悪役令嬢に転生しませんでした!

波湖 真

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危険なルート

27.危機一髪

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「マルセルくん、マルセルくん」
私が呪文のようにマルセルくんの名前を呼んで縋りついた。その脇で殿下がキャリーの捜索を支持しているのが聞こえてきた。
(あっ! キャリー!)
私は自分のことばかりしか考えていなかったことに気づいて顔を上げた。
「もう大丈夫だよ」
直ぐ近くからマルセルくんの甘い声が響くと私の頬がカッと熱くなった。
「あの、す、す、す、すみません……。私ったら……なんという……」
「僕は嬉しかったけどね」
にっこり微笑んだマルセルくんはやっぱりアレクサンドラ様に似ている。
手を離して少し離れようとしていた私をグイッと引き寄せるともう一度抱きしめてきた。
「間に合って本当に良かったーーー」
はーっと息を吐いてマルセルくんは肩の力を抜いた。
「本当にありがとうございました。マルセル様は命の恩人です」
「ははは、もうマルセルくんとは呼んでくれないのかな?」
私の顔は更に熱くなったのだった。

その時奥から騎士が戻ってきた。
「殿下! 誰もいませんでした!」
「本当か? もう一度確認しろ!」
「殿下、爆発物もありません!」
「え? 爆発物?」
アレクサンドラ様が不思議そうに呟いた。
「アレクサンドラ、お前は知っていただろう? あの先生というやつがバクダンマニアだって! いくらなんでも一人で引き受けるには危険すぎる」
殿下が抱き締めていたアレクサンドラ様の顔を覗き込んで叱っていた。
「何を仰っているの? 爆弾なんてわたくし存じ上げませんわ?」
「え??」
殿下がアレクサンドラ様の肩をゆさゆさしながら確認する。
「お前は僕を守るために一人で乗り込んだんじゃ……」
するとアレクサンドラ様は嫣然と微笑んだ。
「嫌ですわ。ヒロインが爆死するようなゲームは存在いたしませんわ。おかしな殿下ですこと」
「な、な、な、なんだとーーー」
殿下は握りしめた拳をどうすればいいのか迷っているようだ。
「ねえさん、殿下が可哀想ですよ。死ぬ程心配してました。騎士を殴り倒して乗り込んで来たんですよ」
マルセルくんが呆れたように声をかける。
「まぁ、だから少し遅かったのね。殿下はもう少し冷静さが必要ですわ」
「だまれ、もうお前は黙れ! でも本当なんだぞ。あいつが爆弾を仕掛ける可能性はあったぞ!」
アレクサンドラ様の足元に崩れ落ちた殿下は悔しげに見上げた。
その視線を受けたアレクサンドラ様は少し考え、そして、私を見つめてから殿下に視線を戻すと。殿下の肩に手を置いて屈み込む。
「殿下は、恋にも負けてしまわれたのね。可哀想ですからわたくしが一緒にいて差し上げますわ」
そっ言ってから殿下の額にキスを落とした。
「これからも、わたくしに振り回されてくださいませ」
「くっ、いくぞ!」
殿下は立ち上がるとスラリとアレクサンドラ様を横抱きにするとスタスタと階段を登っていった。
殿下に続いてその場にいた騎士が引き上げて行く。その時に殿下の大きなため息を吐いたのが聞こえたが、その顔は真っ赤になっていた。
そして、殿下の肩越しにアレクサンドラは私にウインクを投げた。
「え?」
「姉さん…………」
私を未だに抱き締めているマルセルくんが覚悟を決めたように頷いた。
「フルール、君のことが好きだ。いつからとは言えないが君の姿が見えると胸の高鳴りが止まらない。君の姿が見えないと心配で死にそうだ。どうか僕の気持ちを受け取って欲しい」
誰もいなくなった教会の地下室でマルセルくんは私の前に跪く。
「君は姉さん以上に目が離せないよ」
それはどうかと思ったが、私は差し出されたマルセルくんの手をとった。
「私もマルセル様が好きです」
立ち上がったマルセルくんは私の顎に手を添えてクイっと上を向かせる。
マルセルくんの優しい笑顔が迫る。
「フルール、目を閉じて」
囁くようなマルセルくんの声に私は慌てて瞳を閉じた。
するとマルセルくんの唇が私の頬に当たる。
「今はこんな感じ……かな?」
緊張でガチガチの私を揶揄うようにいうと殿下のように私のことを横抱きに抱き上げる。
「あ、歩けます!!」
「殿下に勝てるなんてこの先ないからね。自慢させておくれ。まぁ殿下は勝つ気もなかったかもしれないけど」
そのまま私の重さなど感じていないようにマルセルくんは階段を登った。

階上は大変なことになっていた。大勢の騎士がガヤガヤと行き交っている。
キャリーは無事というか誘拐さえもされていなかったことが分かった。
どうもあの手紙は授業の一環として書かせたらしい。
そのことでも後日アレクサンドラ様と殿下は喧嘩になっていたが、私はキャリーが怖い思いをしていなかったのならそれでよかった。
私はそのままマルセルくんに馬車まで運ばれた。
そして、忙しかった夜はやっと終わったのだった。
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