悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第一章 悪役令嬢の母

2、前世の記憶……なの?

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わたくしはベッドの中で麻美という女性の一生を全て思い出しておりました。
何が起こっているのかが全く理解できませんが、目を閉じても頭に浮かぶのです。
「この方は……誰なの?」
わたくしは、この物語のような映像の主人公になっておりました。
その女性は麻美という名前で、日本の東京で生まれました。
極普通のサラリーマン家庭に生まれ、極普通の学校に通い、極普通に過ごす女の子でしたわ。
その麻美という少女は明日大人になるという儀式の前に事故で亡くなったようでした。
お可哀想ですわ!
わたくしはあまりに短い麻美の人生に同情を禁じ得ませんでしたわ。
ただ、その麻美にも趣味がございましたの。
それは読書です。
麻美は興味ある事柄を図書館に通って調べたりするのが大好きでしたの。
そこで、出会ったのがライトノベルと言われる小説でした。
初めは興味半分、その後は興味津々で読みあさっておりました。
その中でも大好きだったお話が『魔法の世界で夢を見る』という本のようでした。
このお話は平民に生まれたミアという少女の物語でした。
ミアは平民とはいえ、魔力量が多くて特別に魔法学校に入学するところからお話が始まります。
それは、何故か今現在のサンダル王国のようでした。
ミアは素直で可愛らしく、そして、賢い。
魔法学校では貴族からのいじめや嫌がらせにも負けずに笑顔を忘れず頑張ったのです。
そして、その姿を見てその国の王子や貴族の令息がミアに惹かれ始め、とうとう王子と恋に落ちるというお話でした。
とっても感動しましたわ。
わたくし、頑張る子は大好きですの。
そして、ミアは王子と結婚して、平民初の王妃となるのでございます。
そして、そして、そして、ミアをいじめ、嫌がらせをし、王子に振られて没落する最高の悪役がコーデリアですの。
わたくしは、はぁとため息をつきました。
確かに今まで感じていた違和感はこの記憶によるものだと理解しました。
全てを鮮明に思い出すと、わたくしが貴族や王位に然程魅力を感じていなかったのも、潜在的にこの記憶が働いていたのかもしれません。
そして、コーデリアですわ。
悪役令嬢コーデリアですわ。
勘違いなら嬉しいのですが、今ならフルネームを思い出しましたの。
コーデリア・ド・バルターク。
正に今生まれたわたくしの娘の事です。
ここはあの大好きだった物語の中で、わたくしも、わたくしの家族も登場人物ですのね。
わたくしは、悪役令嬢の母で、レオポルト様は悪役令嬢の父、アルバートは悪役令嬢の兄……ですのね。
わたくしは今度は記憶の中のコーデリアを一つ一つ思い出しました。
コーデリアは美しく、貴族らしい外見と所作をしていたわ。
でも、公爵令嬢で甘やかされた為、我が儘でプライドが高く、貴族至上主義だったわ。
だから、平民のくせに魔力があり、自分よりも可愛らしいミアを徹底的にいじめたのです。
ただ、それは自傷行為に近かった。
その姿を見ていた婚約者の王子はコーデリアに幻滅し、婚約を破棄してミアに走るのです。
その過程で、コーデリアは兄から注意されても直さず、両親の諫言も聞かず、とうとう婚約破棄と同時に縁を切られて修道院に送られてしまうのです。
そこでの生活が耐えきれずに自ら死を選んだはずですの。
わたくしは娘の将来に目の前が真っ暗になりました。
わたくしの可愛い、可愛い、可愛い娘が死んでしまう。
その恐怖に押しつぶされそうでしたわ。
「わたくしは、これからどうすれば良いの?」
まだ、ここが物語の中だと決まったわけではない。
しかし、もし、物語の中だとしたら娘だけは守ってあげたい。
「わたくしは悪役令嬢の母として、娘コーデリアの幸せだけを追い求めますわ!」
大好きだったミアには申し訳ないが、可愛い娘の不幸を見過ごすわけにはいかないわ。
この世界が物語の中だと確信を得たら、わたくしはストーリーを変えるためにあらゆる事をする覚悟を決めた。
「わたくしの可愛いコーデリアを悪役令嬢になんかさせないわ! 負けませんわよ! ミア!」
わたくしは、ベッドの中で闘志を燃やすとそのまま夢の中に落ちていった。
出産後のアドレナリンで気が張っていたが、やはり体は疲れ切っていたのだ。
そうして、わたくしの悪役令嬢の母として生活が始まったのです。
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