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第四章 運命との決別
59、ローレンスの苦悩
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「おい、カーティス、本当に行くのか?」
ローレンスは視察という名目で外出を許可された王宮の門で一度立ち止まり確認した。
「当然です。ローレンスもさっさと来てください。貴方の視察という名目なんですからローレンスが残ると不審に思われます。さぁ早く馬車に乗ってください。」
「そうよ。ローレンス、早くして!私は早く帰りたいの!!」
サオリが馬車の座席をバンバン叩いてローレンスを急かす。その時王宮のエントランスからワラワラと人々が出てくるのが見えた。
「王!ローレンス王!!」
「お待ち下さい!!どちらに行かれるのですか?」
「私共もお連れ下さい!!」
「ローレンス王!!」
それはローレンスの側近達だった。既に要職から追われて閑職についている者達が転がるように出てきて馬車に乗ろうとしたローレンスの前に跪いた。
「其方達、、一体どうしたのだ?」
「ローレンス王と王妃様そしてカーティス様が連れ立って外出されると聞いて慌ててまいりました。是非私共もお連れ下さい!!」
「私は只の視察に行くだけだ。十日もすれば帰るぞ?何を騒いでおるのだ。」
「それでもです!!ローレンス王がいらっしゃらない王宮では居場所が無いのです。元の部下からも馬鹿にされ、唯一ローレンス王が王としていて下さる事が支えなのです!!どうかどうかお連れ下さい。」
そういうと集まった二十人ほどの側近達が頭を下げる。ローレンスはその姿を見て哀れささえ感じた。
元々は共に国を支えてきたのだ。共に学び、成長し、働いて来たのだ。あの女が来るまでは。ローレンスは視察の許可を取るために面会した時の上から見下したクローディアの顔を思い浮かべて舌打ちする。
それが今は自分も含めてこの側近達も居場所を求めて右往左往しているのだ。
「わかった。来たいものは来るがいい。準備はこれから一時間だ。一時間後に出発とする。」
「「「「は!」」」」
そう言って側近達はエントランスから駆け出していった。
ふぅっと溜息を着くと今度はカーティスとサオリが文句を言いはじめる。
「何やっているんですか?たかが十日の視察なんですよ。ほっておけばいいんですよ。彼らなら椅子に座って外を見てれば十日くらいはあっという間に過ぎますよ。」
呆れたように呟くカーティスを横目にローレンスは釈然としないまま馬車に乗り込んだのだった。
「そうよぉ。出発が遅くなっちゃったじゃない!」
座席に着くと早速サオリが文句を言って頬を膨らませて口を尖らす。かつては可愛いと思った仕草だ。今は年齢とそぐわない違和感だけを強く感じる。
それでもローレンスが隣に座るとサオリは上機嫌で自分の故郷の素晴らしさを滔々と語りだした。
その何度も聞いた話を聞き流しながらローレンスはこれまでの事とこれからの事を考えていた。
カーティスとサオリの策に乗ってしまったが本当にこれでよかったのかという疑問を払拭しきれない。父上が亡くなってから何もかもが上手くいかない。側近達に流されて、カーティスに流されて、サオリに流された結果が王であるというだけの無職だ。更にこれから自分の女を捨てに行くのだ。カーティスはサオリを故郷に帰すと言っているがあの男の本心は捨てに行くで間違いない。ローレンスは自問自答した。あの女を捨ててまで一緒になったサオリなのに、本当にいいのか?自分はその後適当に再婚して世継ぎを作る道具となるのだ。王、王と言われてもそれくらいはわかっている。そして、生まれた世継ぎはカーティスの傀儡となる。そこまでわかっていても流されるのをやめられない。その気力もない。
一体何処から狂ってしまったのだ。父上が亡くなってからか?いや父上が亡くなってからではない。あの女だ、あのクローディアが来てからドンドン自分は悪い方へ悪い方へと追い込まれてしまったのだ。
隣で話し続けるサオリを無視して馬車の窓から王宮を眺める。
生意気なクローディアも、恩知らずなサオリも、自分を蔑ろにするカーティスも皆いなくなればいいのだ。
この王宮でさえもう安住の地ではない。
王としての立場もこの国の安寧も未来も必要ない!
