悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第四章 運命との決別

68、地球の二人

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ローレンスはサオリの肩に手を置いた体勢のまま雑踏の中に立っていた。周りを見回すと皆サオリが着ていたような変な服を着ている。森の中に居たはずなのに木など一本もない。その事実にただただ唖然とするしかなかった。

「あの~すみません。手を退けて頂けますか?日本語わかります?」

サオリの声に我に帰ったローレンスはその姿に驚愕した。サオリが若返っているのだ。着ている異世界の服は少しくたびれているし肌身離さず持っていたスマホと呼ばれる機械の画面も真っ暗なままなのにサオリ自身は初めてあった時と同じくらいの年齢に見えた。

「サ、サオリ?」

「え?私の名前知ってるの?やだ、気持ち悪い!ちょっと離して!」

すると今までこちらに注意を払わずに通り過ぎていた通行人が立ち止まり怪訝な顔をしている。ローレンスはハッとしてサオリの肩を離した。

「本当にキモい!カッコ良くても勝手に名前とか調べないで!!もう付いてこないでよ!!」

「サ、サオリ!!待ってくれ!!ここはどこなんだ?おい!!」

ローレンスがサオリの腕を掴もうと手を伸ばすとその手を振り払ってサオリは駆け出した。

「やだ?何語?全然わからないのに名前だけって最悪!あーあスマホの充電も切れちゃったじゃない!!」

ローレンスの姿が雑踏の中で見えなくなるとサオリはうんともすんとも言わないスマホを持って家に帰った。

「ただいま~。」

「お帰り、サオリちゃん。早かったのね。」

「うん、スマホの充電なくなっちゃって、、。そうそうママさっき変な外国人に声かけられたのよ!!」

「外国人?」

「うん。見た目はすご~く格好良かったけど私の肩を掴んで名前を呼んだの~。怖くない?」

「やだ!本当?パパに言って家の周りを見てきてもらわなくちゃ。」

そう言ってサオリの母はパタパタと家の中に戻っていった。サオリはそのまま階段を上り二階の自室に入るとベッドの上の荷物に目を止めた。ネット通販で買った本が届いたのだ。早速包みを開けると今日発売予定のライトノベルが入っていた。これは大好きなシリーズの続編だ。内容はまだ明らかになっていなかったが楽しみにしていた。

「きゃ~!もう届いた!!」

サオリが手に取った表紙の絵を見て首を傾げた。初めて見る表紙なのに何処かで見たことがあるのだ。

「どこでみたんだろ?」

少し考えてからサオリはポンッと手を叩いた。

「わかった!!これさっきの外国人に似てるんだ!!」

このシリーズのヒーローの王子様にそっくりだったのだ。

「ローレンスが現実にいたらあんな感じよね?逃げちゃったのはもったいなかったかな?でも結構おじさんだったよね。あ~やっぱり気持ち悪!」

サオリは制服から私服に着替えてハンガーに掛けた。その時制服のポケットから小さな指輪が転がりでた。

「ん?何?この指輪?」

拾って明かりにかざすとキラキラと輝いて見えた。

「でも、こんなにおおきなダイヤなんてあるわけないか?ガラスかな?でもどうして私の制服に?」

サオリの疑問は尽きないが、まぁいいかと指輪は机に置いてからバフンとベッドに横になって早速本を読み始めた。
その本のタイトルは『アッカルドに恋して』と書かれていた。



「サオリ!!」

人混みの中でサオリを見失いローレンスはパニックに陥っていた。一時立ち止まっていた人々も再び動き出した。そうなると誰一人としてローレンスに気を止める人はいなかった。
幸いなのか不幸なのかローレンスは二十八歳のままだった。そして、ここがサオリが言っていたニホンなら危険は少ないはずだ。ローレンスはサオリのニホン自慢を懸命に思い出していた。ある意味サオリの苦労を身をもって思い知るローレンスだった。

「やだ?、コスプレ?」

「コミケの場所知らないのかしら?」

「ちょーカッコよくない?声かける?」

ローレンスの姿は中世風の貴族だ。旅装だからまだ目立たないがやはりこのビル街では浮きまくる。周りからヒソヒソとはささやかれるが誰一人として話しかけるものはなくローレンスは途方に暮れた。

「助けてくれ!!」

ローレンスの叫びは雑踏の中に消えた。
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