「僕は王子だぞ!! 可愛いとか言うな!!」
「ちょっ!! お母様になんて口の聞き方なんだ!!」
「アルバート、いいのですよ。シモン王子はまだ三歳ですもの。これから貴方が一緒に学んで教えて差し上げなさい」
不満そうなアルバートが小さく返事を返してきました。
「は、はい」
すると流石のシモン王子もアルバートの存在に興味を持ったように言いました。
「おい、お前! 名は何という?」
「僕ですか? 僕の名前はアルバートです。シモン王子」
「ふん、わかった。少しくらいなら仲良くしてやる!」
二人の様子に何とかなりそうだわと頷くと早速控えていた教師陣の紹介を始めました。
「シモン王子、こちらの方々がこれからシモン王子とアルバートの家庭教師をしてくださる方々ですわ。お名前は右から……」
「名前なんていいし、紹介なんて必要ない!!」
「え?」
「どうせコイツらはすぐ辞めていなくなるからな!!」
わたくしが、聞き返すとシモン王子が不満そうに、諦めたように、少し寂しそうに言いました。
「どうしてですの?」
「今までいた奴らは、みーんな直ぐにいなくなったぞ!! 僕がちょっと間違えるといなくなるんだ!!」
「まぁ!」
国王夫妻の過保護はかなりのものだったようでございます。
きっと王子が嫌だ、つまらないと気分次第で言った事を真に受けてしまったのですわ。
だから、シモン王子が物を知らないのではなくて、教わる間もなく教師が入れ替わり立ち替わりしていたと考えた方が良さそうですわ。
あの物語のあの王子はこうして出来上がったのです。
わたくしはシモン王子の目線まで屈むとしっかりとその瞳を見つめました。
「シモン王子、この者達は辞めたり致しませんわ。これからはゆっくりでも、しっかりと学びましょう。」
そう言って、わたくしはにっこりと笑ったのでした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...