ローレンスは今まで流され続けた自分自身を思い溜息をつく。
後少しでこの王宮から地方の街に出発する。今頃は側近達が出かける準備に追われている事だろう。そしてそれを引き止められるような立場の者は来ないのだ。来るのは居場所のない、ローレンスの昔から側近達なのだろう。そう、あの女を追放した時に同意し、同調して、実行した者ばかりだ。
カーティスはサオリを森に捨て置いて帰るつもりだが、ローレンスは別の行動を取るつもりだった。
これからこの国の王としての最悪な行動をとることをローレンスは密かに決めた。そして、それはローレンスに残された唯一のプライドの保ち方だった。
ローレンスは視察という名目で外出を許可された王宮の門で一度立ち止まり確認した。
「当然です。ローレンスもさっさと来てください。貴方の視察という名目なんですからローレンスが残ると不審に思われます。さぁ早く馬車に乗ってください。」
「そうよ。ローレンス、早くして!私は早く帰りたいの!!」
サオリが馬車の座席をバンバン叩いてローレンスを急かす。その時王宮のエントランスからワラワラと人々が出てくるのが見えた。
「王!ローレンス王!!」
「お待ち下さい!!どちらに行かれるのですか?」
「私共もお連れ下さい!!」
「ローレンス王!!」
それはローレンスの側近達だった。既に要職から追われて閑職についている者達が転がるように出てきて馬車に乗ろうとしたローレンスの前に跪いた。
「其方達、、一体どうしたのだ?」
「ローレンス王と王妃様そしてカーティス様が連れ立って外出されると聞いて慌ててまいりました。是非私共もお連れ下さい!!」
「私は只の視察に行くだけだ。十日もすれば帰るぞ?何を騒いでおるのだ。」
「それでもです!!ローレンス王がいらっしゃらない王宮では居場所が無いのです。元の部下からも馬鹿にされ、唯一ローレンス王が王としていて下さる事が支えなのです!!どうかどうかお連れ下さい。」
そういうと集まった二十人ほどの側近達が頭を下げる。ローレンスはその姿を見て哀れささえ感じた。
元々は共に国を支えてきたのだ。共に学び、成長し、働いて来たのだ。あの女が来るまでは。ローレンスは視察の許可を取るために面会した時の上から見下したクローディアの顔を思い浮かべて舌打ちする。
それが今は自分も含めてこの側近達も居場所を求めて右往左往しているのだ。
「わかった。来たいものは来るがいい。準備はこれから一時間だ。一時間後に出発とする。」
「「「「は!」」」」
そう言って側近達はエントランスから駆け出していった。
ふぅっと溜息を着くと今度はカーティスとサオリが文句を言いはじめる。
「何やっているんですか?たかが十日の視察なんですよ。ほっておけばいいんですよ。彼らなら椅子に座って外を見てれば十日くらいはあっという間に過ぎますよ。」
呆れたように呟くカーティスを横目にローレンスは釈然としないまま馬車に乗り込んだのだった。
「そうよぉ。出発が遅くなっちゃったじゃない!」
座席に着くと早速サオリが文句を言って頬を膨らませて口を尖らす。かつては可愛いと思った仕草だ。今は年齢とそぐわない違和感だけを強く感じる。
それでもローレンスが隣に座るとサオリは上機嫌で自分の故郷の素晴らしさを滔々と語りだした。
その何度も聞いた話を聞き流しながらローレンスはこれまでの事とこれからの事を考えていた。
カーティスとサオリの策に乗ってしまったが本当にこれでよかったのかという疑問を払拭しきれない。父上が亡くなってから何もかもが上手くいかない。側近達に流されて、カーティスに流されて、サオリに流された結果が王であるというだけの無職だ。更にこれから自分の女を捨てに行くのだ。カーティスはサオリを故郷に帰すと言っているがあの男の本心は捨てに行くで間違いない。ローレンスは自問自答した。あの女を捨ててまで一緒になったサオリなのに、本当にいいのか?自分はその後適当に再婚して世継ぎを作る道具となるのだ。王、王と言われてもそれくらいはわかっている。そして、生まれた世継ぎはカーティスの傀儡となる。そこまでわかっていても流されるのをやめられない。その気力もない。
一体何処から狂ってしまったのだ。父上が亡くなってからか?いや父上が亡くなってからではない。あの女だ、あのクローディアが来てからドンドン自分は悪い方へ悪い方へと追い込まれてしまったのだ。
隣で話し続けるサオリを無視して馬車の窓から王宮を眺める。
生意気なクローディアも、恩知らずなサオリも、自分を蔑ろにするカーティスも皆いなくなればいいのだ。
この王宮でさえもう安住の地ではない。
王としての立場もこの国の安寧も未来も必要ない!
ローレンスは今まで流され続けた自分自身を思い溜息をつく。
後少しでこの王宮から地方の街に出発する。今頃は側近達が出かける準備に追われている事だろう。そしてそれを引き止められるような立場の者は来ないのだ。来るのは居場所のない、ローレンスの昔から側近達なのだろう。そう、あの女を追放した時に同意し、同調して、実行した者ばかりだ。
カーティスはサオリを森に捨て置いて帰るつもりだが、ローレンスは別の行動を取るつもりだった。
これからこの国の王としての最悪な行動をとることをローレンスは密かに決めた。そして、それはローレンスに残された唯一のプライドの保ち方だった。
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