悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

文字の大きさ
上 下
67 / 71
第四章 運命との決別

67、わたくし、復讐しました

しおりを挟む
クローディアは森の近くに数日滞在後に王宮に戻る事にした。
結局ローレンスとサオリは現れず、数名のローレンスの側近が戻っただけだった。カーティスは全ての罪を背負ってこれから厳罰に処せられるだろう。だが、クローディアはその事を止める事はしないし、したくはない。確かに制裁リストの上位にいたが森で蹴り上げた事で個人的な復讐は済んだと思っている。
もう関わりたくないというのが本音だった。

「クローディア!準備は出来たか?」

「はい。ビクトル様。」

「じゃあ行くか。帰りはローレンス王達が乗っていた馬車もあるがどうする?」

「早く帰りたいのでご迷惑で無ければ馬に同乗させて頂けますか?」

「ああ、わかった。」

そう言ってビクトル王子は当然のようにクローディアの手を掴むと愛馬の方に歩き出した。クローディアも今ではビクトル王子の手に馴染みすぎて違和感は感じなかった。

「ビクトル様、カーティスは?」

クローディアの問いかけにビクトル王子の頬がピクリとした。

「あいつは、、、やばい奴だな。いや、そうだとは思っていたのだ。前々からクローディアに向ける視線が異常だったからな。今は箍が外れた感じだ。」

「え?」

「なんというか、、、クローディアが相手にしていない事を、、、その、、、喜んでいる。」

「喜ぶ?」

「ああ、なんだかクローディアに無視される快感に浸っているらしい。」

クローディアは怪訝な顔をしたが自己防衛本能が働いたのか話題を変えた。

「そ、そうですか、、。それよりビクトル様はローレンス王とサオリ王妃についてどう思われますか?」

クローディアの質問にビクトル王子は手を顎に当てて答えた。

「ふむ、難しいがカーティスが暗殺していないのならば本当に森の中で迷子なのか、はたまた人知れずセドアに渡ったか、それか本当に異世界に帰ったかだな。」

「ローレンス王もですか?」

「それ以外はないだろう。」

「ビクトル様の記憶ではどうなのですか?」

「王妃は帰れない。セドアに捕まって殺される。それが発端で戦争になるのだ。セドアからはなんと?」

「数名の貴族があちら側の出口から出て来たようです。全員亡命を希望しているそうなのでそのままセドアの国民となるはずですわ。」

「そうか、、、では、王夫妻が不幸にも行方不明になった事件ということか。」

「はい。その責任はカーティスとこちらに残った貴族が負います。」

「カーティスが厳罰、貴族達は蟄居という所だな。」

「ええ、ローレンス王達が未だに現王ですから責任は重いですわ。」

二人は馬まで歩いて先にビクトル王子が跨るとクローディアに手を差し出す。クローディアはその手を当然のように掴んでビクトル王子の前に跨った。

「では、暫くは事後処理で忙しくなりそうだな。」

「ええ。でも、戦争よりはずっと良いですわ。」

「ああ、私もそう思うよ。」

そうして二人はそのまま馬を走らせて王宮に戻ったのだった。
王宮に着くと通用門を行きと同じ目立たない時間に潜り直ぐにバーナードと合流して自室に戻った。なんといってもクローディアは体調を崩して寝込んでいるはずなのだ。誰にも見つかるわけにいかなかった。クローディアは自室でしっかりと寝巻きに着替えるとやっとホゥと息を吐いて落ち着いた。

「改めまして、おかえりなさいませ。」

「ありがとう、バーナード。こちらはどうでしたか?」

「何とかバレずに済みました。何度かシャルロッテ様かお見舞いいらっしゃいましたがうつると大変だといってお引き取りいただいております。」

「わかったわ。シャルロッテにはわたくしが後でお礼をいうわ。」

「後は?」

「クローディア様が行ってらした辺りの宿屋から損失補填の申込書が届きましたので、手紙の指示通り支払っておきました。」

「ありがとう。」

クローディアはその間に侍女達が用意してくれたお茶を手に取ってゆっくりと飲んだ。やっと帰ってきたと実感した。

「あちらではローレンス王達には一歩及びませんでした。」

「そうでございますか。」

「ローレンス王とサオリ王妃は護衛も連れずに森に入り行方不明です。」

「そうでございますか。」

「王を守れなかった責任でカーティス以下の貴族は捕縛されました。」

「はい。」

「バーナード、わたくし、カーティスを蹴り飛ばしたわ!」

「、、、、そうでございますか、、、。それは、良うございました。」

やっとバーナードの顔に笑顔が浮かんでクローディアと微笑みあった。

「暴力はいけないけれど、あれはあれでスッキリするのね。初めて知ったわ。ふふふ。」

「、、、、そうですね。」

「さぁ、明日から忙しくなるわよ。何と言っても王夫妻が行方不明なんですもの。今日は休みます。」

「はい。」

クローディアは寝室のドアを開けるとそのままベッドに潜り込みそのまま深い眠りについた。馬に乗っての移動は思った以上に疲れるのだ。


バーナードは寝室に消えたクローディアの背中を見つめていた。
そしてドアが閉まると同時にバーナードの口から嗚咽が漏れる。バーナードはクローディアの話を聞いてある種の復讐は終わったのだと涙が滲む。クローディア自身は気付いていないがその顔からは背負っていた影が消えたように感じられたのだ。そのことが何より嬉しいバーナードなのだった。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...