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危険なルート
24.ベルナールの心配
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ベルナールの前の馬車がゆっくりと停まるのを確認した。
「いくぞ」
マルセルとエドガーに声をかける。
「はっ!」
「はい!」
「お前はどうする?」
そして、もう一人ダニエルには確認した。
「そうですね。俄には信じられませんが本当にフルールは外に出てきたんです。信じるしかないでしょう。行きますよ」
ベルナールは頷くと四人で馬車に向かった。
「アレクサンドラ! どうだったんだ?」
馬車を除くと座席にフルールが横になっていて、その体にはブランケットがかけられている。
「必要なことは教えていただきましたわ」
そう言って笑ったアレクサンドラは美しい。思わず息を呑む。
「秘密の場所は教会の地下室ですわ」
「チッ、教会か……。手出しし難いな」
ベルナールは腕を組んだ。
どこかの倉庫や部屋なら騎士団を呼んでしまえば子供の救出と犯人逮捕は問題なく出来たはずだった。その為にこの一週間は入念に準備してきたのだ。
あの町歩きの後アレクサンドラに聞いたことは顔を顰める様な内容だった。
先生という人間が子供を誘拐して、その交換条件としてフルールを要求するというのだ。
そんなことあるか? というのが第一印象だった。しかし、アレクサンドラの話は本物だと既に知っている。なんと言っても本当にフルールは現れたのだ。
早速ベルナールはマルセルとエドガーと共にその先生を探した。
事件を起こす前に捕らえられれば良いのだ。
だか、それは難しかった。もちろん現時点でなんの事件も起こしていない人間を王子である自分が捕らえることはできない。更に捕らえようにもその前にその先生という人物が消えたのだ。
先生を見たというマルセルにも協力してもらって探したが平民の学校にも自宅にもいなくなっていた。
まぁ、そのことにはアレクサンドラにノロマだ無能だと罵られたが……
次にアレクサンドラが言ったことは事件が起きるのを待つということだった。
その事件は何故か学園に投げ込まれた手紙から始まるらしい。
そこでダニエルに協力を依頼したのだ。
半信半疑で聞いていたダニエルだが、しばらくすると本当に手紙が届いたと連絡があったのだ。ただし、その手紙は読めないと。
アレクサンドラはその手紙をダニエルから受け取るとサラサラと解読してしまう。それにはダニエルも驚きを隠せなかった。
ただ、そこに書かれた文章だけでは場所の特定はできなかったのだ。
もちろんエドガーに町での子供の誘拐事件を調べさせたが、そんな事件は起こっていなかった。
そこでダニエルに頼んでフルールに手紙を渡してもらったのだ。
果たしてアレクサンドラの言う通り、伯爵家から抜け出してきたフルールを誘導して場所を聞きだしたのがアレクサンドラなのだ。
「どうするか」
ベルナールは腕を組んだ。
「教会では騎士団は手を出せない。しかも、事件は起こっていないことになっている。本当にこの子は誘拐されているのか?」
エドガーが不思議そうに呟いた。
するとアレクサンドラがニタリと笑った。
嫌な予感しかない……
「わたくしが参ります」
「姉さん!」
マルセルが声を上げる。ベルナールは頭を抱えてアレクサンドラを見つめた。
「何を言っている?」
「わたくしがフルールさんのフリをして乗り込みますわ!!」
「ダメだ! 危険だ!」
思わず声が出る。本当に心臓に悪い冗談だ。
「ですが、相手は先生です。もしかしたら遠足といって連れ出しているのかもしれません。その場合親は誘拐と思いませんわ」
「だから、何で姉さんが行くんだよ!」
「だから、教会には子供が監禁されている可能性があるのよ。でも、証拠がないと騎士団は入れない。だったら、事件にしてしまえばいいのよ」
「おまっ! 何を言っている!!」
「殿下、これはわたくしの我儘ではありませんわ。ノブレス・オブリージュです。国民を守るのは貴族の務めです」
ベルナールは何も言えなかった。それほどまでにアレクサンドラは美しかった。慈愛と決意。
ベルナールは頷いた。
「……どう言う作戦だ」
「殿下!!! 姉さんを止めてください!!」
マルセルの悲痛な叫びをベルナールは無視した。
「貴族としてといわれたら、僕は王族として返すしかない」
アレクサンドラは目を見張った。
「流石ですわ。わたくしはこのマントのフードを被って教会にフルールさんとして入ります。犯人が接触もしくは囚われた子供を見つけたらこの笛を吹きます」
そういってアレクサンドラは護身の為に首から下げている笛を取り出した。
「わかった。その笛が聞こえたら騎士団と乗り込む。公爵令嬢で王子の婚約者が助けを求めているんだ。問題ない」
「はい。お待ちしておりますわ」
そう言って微笑んだアレクサンドラの手はカタカタと震えていた。
ベルナールはその手をしっかりと握ると少し体を屈めてアレクサンドラの顔をしっかり見つめる。
「無理は絶対にするな。いいな?」
「はい、殿下」
「皆もいいな?」
エドガーは頷くと騎士団へ向かった。マルセルは不満そうだが頷いた。
ダニエルは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「私は肉体労働は苦手です。しかし、事後処理は引き受けます。宰相である父の権力を使っても処理してみせますよ」
「ああ、頼んだ。よし、フルールをあちらの馬車に運んだら教会に向かうぞ」
「はい」
マルセルがフルールを用意していた馬車に移してその場で護衛を手配した。
