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第3章 破滅への足音
55、わたくし、恨みを棚上げします
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「ファティマはいるのね。」
一人になるとクローディアは声を出して呟いた。
「ファティマはシダールで有名な予言者なのかしら?」
アーベルだけならまだしもビクトル王子も知っているのならかなり高位の方なのかもしれない。
バーナードの元にたどり着くと大事な話があると言って一旦執務室に戻ることにした。ファティマには聞きたいことが沢山あるが今は四人での会談までにバーナードの理解を得なければならない。バーナードは昔からクローディアに付き従ってくれていたがやはり十年前の出来事を強く後悔しておりその事についてはあまり話したがらない。更に追放先からこの国に戻る時に一番反対の意を示していたのだ。クローディアは今はこの国を救う事に今は何の違和感も感じていないがバーナードは違うかもしれない。未だに復讐を望んで此処にいる可能性も高いのだ。
クローディアはそう考えると気を引き締めてバーナードに向き合った。
「バーナード、貴方に大切な話があります。他言無用の話です。」
「はい。」
バーナードも神妙な顔で頷いた。
「その前に一つ質問があります。忌憚のない返答を命じます。」
「は!」
「貴方はこのアッカルドを救いたいですか?それとも滅亡を望みますか?」
クローディアの淡々とした質問にバーナードの目が大きく見開いて直ぐ様下を向いた。
「バーナード、貴方は今も復讐を胸に抱えていますか?」
クローディアの静かな呼びかけが二人きりの執務室に響いた。
「お嬢様、、、お嬢様はもういいと言うのですか?あんな酷い仕打ちを受けたのにもういいと!!」
「バーナード、、。」
「私はお嬢様をずっと見ておりました。お嬢様に非はないのはこのバーナードが一番よく知っております。それなのにこの国の馬鹿者達はよってたかってお嬢様一人を悪者して追い出したのですよ!!お嬢様はそれを忘れろ、許せというのですか!?」
普段の飄々した雰囲気を変えてバーナードはクローディアに訴えてくる。
クローディアはバーナードの気持ちに胸が痛くなった。そうなのだ。その思いはクローディアもずっと抱えてきた。それこそ十年間ずっと。
クローディア自身にも覚えがある恨み辛みだ。
「私は追放先でのお嬢様もしっかりと見てまいりました。辛い記憶を押し込めるように勉学に励み、他国の貴族から蔑ろにされても一言も文句も言わず、ただ自分を高めるために努力していらした。私はそれはこの国への復讐の為だとそう思っていたのです。この辛い記憶の有るアッカルドに帰るのも反対でした。ですが復讐の為だと思いついて参ったのです。それを忘れてこの国を救うのですか?」
それだけ言うとバーナードは涙の滲んだ瞳をハンカチで抑えた。
クローディアは胸をつくようなバーナードの言葉に自分の気持ちの昂りを感じた。
それでもクローディアは顔を上げてバーナードの瞳をしっかりと見つめてゆっくりと話す。
「バーナード、わたくしはあなたの心を置いてけぼりにしてしまったのね。本当にごめんなさい。確かにわたくしは復讐に燃えていた。わたくしを不当に扱った者たちに制裁を加えることがこの国に戻った一番の目的でした。でもこの国で王太子として周りを見て気がついたのです。この国には貴族以外の者たちがたくさんおります。その者たちを守るのはわたくし達の義務なのです。そこに個人の感情を挟んではなりません。わかりますか?」
「お嬢様、、。」
「バーナード、わたくしはもうお嬢様ではありません。わたくしは王太子なのですよ。この国の国民は須らくわたくしが守るべきものなのです。そう決めたのです。これからこの国の未来の話をします。貴方はここに残りますか?」
クローディアは祈るようにバーナードを見つめた。強制はしたくない、命じたくもない。でも、これからも一緒にいてほしい。この気持ちに嘘はないのだ。
バーナードはしばらく下を向いたまま微動だにしなかった。そして、小さく頷くとスッと顔を上げて真っ直ぐにクローディアを見つめた。
「わかりました。クローディア様と共にある事を誓います。ですが、、、。」
クローディアはバーナードの言葉を被せるように切った。
「わたくしはもし目の前で瀕死のあの男達が助けを求めて来ても助けません。見捨てるわ。なんなら頭を踏みつけるかもしれない。とどめを刺すかもしれない。それはそのまま持っていて良い感情なのよ。そう思わない?」
クローディアが嘘偽りのない言葉を発するとバーナードが再び瞳に涙を滲ませながらも力強く頷いた。
「はい!!」
その後クローディアはバーナードにシタールには未来を占う予言者がいて今後のアッカルドについて重要な予言書が届けられたと話した。バーナードは頷きながらも理解を示して救国に賛同したのだ。
こうしてビクトル王子達との会談にバーナードは出席する為二人は部屋を後にした。
