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新しい世界
1.伯爵令嬢になりました
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私はまだ見慣れない部屋を見回した。
私の名前はフルール・カントループ。
最近伯爵令嬢になりました。というか家族で伯爵家になりました。
何故なら私のパパは頑固なお爺さんからママとの結婚を反対されて駆け落ちした過去がある。
それが半年前突然お爺さんがパパを呼び出したのだ。病気でもう長くないと聞いたママがパパの背中を押して長年のわだかまりを解消したことが始まりだ。
その後お爺さんは私やママも呼び寄せてなんとなーく穏やか日々を過ごすと二ヶ月前に呆気なくこの世を去ってしまった。
最期はママのことをパパよりも信頼していた感じだった。
そして、お爺さんの持っていた伯爵位は遺言によりパパが引き継ぐことになった。
私はそんな事情なんかなんにも知らずパパは学校の先生で祖父母はもういないんだろうなぁと思って生きてきたからびっくりな半年間だった。
ママは腕のいいお針子をしていたから生活も普通に暮らせるくらいなものだったし、苦労らしい苦労はしたことがない。
友達も沢山いたし、家族と仲がいい。だからお貴族様になると聞いてもふーんというくらいだった。
それが間違っていたと気づいたのはこのお屋敷にやって来てすぐだった。
貴族言葉に暗黙の貴族ルール、使用人達。慣れないことばかりだった。
それでも私は自分の手を胸の前でグッと握ると気合を入れる。
「がんばろ! 私!」
私がベッドの上でガッツポーズをしていると寝室のドアがノックされた。
「お嬢様、お目覚めでしょうか?」
私は慌てて起き上がった。
「あ、すみません。今起きます。寝坊しました。ごめんなさい」
私が謝罪しながらベッドから降りようとすると侍女のアンナが優しく手を取った。
「お嬢様、全く問題ございません。もし、お疲れでしたらもっとゆっくりして頂いてもよろしいのですよ」
「あ、ありがとうございます」
私は顔を真っ赤にしてベッドに戻った。だって慣れていないのだ。常に人にお世話してもらうなんて今までの生活では考えられない。
既にこのお屋敷にきて半年も経つのにいつもおどおどしてしまう。
そんな私にもみんなとても優しいのだ。
どんなに私が失敗しても誰も怒らないし殴らない。それが不思議な気がするくらい。
「あ、あの……お父様と……お母様は?」
まだパパママと呼びそうになってしまう。
「旦那様と奥様はモーニングルームでお食事中でございます」
私は慌ててもう一度ベッドから降りた。
「私もモーニングルームに行きます。ご挨拶しなくては!」
部屋からも出ようとする私をアンナはやはり優しくでもしっかりと止める。
「お嬢様、お着替えを先にいたしましょう」
有無を言わせない言葉に私はうっと詰まって頷いた。
「そ、そうね。宜しくお願いします」
そう言って頭を深く下げた。
本当なら私は自分で着替えられるがこの伯爵家では侍女に着替えさせてもらわないといけない。
私はやっと慣れたこの着替えの儀式のために立ち止まって両手を上げた。
「失礼いたします」
アンナがテキパキと私の夜着を剥ぎ取ると可愛らしい水色のドレスを着付けてくれる。その様子を鏡に映る自分を見ながら確認した。
私の髪は金髪だがふわふわとまとまりのない髪でくるくると巻いてしまうのだ。アンナはそんなまとまりのない髪を上手に纏めてハーフアップに編み込んでくれる。すると痩せっぽちの身体でもなんだか本当のお嬢様になったような気がする。
「お嬢様、とても可愛らしいですわ。ご覧ください。お嬢様の瞳に合わせた空色のドレスがとてもよくお似合いですわ」
満足気のアンナに御礼を言うと私はマナー違反にならない程度の早足でモーニングルームに向かった。
ここに来たばかりの頃は走り回って注意されたなぁ。
少し前の話なのになんだか遠い昔のように感じた。
私はモーニングルームに辿り着くとドアを遠慮がちにノックした。
「お入り」
ガチャ
ドアを開けると私は最近習った淑女の礼をとった。
「おはようございます。お父様、お母様」
するとお母様がテーブルから立ち上がって私を抱きしめた。
「おはよう。フルール、よく眠れたかしら?」
ママはなんか初めからお貴族様になりきってるよねー。
「はい、ありがとうございます。お母様」
「さぁ、食事にしましょう」
私は手を引かれてテーブルに着くと今度はパパから声をかけられる。
「フルール、おはよう。よく眠れたようでよかったよ。少しは慣れたかい?」
「はい、ありがとうございます! お父様」
パパはこの家で生まれ育ったはずなのにこの半年で私よりもぐったりとして、今日も目の下がクマだらけだ。伯爵としてお貴族様の中でやっていくのは大変らしい。
私とパパはよく寝る前に自分達の愚痴を言い合って慰め合っているのだ。
「そうだ、フルール。今日から学園が始まるんじゃなかったかい?」
「はい、お父様。今日から王立学園に行ってきます」
「フルール、大丈夫? まだ、行儀見習いが足りなくない?」
私はブンブンと顔を横に振った。もうこの屋敷の中でビシバシとお貴族様ルールを勉強するのは嫌なのだ!