そして、アレクサンドラ一人を乗せた馬車の後を追うようにベルナール達も教会に向かったのだった。
「いくぞ」
マルセルとエドガーに声をかける。
「はっ!」
「はい!」
「お前はどうする?」
そして、もう一人ダニエルには確認した。
「そうですね。俄には信じられませんが本当にフルールは外に出てきたんです。信じるしかないでしょう。行きますよ」
ベルナールは頷くと四人で馬車に向かった。
「アレクサンドラ! どうだったんだ?」
馬車を除くと座席にフルールが横になっていて、その体にはブランケットがかけられている。
「必要なことは教えていただきましたわ」
そう言って笑ったアレクサンドラは美しい。思わず息を呑む。
「秘密の場所は教会の地下室ですわ」
「チッ、教会か……。手出しし難いな」
ベルナールは腕を組んだ。
どこかの倉庫や部屋なら騎士団を呼んでしまえば子供の救出と犯人逮捕は問題なく出来たはずだった。その為にこの一週間は入念に準備してきたのだ。
あの町歩きの後アレクサンドラに聞いたことは顔を顰める様な内容だった。
先生という人間が子供を誘拐して、その交換条件としてフルールを要求するというのだ。
そんなことあるか? というのが第一印象だった。しかし、アレクサンドラの話は本物だと既に知っている。なんと言っても本当にフルールは現れたのだ。
早速ベルナールはマルセルとエドガーと共にその先生を探した。
事件を起こす前に捕らえられれば良いのだ。
だか、それは難しかった。もちろん現時点でなんの事件も起こしていない人間を王子である自分が捕らえることはできない。更に捕らえようにもその前にその先生という人物が消えたのだ。
先生を見たというマルセルにも協力してもらって探したが平民の学校にも自宅にもいなくなっていた。
まぁ、そのことにはアレクサンドラにノロマだ無能だと罵られたが……
次にアレクサンドラが言ったことは事件が起きるのを待つということだった。
その事件は何故か学園に投げ込まれた手紙から始まるらしい。
そこでダニエルに協力を依頼したのだ。
半信半疑で聞いていたダニエルだが、しばらくすると本当に手紙が届いたと連絡があったのだ。ただし、その手紙は読めないと。
アレクサンドラはその手紙をダニエルから受け取るとサラサラと解読してしまう。それにはダニエルも驚きを隠せなかった。
ただ、そこに書かれた文章だけでは場所の特定はできなかったのだ。
もちろんエドガーに町での子供の誘拐事件を調べさせたが、そんな事件は起こっていなかった。
そこでダニエルに頼んでフルールに手紙を渡してもらったのだ。
果たしてアレクサンドラの言う通り、伯爵家から抜け出してきたフルールを誘導して場所を聞きだしたのがアレクサンドラなのだ。
「どうするか」
ベルナールは腕を組んだ。
「教会では騎士団は手を出せない。しかも、事件は起こっていないことになっている。本当にこの子は誘拐されているのか?」
エドガーが不思議そうに呟いた。
するとアレクサンドラがニタリと笑った。
嫌な予感しかない……
「わたくしが参ります」
「姉さん!」
マルセルが声を上げる。ベルナールは頭を抱えてアレクサンドラを見つめた。
「何を言っている?」
「わたくしがフルールさんのフリをして乗り込みますわ!!」
「ダメだ! 危険だ!」
思わず声が出る。本当に心臓に悪い冗談だ。
「ですが、相手は先生です。もしかしたら遠足といって連れ出しているのかもしれません。その場合親は誘拐と思いませんわ」
「だから、何で姉さんが行くんだよ!」
「だから、教会には子供が監禁されている可能性があるのよ。でも、証拠がないと騎士団は入れない。だったら、事件にしてしまえばいいのよ」
「おまっ! 何を言っている!!」
「殿下、これはわたくしの我儘ではありませんわ。ノブレス・オブリージュです。国民を守るのは貴族の務めです」
ベルナールは何も言えなかった。それほどまでにアレクサンドラは美しかった。慈愛と決意。
ベルナールは頷いた。
「……どう言う作戦だ」
「殿下!!! 姉さんを止めてください!!」
マルセルの悲痛な叫びをベルナールは無視した。
「貴族としてといわれたら、僕は王族として返すしかない」
アレクサンドラは目を見張った。
「流石ですわ。わたくしはこのマントのフードを被って教会にフルールさんとして入ります。犯人が接触もしくは囚われた子供を見つけたらこの笛を吹きます」
そういってアレクサンドラは護身の為に首から下げている笛を取り出した。
「わかった。その笛が聞こえたら騎士団と乗り込む。公爵令嬢で王子の婚約者が助けを求めているんだ。問題ない」
「はい。お待ちしておりますわ」
そう言って微笑んだアレクサンドラの手はカタカタと震えていた。
ベルナールはその手をしっかりと握ると少し体を屈めてアレクサンドラの顔をしっかり見つめる。
「無理は絶対にするな。いいな?」
「はい、殿下」
「皆もいいな?」
エドガーは頷くと騎士団へ向かった。マルセルは不満そうだが頷いた。
ダニエルは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「私は肉体労働は苦手です。しかし、事後処理は引き受けます。宰相である父の権力を使っても処理してみせますよ」
「ああ、頼んだ。よし、フルールをあちらの馬車に運んだら教会に向かうぞ」
「はい」
マルセルがフルールを用意していた馬車に移してその場で護衛を手配した。
そして、アレクサンドラ一人を乗せた馬車の後を追うようにベルナール達も教会に向かったのだった。
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