悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

54、ファティマの正体

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「あの、アーベル様、お話とは何についてでしょうか?」

クローディアは早朝にアーベルから呼び出されて庭園にやって来た。

「クローディア様、こんな時間にお呼びたてして申し訳ありません。どうしても他言できないお話でしてお許しください。」

アーベルが頭を深く下げて膝を折る。

「わかりました。では、バーナードにも話が聞こえない場所まで下がらせましょう。バーナード、あちらにいっていて頂戴。」

「はい。」

バーナードはそう言うと姿は見えるが話は聞こえない絶妙な位置まで下がって頭を下げた。その姿に頷くとアーベルはクローディアにベンチまでエスコートして腰を下ろした。

「クローディア様、これはお心に留めて頂きたい話なのですが宜しいでしょうか?」

「はい。」

「実は私はある密命を受けているのです。」

そう切り出したアーベルは予言者の手紙をこっそりとクローディアに渡していた事、十年前は何も出来なかった事、それでもまだ予言には続きがある事、そして、今はアッカルドの為に役に立ちたいと思っている事を話した。

「では、ファティマは本当に実在しているのですか?」

「はい。」

「あの滅亡の予言は今も進行中なのですか?」

「はい。」

「十年前は傍観していたのに今回は積極的関わろうとするのは何故ですか?」

「シダールの王子がクローディア様の婚約者だからです。」

アーベルの淡々とした答えにクローディアは懸命に頭を働かせていた。
確かに、十年前に初めて予言書を受け取ったのもシダールからの視察団が来た時だった。そして、今回新たな予言もシダールからビクトル王子達が来ている時だ。そして、十年前とはシダールとの関わりはかなり違うのも事実だ。十年前は注意すべき隣の大国というだけだったが、今はビクトル王子との事や復興支援で親密になっている。

「何故今その事をわたくしに話すのですか?」

「それは予言者含めて私も勿論ビクトル王子もこのアッカルドを救いたいと考えているからです。その為にはお互いの協力が必要です。」

クローディアは暫し思案してから今度は逆の意味を尋ねた。

「、、十年前にはアッカルドなど問題ではなかったのに何故予言書をお渡しになったのですか?わたくしの不幸を楽しんでいらしたの?」

アーベルは率直なクローディアの発言にやっぱり破断だったなとビクトル王子が正体をバラさなくて良かったと心から思った。

「いえ、あの時はこの運命に逆らえるとは考えていなかったのです。気休め程度の気持ちでお渡しした予言書で少しでもクローディア様の不幸が軽減される事を期待していました。しかしながら、追放までは予言通りになりましたので運命は変わらないという結論に至りました。」

「そう、なのね。」

「その後のクローディア様の行動は私共も把握しておらず、、こちらに来てまさかクローディア様が予言を変えていた事に驚いた次第です。」

「それで貴方達は遅ればせながら予言に立ち向かう事にしたということかしら?」

「恥ずかしながら、その通りです。」

「この事はビクトル様もご存知なの?」

「はい。」

「ファティマは今どこにいるの?」

「そちらはお話できません。」

「会えるのかしら?」

「お答え出来ません。」

「、、そう。わかったわ。では、ビクトル様はなんと?」

「クローディア様のお役に立ちたいと仰せです。」

クローディアは手を頬に当てて暫く考え込んだ。
沈黙の時間に終わりを告げたのもクローディアだった。

「わかりました。わたくしもこの国を救うと決めましたの。折角ですからシダールにもご協力頂きたいわ。」

「仰せのままに。」

「では、早速わたくしがまだ知らないファティマの予言を詳しく教えていただける?その上でお話ししたいの。あと、バーナードには予言について話します。ですが、十年前の事については話さずにこれからの未来についてのみの予言という事にして頂戴。バーナードは十年前の事を未だに気に病んでいるの。」

「はい。わかりました。では、後程ビクトル王子も含めて四人で話すという事で宜しいでしょうか?」

「そうね。そうしましょう。」

それだけ言うとクローディアは立ち上がりアーベルに軽く会釈するとバーナードの方に去っていった。
一人残されたアーベルはその颯爽とした後ろ姿を見つめていた。

「確かにクローディア様は王の器だな。」

アーベルの内容に驚いた筈だし、過去の不干渉に怒りも覚えた筈なのにそんな事はスッと引っ込めて協力体制を築く。なかなか出来ることではない。
更に部下の気持ちを慮る事も忘れない。王とは斯くあるべきだという見本の様だった。
アーベルは心からの尊敬をクローディアに向けるとともにクローディアが救いたいと言ったこの国の為に心血を注ぐ事を決意した。
遠く離れたクローディアの後姿に向かってアーベルは最上の臣下の礼を取ったのだった。
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