悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

57、わたくし、ファティマに会いました

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「わたくしが王妃の言動に気をつけろと言われたのはファティマからですの。」

そういって便箋に目を通す。

「これは?」

シダール語で書かれた経費精算の説明書にクローディアの瞳が眇められる。

「ビクトル様、、、これは?」

ビクトル王子はもう話すしかないと腹を括った。

「シダールの、、、、経費精算説明書、、だな。」

「経費精算、、、。何故?これがここに?」

クローディアは思考が追いついていないらしく首を傾げていた。
ビクトル王子はもう逃げないと決めたではないかと心で呟くとクローディアの隣に腰を下ろした。

「クローディア、すまなかった、、。」

「え?」

「ファティマは私なのだ。」

「ビ、ビクトル様、、、。」

「予言者として予言書を書いて其方に渡していたのは私なのだ。」

「ビクトル様が、、、、ファティマ、、。」

「ああ、そうだ。それにこれは予言でさえない。これは記憶なのだ。」

「記憶、、、、。」

クローディアはそういったきり電源が切れたように動きを停止してしまった。
ビクトル王子はそんなクローディアの瞳に再び自分が映るのをじっと待った。

「貴方がファティマなのですか!!!」

やっと動き出したクローディアは凄い勢いでビクトル王子の両腕をガシッと掴むとその顔を見上げた。

「そうだ。私がファティマだ。」

「ファティマはサオリ王妃と同じ異世界人ではないのですか!?ビクトル王子はシダールの王子ではないのですか?!」

「クローディアはそう考えていたのか?」

「はい。サオリ王妃の言葉とファティマの言葉には多くの共通点がありますし、はっきり言ってわからない事も同じ言葉だったりしたのでそうではないかと考えていました。」

「成る程な。どうもその異世界だが色々なアプローチでこの世界に干渉しているようだ。サオリ王妃のように転移してくる場合や生まれ変わる場合、そして私のように記憶だけがある場合。」

「その記憶とはどのようなものなのですか?」

クローディアは驚きのあまりショックというよりも質問を投げかける事で正気を保っているように見えた。ビクトル王子はそんなクローディアにも精一杯向き合った。

「記憶とは私が幼い頃に気づいたものだ。なんというか知らない誰かが読んだ本の内容だけが鮮明に思い浮かぶ感じなのだ。ただ、この記憶は更新されない。だから、さっき話した内容も運命が変わる前、クローディアが王太子ではない時のものだ。だからこそ、私達は運命を変えてこの国を救えると考えたのだ。」

「アーベル様は、、、ご存知なのですか?」

「ああ、ほんの数日前に話した。アーベルからの助言もありクローディアには別の誰かがファティマであるようにしたのだ。すまなかった。」

「十年前の予言書は、、、?」

「私が書いて其方のドレスのサッシュに忍ばせた。」

「何故?」

クローディアは、ファティマに会ったら絶対に聞こうと思っていたことを口にした。

「何故か、、。記憶の中のクローディアが、あまりに不憫だったからとしか言えない。正しいことをしていたのに責められ捨てられて最後にはチビデブハゲとの結婚だ。しかも、二十才も年上のだ。なんとかならないかと未来を教えるような気持ちだった。」

クローディアは自分の過去の未来を、あのファティマの予言書に書かれていて誰にも言ったことのない内容をビクトル王子が話した事でああ本当の事なのだと実感した。

「本当に貴方が、ビクトル様が、ファティマなのですね、、、、。」

「ああ、、。そうだ。」

そう答えるとクローディアはビクトル王子の腕を離し襟首をつかんだ。

「何故!!何故!!!あの時何も言ってくださらなかったの!!わたくしは、わたくしはあの手紙だけで絶望してしまったのです!!だから、、戦うことを放棄してしまったのです!!戦う勇気を持てたのは追放されてからなのです!!わたくしにとってのファティマは神でも予言者でもなく悪魔の手先だったのです!!!!!」

クローディアは理不尽な十年前の恨みをビクトル王子にぶつけた。あの手紙がなかったら運命がかわったのかはわからないがそれでもどうにも出来ない、何処にも行き場のなかった気持ちが出口を見つけた気持ちのまま捲し立てた。

「あの手紙が無ければ、、、わたくしは、、、!!」

ビクトル王子はヒステリックになったクローディアをグッと抱きしめた。そして、その耳元で囁く。

「すまない、、。君よりも先に諦めてしまったのは私だ。十年前に今のように動けはよかったのだ。その勇気がなくて、君を救えなくて、その事が忘れられなくて、、、、だから私は好きな相手から逃げていたのだ。自分だけ幸せになれないと思っていたのかもしれない。病気と言っていたが、アレはトラウマだったのだ!!すまない。本当に悪かった。」

クローディアはキツく抱きしめてくるビクトル王子を呆然と見つめた。ファティマの予言に振り回されていたのは自分だけではなかった。このビクトル王子もなのだ。どうしようもなかった自分の記憶に振り回されて知ってるのに変えられず、不幸になるのを見ていられず逃げて自分に枷をはめたのがビクトル王子なのだ。そう考えたらクローディアはもうこれ以上ビクトル王子を責められなかった。自分を抱きしめながら嗚咽を漏らすこの心優しい王子に初めて愛しさを感じた。

「ビクトル様、、、。」

クローディアはビクトル王子の頬に手を当ててその瞳を、涙に濡れた瞳をしっかりと見つめると自分の瞳を閉じてビクトル王子の唇にキスをした。
クローディアの中のファティマに対する蟠りがスッと消えるのを感じたのだった。
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