クローディアは後ろを歩くバーナードに心からの感謝を抱く。本当の自分自身を知る者が側にいる、居てくれることの幸運を噛み締めていた。
一人になるとクローディアは声を出して呟いた。
「ファティマはシダールで有名な予言者なのかしら?」
アーベルだけならまだしもビクトル王子も知っているのならかなり高位の方なのかもしれない。
バーナードの元にたどり着くと大事な話があると言って一旦執務室に戻ることにした。ファティマには聞きたいことが沢山あるが今は四人での会談までにバーナードの理解を得なければならない。バーナードは昔からクローディアに付き従ってくれていたがやはり十年前の出来事を強く後悔しておりその事についてはあまり話したがらない。更に追放先からこの国に戻る時に一番反対の意を示していたのだ。クローディアは今はこの国を救う事に今は何の違和感も感じていないがバーナードは違うかもしれない。未だに復讐を望んで此処にいる可能性も高いのだ。
クローディアはそう考えると気を引き締めてバーナードに向き合った。
「バーナード、貴方に大切な話があります。他言無用の話です。」
「はい。」
バーナードも神妙な顔で頷いた。
「その前に一つ質問があります。忌憚のない返答を命じます。」
「は!」
「貴方はこのアッカルドを救いたいですか?それとも滅亡を望みますか?」
クローディアの淡々とした質問にバーナードの目が大きく見開いて直ぐ様下を向いた。
「バーナード、貴方は今も復讐を胸に抱えていますか?」
クローディアの静かな呼びかけが二人きりの執務室に響いた。
「お嬢様、、、お嬢様はもういいと言うのですか?あんな酷い仕打ちを受けたのにもういいと!!」
「バーナード、、。」
「私はお嬢様をずっと見ておりました。お嬢様に非はないのはこのバーナードが一番よく知っております。それなのにこの国の馬鹿者達はよってたかってお嬢様一人を悪者して追い出したのですよ!!お嬢様はそれを忘れろ、許せというのですか!?」
普段の飄々した雰囲気を変えてバーナードはクローディアに訴えてくる。
クローディアはバーナードの気持ちに胸が痛くなった。そうなのだ。その思いはクローディアもずっと抱えてきた。それこそ十年間ずっと。
クローディア自身にも覚えがある恨み辛みだ。
「私は追放先でのお嬢様もしっかりと見てまいりました。辛い記憶を押し込めるように勉学に励み、他国の貴族から蔑ろにされても一言も文句も言わず、ただ自分を高めるために努力していらした。私はそれはこの国への復讐の為だとそう思っていたのです。この辛い記憶の有るアッカルドに帰るのも反対でした。ですが復讐の為だと思いついて参ったのです。それを忘れてこの国を救うのですか?」
それだけ言うとバーナードは涙の滲んだ瞳をハンカチで抑えた。
クローディアは胸をつくようなバーナードの言葉に自分の気持ちの昂りを感じた。
それでもクローディアは顔を上げてバーナードの瞳をしっかりと見つめてゆっくりと話す。
「バーナード、わたくしはあなたの心を置いてけぼりにしてしまったのね。本当にごめんなさい。確かにわたくしは復讐に燃えていた。わたくしを不当に扱った者たちに制裁を加えることがこの国に戻った一番の目的でした。でもこの国で王太子として周りを見て気がついたのです。この国には貴族以外の者たちがたくさんおります。その者たちを守るのはわたくし達の義務なのです。そこに個人の感情を挟んではなりません。わかりますか?」
「お嬢様、、。」
「バーナード、わたくしはもうお嬢様ではありません。わたくしは王太子なのですよ。この国の国民は須らくわたくしが守るべきものなのです。そう決めたのです。これからこの国の未来の話をします。貴方はここに残りますか?」
クローディアは祈るようにバーナードを見つめた。強制はしたくない、命じたくもない。でも、これからも一緒にいてほしい。この気持ちに嘘はないのだ。
バーナードはしばらく下を向いたまま微動だにしなかった。そして、小さく頷くとスッと顔を上げて真っ直ぐにクローディアを見つめた。
「わかりました。クローディア様と共にある事を誓います。ですが、、、。」
クローディアはバーナードの言葉を被せるように切った。
「わたくしはもし目の前で瀕死のあの男達が助けを求めて来ても助けません。見捨てるわ。なんなら頭を踏みつけるかもしれない。とどめを刺すかもしれない。それはそのまま持っていて良い感情なのよ。そう思わない?」
クローディアが嘘偽りのない言葉を発するとバーナードが再び瞳に涙を滲ませながらも力強く頷いた。
「はい!!」
その後クローディアはバーナードにシタールには未来を占う予言者がいて今後のアッカルドについて重要な予言書が届けられたと話した。バーナードは頷きながらも理解を示して救国に賛同したのだ。
こうしてビクトル王子達との会談にバーナードは出席する為二人は部屋を後にした。
クローディアは後ろを歩くバーナードに心からの感謝を抱く。本当の自分自身を知る者が側にいる、居てくれることの幸運を噛み締めていた。
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