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フルールの自覚
17.距離が近い
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「フルール!」
「マルセル様、どうかされました?」
「どうかされましたって、フルールこそどうしたんだい?」
私はまだ昨日のショックから立ち直れていなかった。
「すみません。なんでもありません。少し具合が悪くて……」
「それはいけないな。僕が医務室までエスコートしよう」
今度は殿下やってくる。
私は疲れていた。心も体も疲れていた。
手を差し出してくる殿下にも毎朝待ち構えているようなマルセルくんにも!
「いいかげんにしてください!! 私は一人になりたいんです!!」
そう言ってその場から逃げるように走り出した。
「あっ! フルール!」
もう私の中がぐちゃぐちゃだ。貴族になりたくてなった訳じゃないのに貴族らしくならなくてはならなくて。平民のままでいたくてもいられない。
(もう! ほっておいて!!)
私は花畑の中にあるベンチに一人腰掛けた。
「あああぁ、やってしまった……」
少し冷静になってみると殿下とマルセルくんに酷い態度をとってしまったとわかる。
「あれじゃあ、ただの八つ当たりだよ……」
ガックリと肩を落としているとカサリと足音がする。
「フルールさん、どうなさったの?」
「アレクサンドラ様……」
そこに現れたのはアレクサンドラ様だった。
「こちらに座ってもよろしくて?」
「あ……はい」
私はベンチの端に寄った。
するとアレクサンドラ様は隣に腰を下ろすとそのまま本を読み始める。
「…………」
「…………」
沈黙に耐えきれずに話しかけたのは私だった。
「あの……アレクサンドラ様」
「なあに?」
「何も聞かないんですか?」
「まぁ、そうね。殿下やマルセルから泣きつかれたけれど、貴女がウザいと思ってしまったのなら少しはわたくしのせいでもあるの」
「え?」
「フルールさんは今気になる殿方はいて?」
「は?」
「あら? 気になる方がいるのに二人が付き纏って逃げたのではないのかしら?」
私は一瞬アレクサンドラ様が言ったことを考えてボッと頬を熱くする。
「そ、そ、そんな方はいません!!」
するとグイッとアレクサンドラ様が顔を寄せる。
「本当に?」
「は、はい! 先程はあの、少し……お二人に八つ当たりを……」
「八つ当たりですの?」
私はトツトツとアレクサンドラ様に昨日の事を話した。
平民の学校に行くなんてアレクサンドラ様には考えられないだろうが誰かに話さずにはいられなかった。
「……だから、どっちつかずな自分自身に頭にきていたのかもしれません」
やはり人に話すと整理される。そうなのだ。私は自分に怒っていたのだ。
平民に戻りたいけど戻れない。貴族になりたいけどなりきれない。
「そうなのね。帰りたいのに帰れない場所がある気持ちはよくわかるわ」
「え? アレクサンドラ様がですか?」
するとアレクサンドラ様は遠くを見るように視線を上げた。
「ええ……よく……わかるの」
その視線の先には何があるのだろう?
私は何もない空を一緒に見つめた。
「アレクサンドラ様?」
「あら? ごめんなさいね。そうね、わたくし、フルールさんに恋をおすすめしますわ」
「え? 恋?」
「ええ! やはり心を浮き立たせるのは『恋』だと思いますの! 殿下とかどうかしら? とっても真面目ですし、見目も麗しいです。小姑みたいにうるさいですが」
私は殿下とアレクサンドラ様の言い合う場面を思い出してふふふっと笑った。
「そう! その笑顔をもっとお出しになればよろしいのよ! フルールさんはわたくしと違って、とっても可愛らしいんですもの」
私は絶世の美女に可愛らしいと言われて思わず目の前で手を横に振った。
「そ、そんなことをアレクサンドラ様に言われると恥ずかしすぎます! それに今は恋よりも貴族としての勉強をしなければなりません」
私はアレクサンドラ様に話を聞いてもらってやるべきことがわかったのだ。
「私は、平民に戻ることはできません。両親も頑張っているんです。それならば出来ることは貴族としてきちんと自信をつけることだと思います! 恋だの愛だのはその後に考えます!」
私は立ち上がると拳をかかげた。
「凄いですわ!」
アレクサンドラ様に拍手された私は再びストンと腰を下ろす。
「ただ、何をどうすればいいのかがわかりません……」
するとアレクサンドラ様がわたしの手を取った。
「それではわたくしがフルールさんに貴族の心得をお教えしますわ! 高飛車な態度もツンっと澄ました目線も優雅な仕草も得意ですの!」
「ええぇ! アレクサンドラ様が、教えてくださるのですか!?」
「ええ、ただ、可愛らしい態度とかは苦手ですの」
少しモジモジしたアレクサンドラ様は可愛らしかった。
ただ、私はその態度が可愛らしいと思ったことは声にはしなかった。きっとアレクサンドラ様は可愛いと言われたくないだろう。
「私の憧れはアレクサンドラ様のような令嬢です! よろしくお願いします!」
私は立ち上がるとアレクサンドラ様に頭を下げた。いつも思っていたのだ。アレクサンドラ様のようになってみたいと。実は密かに真似したことあった。直ぐに似合わなくて挫折したけど。
「ええ、よろしくてよ。でも、そう言う時はおじぎではなく、淑女の礼をとるものよ」
バサリと持っていた扇を開いてにっこりと笑うアレクサンドラ様はお貴族様そのものだった。私は下げていた頭を上げるとそっとスカートに手を添えて腰を落とした。
「よろしくお願いいたします」
「恋するために一緒に頑張りましょうね。フルールさん」
こうして私とアレクサンドラ様のレッスンは始まったのだった。
「マルセル様、どうかされました?」
「どうかされましたって、フルールこそどうしたんだい?」
私はまだ昨日のショックから立ち直れていなかった。
「すみません。なんでもありません。少し具合が悪くて……」
「それはいけないな。僕が医務室までエスコートしよう」
今度は殿下やってくる。
私は疲れていた。心も体も疲れていた。
手を差し出してくる殿下にも毎朝待ち構えているようなマルセルくんにも!
