悪役令嬢に転生しませんでした!

波湖 真

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新しい世界

2.入学

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「お嬢様、王立学園に到着いたしました」
馬車に揺られてうつらうつらしていたらドアをコンコンと叩かれる。
私は慌てて姿勢を正すと返事を返す。
「あ、はい。ありがとうございます」
「失礼いたします」
御者さんがドアを開けてくれる。私はそのまま馬車から降りようとすると御者さんが慌てて手を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
私はマナーの中の馬車から降りる時は必ずエスコートしてもらうという言葉を思い出してその手をとった。
コツン
私は馬車から降りると目の前に広がる光景に目を見開いた。
て、天国だ……。
馬車から見えるのは学園のシンボルと言われている優美な時計塔とその向こうに広がる一面の花畑だ。その花の中を綺麗な人達がお散歩している。
「きっれーー」
「は?」
御者さんが不思議そうな顔をしている。
私は慌てて口を閉じると笑顔を作った。
「わざわざ送ってくれてありがとうございます。えっと、では、行ってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
御者さんがにっこり笑ってくれる。
私は少しほっとして手を振った。すると御者さんが驚いたように目を大きくしたが小さく手を振りかえしてくれた。
「フルールお嬢様、帰りもこちらでお待ちしております」
「あ、ありがとうございます」
私は深々と御者さんに頭を下げるといよいよ学園のなかに向かって歩きだした。
(き、きんちょーする。こんなフカフカな絨毯なんて初めてだわ。はっ! もしかしてここは先生専用の通路かしら?)
私はキョロキョロと周りを見渡した。すると少し先に佇む生徒を発見する。
「あの! すみません!!」
私がその生徒に向かって走り寄ろうと思ったその時絨毯の上の何かに躓いてしまう。
「きゃあ!」
倒れそうになった私は顔から血の気が引いた。その理由は制服だ。何故なのかはわからないがこの学園の制服は真っ白なのだ。
(白なんて汚れる色は今まで着たことがなかったのに! 汚れる!!!)
目をギュッと閉じて衝撃に備えた時、ガシッと身体を支えられた。
「え?」
すると頭の上からとっても上品で素敵な声が聞こえてきた。
「大丈夫かい? 怪我は?」
私はガバッと起き上がると白い制服が汚れていないかを確認する。
(よ、良かったー。汚れてないわ)
「はい! ありがとうございます。制服は汚れませんでした!!」
「制服? ……本当だったのか」
「え?」
私はその時初めて助けてくれた人の顔を見た。
(ま、眩しい!!!!! 麗しい!! 人間!!)
そのお顔は神だった。ヤバいくらいのお貴族様フェイスだ。
(お、お貴族様だわ。不敬罪? 叩かれる?)
私は目をギュッと閉じて叩かれる衝撃に備える。
私の友達はお貴族様の馬車に水が跳ねたといって叩かれたと言っていた。
転んだとはいえこんな素敵なお貴族様の手を煩わせるなんて、ヤバい!
すると目の前のお貴族様は優しく頭を撫でた。
「どうしたんだ? 僕を見ろ」
「ヒッ!」
私はゆっくりと恐る恐る目を開けた。目の前には超絶美形のお貴族様だ。
そのご尊顔は目が潰れるほどのものだ。柔らかなスカイブルーの髪と深い藍色の瞳をした凄い美形だ。
「だ、大変申し訳ございません。お貴族様の手を煩わせてしまい……。ほ、本当にすみませんでした!!」
「え、あ、いや、それは構わない。……聞いていた通りだな」
「え?」
「いや、なんでもない。それよりも何か困っているのか?」
私はその時このフカフカ絨毯を、思い出す。
「あ、あのここは私が歩いてもいい場所なのでしょうか?」
私が不安そうに尋ねるとその超絶美形さんは手を額に当てて笑い出す。
「はははははは、成る程! 確かにその通りだ!」
「えっと」
「ああ、失礼。こちらの話だ。ここは君が歩いてもなんら問題はない。君は新入生のフルール・カントループ嬢で間違いないか?」
超絶美形さんは笑いを収めると私の名前を確認してきた。
(はっ! この人はもしかして案内係の人なのでは!)
「はい。お待たせして申し訳ありません。案内係の方ですか? 今日はよろしくお願いします。あと、先ほどは助けていただきありがとうございました」
私はそう言って頭を下げた。
(こんなに優しいんだもの。お貴族様じゃないかもしれないわ。制服が無事だったのはこの人のおかげだし)
「本当に僕がわからないのか? 凄いな」
「はい?」
「いや、僕は通りかかっただけだ。折角だし教員室まで案内しよう」
そう言ってその超絶美形さんは私に手を差し出した。
(こ、これはエスコートのサイン!!)
私は恐る恐る手を差し出された手の上に乗せた。
(お貴族様ルールその一だ。エスコートは断らない! 伯爵家以外の人にエスコートされるのは初めてなのだ。緊張して手汗をかいてしまう)
「じゃあ、案内しよう。こちらだよ」
「は、はい! よろひくお願い致しまする」
(か、噛んだ!!)
「ははは、気にすることはない。丁度僕も先生に用事があったんだ」
超絶美形さんはそのご尊顔でにっこりと笑った。なんとなく怖い。
私は顔を引き攣らせて手を引こうとするがエスコートされている手はガッチリと掴まれていて外すことは出来なかった。
(あれ? エスコートの手は乗せるだけのはずじゃあ?)
私は疑問に思ったがそんなことをこの超絶美形さんに、聞けるはずもなく手を引かれるままに歩くしかなかった。
「君は少し痩せ過ぎじゃない?」
歩きながら超絶美形さんが聞いてくる。
(これって失礼な質問なのでは?)
それでも私にはこのお貴族様に反論する勇気はなかった。
「す、すみません!! あの、太れないようです!!」
私が立ち止まって気をつけをしながら答えると今度はクククっと笑って私を見下ろした。
(背が高すぎるのよ!! この美形!)
「あの、何か?」
「ああ、ごめんよ。いやー本当にいたんだね。ああ、ここが教員室だよ」
超絶美形さんはそういうと教員室のドアをノックした。
「失礼します。今日の新入生を連れてきました」
一歩中に入ると先生達が慌てて集まってきた。
「殿下!! わざわざありがとうございます」
「殿下?」
私が不思議そうに超絶美形さんを見つめる。
その間の抜けた顔が面白かったのかまたまた笑い出すと超絶美形さんがやっと手を離してくれた。
「君に会えてよかったよ。これからもよろしくね」
それだけ言うと先生に視線を送って殿下と呼ばれた超絶美形さんは教員室から出て行ってしまった。
(用事があるんじゃなかったのか?)
そんな私の疑問は先生の言葉で消え去った。
「君は知らなかったのかい? あのお方はこのホルジュ王国の王子ベルナール様だよ」
「え? ええええええ!!!」
私の絶叫が教員室に響いたのだった。
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