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第四章 運命との決別

63、新しい朝

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「なんなんだ!!!」

安心したように眠るクローディアの脇でしっかりと手を握ってベッドに腰掛けるヘタレ王子ビクトルがいた。
クローディアの一言に覚悟を決めたビクトル三十歳、、、、、なにも出来ないまま夜も更けたのだった。

「本当に不安だっただけなのか?それとも私は男として意識されていないのか?私達はいい大人だというのにな、、。」

ビクトル王子はこの後の自分自身が信用出来ず、しっかりとビクトル王子の手を握るクローディアの手をそっと離すとそのままドアに向かった。

「はぁ、やはりアーベルの部屋に行くのは私か、、、。」

その言ってクローディアを残して部屋を出たのだった。

トントン

「はい?」

「入るぞ。」

「ああ、やっぱり来ちゃったんですね。そうなるだろうなぁとは思ってましたよ。はい、こちらのベッドをお使いください。」

アーベルの言いように不貞腐れたように部屋からベッドに直行するとそのままベッドに潜り込んだ。

「寝る!!」

「はい、お休みなさいませ。」

そうしてビクトル王子の夜は更けていった。


クローディアが目覚めると部屋には誰もいなかった。旅装のまま寝たので身体中が痛かったが、んーっと伸びをして窓に向かった。カーテンを開けて窓を全開にすると森の新鮮な空気が部屋の中を一掃した。

「とうとう今日なのね。」

その時ノックの音がしてクローディアが返事を返すと朝食を持ったアーベルとビクトル王子が入ってきた。

「クローディア様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」

「ええ、おはようございます。アーベル様、おはようございます。ビクトル様。お陰様でぐっすりと眠れましたわ。」

「ああ、おはよう。クローディア。」

「では、お二人はこちらで朝食をお召し上がりください。終わりましたら今日の計画を話しましょう。」

カチャカチャとテーブルに朝食を並べるとアーベルは部屋から出て行った。

「では、、頂くか?」

「はい、そうですわね。」

そう言って食べ始めたクローディアだが、どうしても聞きたいことがあった。

「あの、ビクトル様、、今朝はどちらに?」

「あ、ああ、まぁ、その、散歩だ。」

「わたくしのあの、寝ながらのマナーがおかしかった訳ではないのですね。」

「ああ、その、それは問題ない。」

「まぁ、それなら良かったですわ。これから寝室を一緒にするのですもの。心配でしたの。あの、、これで、、、本当の婚約者ですわね。」

そう言ってクローディアはポッと顔を赤らめたのだ。それを呆然と見たビクトル王子は慎重に確認を行う。

「ク、クローディア、、、。其方は、結婚後の閨については知っているよな?もう私達はいい歳だ。」

「まぁ、嫌ですわ。もちろん存じております。一緒に寝るのですわよ。嫌ですわ。」

明るく話すクローディアにビクトル王子の顔が引きつる。

「そう。寝るのだ、、、、。」

何となく嫌な予感しかしないビクトル王子は王宮に戻り次第バーナードに確認しようと心に決めた。



「では、行くぞ。」

ローレンスはサオリを連れてホテルから出た。まだ、カーティスや他の側近は寝ている時間だ。

「ねぇ、ローレンスが森に連れて行ってくれるの?カーティス様じゃなくて?」

サオリが無邪気に尋ねる。

「ああ、このまま森は避けて逃げるぞ。サオリもついてこい!」

「え?!森は、、避けて?!」

グイッとサオリの手を掴んで引っ張るローレンスにサオリは全力で抵抗した。

「ちょっと!!やめてよ!!何するの?!ローレンス!!!」

「お前はこのままだと森に捨てられるのだぞ!!それならいっそのこと私と逃げた方がよい!!!それに金ならある!」

そう言うとローレンスは袋いっぱいの宝石をサオリに見せてきた。

「宝物庫から見繕ってきたのだ!あれだけ私を蔑ろにしたこのアッカルドもクローディアもカーティスも何もかももうどうでも良い!!私はやはりサオリお前と居たいのだ!!」

「ちょっとやめてよ!!!私は森に行くの!!行きたいの!!!もう、此処は嫌なのよ!!離して!!」

二人で揉み合っているとローレンスの手がサオリの手から離れサオリが森に向かって走り出した。

「おい!!ちょっとまて!!!サオリ!!!おい!!」

ローレンスとサオリの声にホテルから出て来た側近たちはサオリを追って走っているローレンスを目撃した。

「ロ、ローレンス王!!!どちらに!!」

慌ててローレンスを追いかける側近とそれを見た側近が大声で叫ぶ。

「皆!!ローレンス王が出立したぞ!!」

「何!!追いかけねば!!」

ゾロゾロとローレンスの後を追う側近達を眺めながらもカーティスはため息をついてその後を追った。

「何やっているんだ?!ローレンスは!」

折角サオリという邪魔者を始末できるチャンスだったのにこんなにも多くの者がいたら捨てる事も見捨てる事も況してや殺す事も出来ない。
カーティスは怒りを含んだ瞳で先を行く二人を見てから舌打ちして先頭にせまった。
そうしてサオリを先頭にローレンス一行は森に向かって進んでいったのだった。

「全く迷惑でさぁ。会計もせずにあの団体さんは出立したんですよ?こりゃ大変だ。」

クローディア達は階下のロビーで宿の主人が愚痴っているのを聞いて顔を見合わせた。
そして頷くとビクトル王子は護衛に向かって軽く手をあげた。

「おい、親父さん、その話は本当かい?」

「ああ、今聞いた話だ。全く大赤字だ。」

クローディアはサラサラと一枚の紙に何かを書くと持っていた封筒に入れて店主に渡した。

「これを王宮に届けると損失を補填してもらえるそうよ。」

「え?そうなのかい?」

「ええ、今あの地面が揺れる災害でそういう制度があるのです。その団体での赤字部分を申請すればすぐに貰えるわよ。」

「そりゃありがてぇ。恩にきる!」

そう言って店主は宿を駆け出した。

「クローディア?あれは?」

「バーナードに言われた金額を出す様に指示しました。バーナードならばあれが本物だとすぐにわかるわ。」

「そうか、、。」

「それでは、我々も森に向かいましょう!!」

アーベルがパンと手を叩いてその場を締めたのだった。
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