この伯爵家に来てから半年間私は詰め込み貴族教育を受けていた。
「いえ、それよりも少し遅れて入学になってしまったからもう遅れを取りたくありません」
お母様が心配そうに私の手を取った。モーニングルームはサンルームとなっていて暖かな春の日差しが感じられるこじんまりとした部屋だった。私は暖かな日差しの中にっこりと微笑んだ。
「そうね。フルールは頭はいいんだもの。他の貴族になんか負けないわね! 頑張りなさい」
「ママ………」
「おかあさまよ!」
「まぁ、いいじゃないか。フルール、君は誰がなんと言おうとカントループ家の娘だよ。胸を張って行きなさい」
「はい、お父様」
そう、勉強は得意なのだ。大学で教師をしていたパパに小さい頃からいろいろ教えてもらっている。そして、ママからは負けず嫌いを受け継いだのだ。
本来なら二ヶ月前が入学式だったのだが、貴族としての立ち振る舞いやマナーを身につけるため二ヶ月遅れでの入学となっている。
なんとか付け焼き刃だがマナーも一通り覚えた為の今日からなのだ。
「学園には馬車で送らせよう。困ったことがあったら必ず言うんだよ」
不安気なパパに自分の不安を押し殺して「はい」っと頷いたのだった。
私の名前はフルール・カントループ。
最近伯爵令嬢になりました。というか家族で伯爵家になりました。
何故なら私のパパは頑固なお爺さんからママとの結婚を反対されて駆け落ちした過去がある。
それが半年前突然お爺さんがパパを呼び出したのだ。病気でもう長くないと聞いたママがパパの背中を押して長年のわだかまりを解消したことが始まりだ。
その後お爺さんは私やママも呼び寄せてなんとなーく穏やか日々を過ごすと二ヶ月前に呆気なくこの世を去ってしまった。
最期はママのことをパパよりも信頼していた感じだった。
そして、お爺さんの持っていた伯爵位は遺言によりパパが引き継ぐことになった。
私はそんな事情なんかなんにも知らずパパは学校の先生で祖父母はもういないんだろうなぁと思って生きてきたからびっくりな半年間だった。
ママは腕のいいお針子をしていたから生活も普通に暮らせるくらいなものだったし、苦労らしい苦労はしたことがない。
友達も沢山いたし、家族と仲がいい。だからお貴族様になると聞いてもふーんというくらいだった。
それが間違っていたと気づいたのはこのお屋敷にやって来てすぐだった。
貴族言葉に暗黙の貴族ルール、使用人達。慣れないことばかりだった。
それでも私は自分の手を胸の前でグッと握ると気合を入れる。
「がんばろ! 私!」
私がベッドの上でガッツポーズをしていると寝室のドアがノックされた。
「お嬢様、お目覚めでしょうか?」
私は慌てて起き上がった。
「あ、すみません。今起きます。寝坊しました。ごめんなさい」
私が謝罪しながらベッドから降りようとすると侍女のアンナが優しく手を取った。
「お嬢様、全く問題ございません。もし、お疲れでしたらもっとゆっくりして頂いてもよろしいのですよ」
「あ、ありがとうございます」
私は顔を真っ赤にしてベッドに戻った。だって慣れていないのだ。常に人にお世話してもらうなんて今までの生活では考えられない。
既にこのお屋敷にきて半年も経つのにいつもおどおどしてしまう。
そんな私にもみんなとても優しいのだ。
どんなに私が失敗しても誰も怒らないし殴らない。それが不思議な気がするくらい。
「あ、あの……お父様と……お母様は?」
まだパパママと呼びそうになってしまう。
「旦那様と奥様はモーニングルームでお食事中でございます」
私は慌ててもう一度ベッドから降りた。
「私もモーニングルームに行きます。ご挨拶しなくては!」
部屋からも出ようとする私をアンナはやはり優しくでもしっかりと止める。
