悪役令嬢に転生しませんでした!

波湖 真

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新しい世界

5.生徒会室

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「だからってここに連れてきてどうするの!」
「そうはいっても捨て置くわけには行かないだろう? それにお前の指示が遅すぎるんだ。いつも、ギリギリだぞ!」
「それは殿下がのろいのですわ!」
私は少しずつ浮上する意識の中で誰かと超絶美形殿下が言い争うのを聞いた。
「ふん! 本当にこの少女が僕の運命なんだろうな?」
「もちろんよ。愛する人が見つかれば穏便に婚約を解消してくれるのよね?」
「王子に二言はない! なんならダニエルとの婚約だって後押しするぞ」
「え? 本当? きゃー嬉しいわ」
「姉さん、そろそろ起きそうですよ」
「あら、まだ会うのは早いわね。じゃあ殿下、ちゃんとやってくださいね」
「ああ、わかってる」
王子相手に随分と砕けた話し方をする人がいるんだなぁ。私はまだフワフワした意識を浮上させる。
「……ん」
頭がガンガンと痛んでいる。私はふぅーと息を吐き出すと痛む頭に手を当てた。
するとそこには冷たいタオルが乗せてあった。
「大丈夫か?」
今度ははっきりと超絶美形殿下の声が聞こえた。
「あの、私……すみません」
そう言って目を開けて辺りを見回す。
超絶美形殿下以外は誰もいなかった。
「あれ? 他の方は……」
「他……。いやここには僕一人だ。君は確かカントループ嬢だな。今日はよく会う」
「あっ、はい! ……イタ」
私は慌てて起き上がるか頭が痛くて再び横になった。
「無理はするな。今カントループ家に使いを出そう」
私はその言葉にハッとした。
「だ、だめです!! お父様とお母様が心配してしまいます!!」
パパはまだしもママにバレたら気合いが足りないとかマナーが増える!
「しかし、君は倒れたんだ。きちんと知らせた方がいいだろう」
超絶美形殿下が不思議そうに首を傾げる。
「そ、それでも! ダメなんです。すみません。すぐに元気なりますから伯爵家には連絡しないでください」
私はもう泣きそうだった。
「一体どうしたんだ?」
私は涙がいっぱいに、溜まったまま顔を見てあげて殿下を見つめた。
「お貴族様のルールが、分からなくて! ちゃんとこの二ヶ月勉強したんです。でも……」
ポロリと涙が溢れるともう止まらなかった。ポロポロと零れ落ちる涙はそのままに私は体にはかけられていたブランケットを握りしめる。
「まぁ、わかった。とりあえず泣き止んでくれ。僕の周りの人間は簡単に泣いたりはしないぞ」
「……はい。すみません……」
私はポケットからハンカチを取り出すと止まらなくなった涙を拭いた。
「全く、アレクサンドラは慰めろと言っていたがどうやるんだ? このイベントはエドガーだったな。エドガーならできるのか? そうは思えん」
超絶美形殿下は何かをブツブツ言いながら私の側までやってきた。
「ふむ、弟妹にする感じか?」
そう言うと結構な力加減でぐちゃぐちゃと頭を撫で回す。
「え? あの……」
「ああ、すまん。慰めるという行為はよくわからん。ただ弟達はこれで大体元気になる」
どこかズレている殿下に私は少し笑ってしまった。
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、君の事情は貴族中がわかっている。戸惑うとは思うがしっかり時間をかけて理解するといい」
「はい! あのそれから、今日は色々と助けて頂いて感謝しています。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はフルール・カントループです。宜しくお願いします」
私はやっとお礼と挨拶をすることができた。
「確かに僕も名乗っていなかったな。僕はベルナール・ラ・ホルジュだ。この国の第一王子だ」
そう言って笑った超絶美形殿下の笑顔に私の顔はボッと火が出るように熱くなった。
(美形の笑顔!! 危険すぎる!)
「で、では、私はこれで……。本当にご迷惑をおかけしました!!」
私は寝かされていたソファから立ち上がるとブランケットを綺麗に畳んでソファの上に置いた。
「わかった。では、送ろう」
そう言って超絶美形殿下が手を差し出した。こ、これは本日二度目のエスコートの手!
私は遠慮がちに手を乗せた。流石に王子様はエスコートがスマートだ。
そのまま部屋の名札を見ると生徒会室だった。なんと超絶美形殿下は何気なく学園内を案内するように歩いてくれた。
所々で立ち止まってここは音楽室だ、ここは実験室だと説明してくれる。
(流石王子様は国民に優しい!!)
私はこんな殿下が王子様で良かったと心から思った。
「で、ここが君の教室だな。もしまた具合が悪くなるようならきちんと家に帰るんだ。いいな?」
「はい、ご親切にありがとうございました」
私はエスコートされた手を外すと頭を下げた。
「じゃあ」
片手を上げて颯爽と去っていく超絶美形殿下は絵になる。
私はさっきまでの疲れた気持ちがスッキリとなくなっているのを感じた。その時丁度チャイムがなる。
「ああああ、お昼を食べ損ねてしまった!! 殿下も!!」
私は小さくなった超絶美形殿下の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
お貴族様でも素敵な人はちゃんといるんだ。
それが心強く響いた。
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