18 / 30
フルールの自覚
18.特訓
しおりを挟む
「ほら、フルールさん、もっと上から目線ですわ」
「こうですか?」
「ああ、それでは少し意地悪な感じになってしまうわ。もう少し優しくいきましょう。その方がフルールさんにはお似合いだわ」
「えっと、じゃあ、こうですか?」
「ええ! とっても可愛らしくてよ」
私はアレクサンドラ様から日々令嬢としての立ち振る舞いを教えてもらっていた。ただの姿勢や目線だけなのだが、姿勢が変わると歩き方も変わる。視線を変えると見える世界が変わる。
目から鱗とはよく言ったものだ。
「おい、アレクサンドラ。お前が攻略してどうする……」
殿下が特訓中の私達を見てポツリと呟いた。
攻略?
「フルールさん、気になさらないで。わたくしの小姑がうるさいだけですわ」
「誰が小姑だ!」
「殿下のその態度ですわよ! わたくしはフルールさんの恋の準備をしておりますの! 静かに見守っていられないのでしたら王宮に帰られたらいかが?」
「あ、いや、お前を送らねば……」
殿下がゴニョゴニョ言っているのを聞いてほんわかとした気持ちになる。
殿下がアレクサンドラ様を見る視線は甘い。本人もアレクサンドラ様も気付いていないのかもしれないが、最近アレクサンドラ様の側で殿下を見ていると凄く感じるのだ。
確かにアレクサンドラ様が言う通り小姑のように口を挟むが私から見るとアレクサンドラ様に相手してもらえずに拗ねているようにしか見えない。
ふふふっと笑顔になる。
「あら? フルールさん、今の笑顔は素敵ですわ。その笑顔が有れば殿方はイチコロですわ」
「はい」
アレクサンドラ様も不思議な方だった。生粋のお嬢さまかと思えば先程のように砕けた言葉を使い、世情にも詳しい。私が平民時代のことを話すとすこし懐かしそうなお顔をされる。
特にパン屋さんのことを話した時なんて「メロンパンはありますの?!」と顔を寄せて聞いてきた。
そして、最後は「推しも捨てがたいですが、平民落ちもいいかもしれない」と言って考え込むのだ。
それなのに生徒会室から出ると令嬢オーラが凄い。少し怖いくらいだ。なんとなくみんなも遠巻きにみるようだ。
私はアレクサンドラ様こそ、少し笑顔になればいいのにと思うようになっていた。
そうすればきっとみんながアレクサンドラ様を好きになる。
(あれ? そうしたくない殿下の差し金だったりして?)
私は自分の考えを打ち消して、アレクサンドラ様と殿下の言い合いを生温かい視線で見守った。
「フルール? 大丈夫かい?」
横からマルセルくんが心配そうに、声をかけてきた。
「はい」
「ほら、姉さんは変わっているだろう? 確かに令嬢としてのスキルは完璧だけど中身がああだからね。僕はいつも中身がバレないかハラハラしてるよ」
「マルセル様がですか?」
「僕のこの15年は姉さんのフォローのためにあったと言っても過言ではないよ。殿下もだけど」
「えっと、お疲れ様です……」
「あんなに悪役顔なのにね。信じやすく、素直なんだ。騙されやすそうで心配だよ。フルールも気をつけてね」
「え?」
「姉さんを裏切らないように!」
そう言ったマルセルくんの瞳はゾッとするほど真剣だった。いつもの優しげ美形が裸足で逃げ出す。
「も、もちろんです!」
「君には期待してるんだ。姉さんはあんな感じだから同性の友人がいなくてね。たぶんフルールが初めてなんじゃないかな?」
私はアレクサンドラ様の初めての友人候補らしい。その責任に涙が出そうだ。
「あら? マルセル、抜け駆けは良くないわ」
私とマルセルくんがコソコソ話しているとアレクサンドラ様が振り向いて腰に手を当ててプンスカしている。
「そんなんじゃないですよ。姉さんの教え方がわからないじゃないかと思って。ほら、フルールが姉さんみたいな怖い令嬢になったら大変だからね」
マルセルくんはあっという間にいつもの優しげ美形に戻るとにっこりと微笑む。
「まぁ、失礼ね! わたくしはフルールさんに合った仕草を教えているわ。ねぇ、フルールさん?」
「はい! もちろんです!」
マルセルくんの話を聞いたあとだと殿下の視線も痛く感じる。もしかすると殿下も私がアレクサンドラ様に害意がないのかをチェックしているのかもしれない。
ブルッと震えが走ったが私は根性でにっこりと笑う。
心なしかマルセルくんと殿下が頷いていたような….…
「アレクサンドラ様、あのお茶会での話題なのですが……」
私は二人の視線は無視してアレクサンドラ様に質問を繰り返した。
なんだかアレクサンドラ様だけが心の癒しな気がしてきた。
抱きつきたいレベルだ。
アレクサンドラ様は私の質問にいちいち丁寧に返してくれる。
私は今までアレクサンドラ様に同性のお友達がいない理由がはっきりとわかった。
あの二人のチェックをクリアしないといけないのだ。しかも、かなりの確率で落とされてきたのだろう。
はぁっとため息を吐きたいのはグッと我慢した。
そして、アレクサンドラ様に憐憫の気持ちを抱いたことは心の奥底に仕舞い込んだのだった。
「こうですか?」
「ああ、それでは少し意地悪な感じになってしまうわ。もう少し優しくいきましょう。その方がフルールさんにはお似合いだわ」
「えっと、じゃあ、こうですか?」
「ええ! とっても可愛らしくてよ」
私はアレクサンドラ様から日々令嬢としての立ち振る舞いを教えてもらっていた。ただの姿勢や目線だけなのだが、姿勢が変わると歩き方も変わる。視線を変えると見える世界が変わる。
目から鱗とはよく言ったものだ。
「おい、アレクサンドラ。お前が攻略してどうする……」
殿下が特訓中の私達を見てポツリと呟いた。
攻略?