「お嬢様、お着替えを先にいたしましょう」
有無を言わせない言葉に私はうっと詰まって頷いた。
「そ、そうね。宜しくお願いします」
そう言って頭を深く下げた。
本当なら私は自分で着替えられるがこの伯爵家では侍女に着替えさせてもらわないといけない。
私はやっと慣れたこの着替えの儀式のために立ち止まって両手を上げた。
「失礼いたします」
アンナがテキパキと私の夜着を剥ぎ取ると可愛らしい水色のドレスを着付けてくれる。その様子を鏡に映る自分を見ながら確認した。
私の髪は金髪だがふわふわとまとまりのない髪でくるくると巻いてしまうのだ。アンナはそんなまとまりのない髪を上手に纏めてハーフアップに編み込んでくれる。すると痩せっぽちの身体でもなんだか本当のお嬢様になったような気がする。
「お嬢様、とても可愛らしいですわ。ご覧ください。お嬢様の瞳に合わせた空色のドレスがとてもよくお似合いですわ」
満足気のアンナに御礼を言うと私はマナー違反にならない程度の早足でモーニングルームに向かった。
ここに来たばかりの頃は走り回って注意されたなぁ。
少し前の話なのになんだか遠い昔のように感じた。
私はモーニングルームに辿り着くとドアを遠慮がちにノックした。
「お入り」
ガチャ
ドアを開けると私は最近習った淑女の礼をとった。
「おはようございます。お父様、お母様」
するとお母様がテーブルから立ち上がって私を抱きしめた。
「おはよう。フルール、よく眠れたかしら?」
ママはなんか初めからお貴族様になりきってるよねー。
「はい、ありがとうございます。お母様」
「さぁ、食事にしましょう」
私は手を引かれてテーブルに着くと今度はパパから声をかけられる。
「フルール、おはよう。よく眠れたようでよかったよ。少しは慣れたかい?」
「はい、ありがとうございます! お父様」
パパはこの家で生まれ育ったはずなのにこの半年で私よりもぐったりとして、今日も目の下がクマだらけだ。伯爵としてお貴族様の中でやっていくのは大変らしい。
私とパパはよく寝る前に自分達の愚痴を言い合って慰め合っているのだ。
「そうだ、フルール。今日から学園が始まるんじゃなかったかい?」
「はい、お父様。今日から王立学園に行ってきます」
「フルール、大丈夫? まだ、行儀見習いが足りなくない?」
私はブンブンと顔を横に振った。もうこの屋敷の中でビシバシとお貴族様ルールを勉強するのは嫌なのだ!
この伯爵家に来てから半年間私は詰め込み貴族教育を受けていた。
「いえ、それよりも少し遅れて入学になってしまったからもう遅れを取りたくありません」
お母様が心配そうに私の手を取った。モーニングルームはサンルームとなっていて暖かな春の日差しが感じられるこじんまりとした部屋だった。私は暖かな日差しの中にっこりと微笑んだ。
「そうね。フルールは頭はいいんだもの。他の貴族になんか負けないわね! 頑張りなさい」
「ママ………」
「おかあさまよ!」
「まぁ、いいじゃないか。フルール、君は誰がなんと言おうとカントループ家の娘だよ。胸を張って行きなさい」
「はい、お父様」
そう、勉強は得意なのだ。大学で教師をしていたパパに小さい頃からいろいろ教えてもらっている。そして、ママからは負けず嫌いを受け継いだのだ。
本来なら二ヶ月前が入学式だったのだが、貴族としての立ち振る舞いやマナーを身につけるため二ヶ月遅れでの入学となっている。
なんとか付け焼き刃だがマナーも一通り覚えた為の今日からなのだ。
「学園には馬車で送らせよう。困ったことがあったら必ず言うんだよ」
不安気なパパに自分の不安を押し殺して「はい」っと頷いたのだった。
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