「いいかげんにしてください!! 私は一人になりたいんです!!」
そう言ってその場から逃げるように走り出した。
「あっ! フルール!」
もう私の中がぐちゃぐちゃだ。貴族になりたくてなった訳じゃないのに貴族らしくならなくてはならなくて。平民のままでいたくてもいられない。
(もう! ほっておいて!!)
私は花畑の中にあるベンチに一人腰掛けた。
「あああぁ、やってしまった……」
少し冷静になってみると殿下とマルセルくんに酷い態度をとってしまったとわかる。
「あれじゃあ、ただの八つ当たりだよ……」
ガックリと肩を落としているとカサリと足音がする。
「フルールさん、どうなさったの?」
「アレクサンドラ様……」
そこに現れたのはアレクサンドラ様だった。
「こちらに座ってもよろしくて?」
「あ……はい」
私はベンチの端に寄った。
するとアレクサンドラ様は隣に腰を下ろすとそのまま本を読み始める。
「…………」
「…………」
沈黙に耐えきれずに話しかけたのは私だった。
「あの……アレクサンドラ様」
「なあに?」
「何も聞かないんですか?」
「まぁ、そうね。殿下やマルセルから泣きつかれたけれど、貴女がウザいと思ってしまったのなら少しはわたくしのせいでもあるの」
「え?」
「フルールさんは今気になる殿方はいて?」
「は?」
「あら? 気になる方がいるのに二人が付き纏って逃げたのではないのかしら?」
私は一瞬アレクサンドラ様が言ったことを考えてボッと頬を熱くする。
「そ、そ、そんな方はいません!!」
するとグイッとアレクサンドラ様が顔を寄せる。
「本当に?」
「は、はい! 先程はあの、少し……お二人に八つ当たりを……」
「八つ当たりですの?」
私はトツトツとアレクサンドラ様に昨日の事を話した。
平民の学校に行くなんてアレクサンドラ様には考えられないだろうが誰かに話さずにはいられなかった。
「……だから、どっちつかずな自分自身に頭にきていたのかもしれません」
やはり人に話すと整理される。そうなのだ。私は自分に怒っていたのだ。
平民に戻りたいけど戻れない。貴族になりたいけどなりきれない。
「そうなのね。帰りたいのに帰れない場所がある気持ちはよくわかるわ」
「え? アレクサンドラ様がですか?」
するとアレクサンドラ様は遠くを見るように視線を上げた。
「ええ……よく……わかるの」
その視線の先には何があるのだろう?
私は何もない空を一緒に見つめた。
「アレクサンドラ様?」
「あら? ごめんなさいね。そうね、わたくし、フルールさんに恋をおすすめしますわ」
「え? 恋?」
「ええ! やはり心を浮き立たせるのは『恋』だと思いますの! 殿下とかどうかしら? とっても真面目ですし、見目も麗しいです。小姑みたいにうるさいですが」
私は殿下とアレクサンドラ様の言い合う場面を思い出してふふふっと笑った。
「そう! その笑顔をもっとお出しになればよろしいのよ! フルールさんはわたくしと違って、とっても可愛らしいんですもの」
私は絶世の美女に可愛らしいと言われて思わず目の前で手を横に振った。
「そ、そんなことをアレクサンドラ様に言われると恥ずかしすぎます! それに今は恋よりも貴族としての勉強をしなければなりません」
私はアレクサンドラ様に話を聞いてもらってやるべきことがわかったのだ。
「私は、平民に戻ることはできません。両親も頑張っているんです。それならば出来ることは貴族としてきちんと自信をつけることだと思います! 恋だの愛だのはその後に考えます!」
私は立ち上がると拳をかかげた。
「凄いですわ!」
アレクサンドラ様に拍手された私は再びストンと腰を下ろす。
「ただ、何をどうすればいいのかがわかりません……」
するとアレクサンドラ様がわたしの手を取った。
「それではわたくしがフルールさんに貴族の心得をお教えしますわ! 高飛車な態度もツンっと澄ました目線も優雅な仕草も得意ですの!」
「ええぇ! アレクサンドラ様が、教えてくださるのですか!?」
「ええ、ただ、可愛らしい態度とかは苦手ですの」
少しモジモジしたアレクサンドラ様は可愛らしかった。
ただ、私はその態度が可愛らしいと思ったことは声にはしなかった。きっとアレクサンドラ様は可愛いと言われたくないだろう。
「私の憧れはアレクサンドラ様のような令嬢です! よろしくお願いします!」
私は立ち上がるとアレクサンドラ様に頭を下げた。いつも思っていたのだ。アレクサンドラ様のようになってみたいと。実は密かに真似したことあった。直ぐに似合わなくて挫折したけど。
「ええ、よろしくてよ。でも、そう言う時はおじぎではなく、淑女の礼をとるものよ」
バサリと持っていた扇を開いてにっこりと笑うアレクサンドラ様はお貴族様そのものだった。私は下げていた頭を上げるとそっとスカートに手を添えて腰を落とした。
「よろしくお願いいたします」
「恋するために一緒に頑張りましょうね。フルールさん」
こうして私とアレクサンドラ様のレッスンは始まったのだった。
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