「フルールさん、気になさらないで。わたくしの小姑がうるさいだけですわ」
「誰が小姑だ!」
「殿下のその態度ですわよ! わたくしはフルールさんの恋の準備をしておりますの! 静かに見守っていられないのでしたら王宮に帰られたらいかが?」
「あ、いや、お前を送らねば……」
殿下がゴニョゴニョ言っているのを聞いてほんわかとした気持ちになる。
殿下がアレクサンドラ様を見る視線は甘い。本人もアレクサンドラ様も気付いていないのかもしれないが、最近アレクサンドラ様の側で殿下を見ていると凄く感じるのだ。
確かにアレクサンドラ様が言う通り小姑のように口を挟むが私から見るとアレクサンドラ様に相手してもらえずに拗ねているようにしか見えない。
ふふふっと笑顔になる。
「あら? フルールさん、今の笑顔は素敵ですわ。その笑顔が有れば殿方はイチコロですわ」
「はい」
アレクサンドラ様も不思議な方だった。生粋のお嬢さまかと思えば先程のように砕けた言葉を使い、世情にも詳しい。私が平民時代のことを話すとすこし懐かしそうなお顔をされる。
特にパン屋さんのことを話した時なんて「メロンパンはありますの?!」と顔を寄せて聞いてきた。
そして、最後は「推しも捨てがたいですが、平民落ちもいいかもしれない」と言って考え込むのだ。
それなのに生徒会室から出ると令嬢オーラが凄い。少し怖いくらいだ。なんとなくみんなも遠巻きにみるようだ。
私はアレクサンドラ様こそ、少し笑顔になればいいのにと思うようになっていた。
そうすればきっとみんながアレクサンドラ様を好きになる。
(あれ? そうしたくない殿下の差し金だったりして?)
私は自分の考えを打ち消して、アレクサンドラ様と殿下の言い合いを生温かい視線で見守った。
「フルール? 大丈夫かい?」
横からマルセルくんが心配そうに、声をかけてきた。
「はい」
「ほら、姉さんは変わっているだろう? 確かに令嬢としてのスキルは完璧だけど中身がああだからね。僕はいつも中身がバレないかハラハラしてるよ」
「マルセル様がですか?」
「僕のこの15年は姉さんのフォローのためにあったと言っても過言ではないよ。殿下もだけど」
「えっと、お疲れ様です……」
「あんなに悪役顔なのにね。信じやすく、素直なんだ。騙されやすそうで心配だよ。フルールも気をつけてね」
「え?」
「姉さんを裏切らないように!」
そう言ったマルセルくんの瞳はゾッとするほど真剣だった。いつもの優しげ美形が裸足で逃げ出す。
「も、もちろんです!」
「君には期待してるんだ。姉さんはあんな感じだから同性の友人がいなくてね。たぶんフルールが初めてなんじゃないかな?」
私はアレクサンドラ様の初めての友人候補らしい。その責任に涙が出そうだ。
「あら? マルセル、抜け駆けは良くないわ」
私とマルセルくんがコソコソ話しているとアレクサンドラ様が振り向いて腰に手を当ててプンスカしている。
「そんなんじゃないですよ。姉さんの教え方がわからないじゃないかと思って。ほら、フルールが姉さんみたいな怖い令嬢になったら大変だからね」
マルセルくんはあっという間にいつもの優しげ美形に戻るとにっこりと微笑む。
「まぁ、失礼ね! わたくしはフルールさんに合った仕草を教えているわ。ねぇ、フルールさん?」
「はい! もちろんです!」
マルセルくんの話を聞いたあとだと殿下の視線も痛く感じる。もしかすると殿下も私がアレクサンドラ様に害意がないのかをチェックしているのかもしれない。
ブルッと震えが走ったが私は根性でにっこりと笑う。
心なしかマルセルくんと殿下が頷いていたような….…
「アレクサンドラ様、あのお茶会での話題なのですが……」
私は二人の視線は無視してアレクサンドラ様に質問を繰り返した。
なんだかアレクサンドラ様だけが心の癒しな気がしてきた。
抱きつきたいレベルだ。
アレクサンドラ様は私の質問にいちいち丁寧に返してくれる。
私は今までアレクサンドラ様に同性のお友達がいない理由がはっきりとわかった。
あの二人のチェックをクリアしないといけないのだ。しかも、かなりの確率で落とされてきたのだろう。
はぁっとため息を吐きたいのはグッと我慢した。
そして、アレクサンドラ様に憐憫の気持ちを抱いたことは心の奥底に仕舞い込んだのだった。
1
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる