54 / 71
第3章 破滅への足音
54、ファティマの正体
しおりを挟む
「あの、アーベル様、お話とは何についてでしょうか?」
クローディアは早朝にアーベルから呼び出されて庭園にやって来た。
「クローディア様、こんな時間にお呼びたてして申し訳ありません。どうしても他言できないお話でしてお許しください。」
アーベルが頭を深く下げて膝を折る。
「わかりました。では、バーナードにも話が聞こえない場所まで下がらせましょう。バーナード、あちらにいっていて頂戴。」
「はい。」
バーナードはそう言うと姿は見えるが話は聞こえない絶妙な位置まで下がって頭を下げた。その姿に頷くとアーベルはクローディアにベンチまでエスコートして腰を下ろした。
「クローディア様、これはお心に留めて頂きたい話なのですが宜しいでしょうか?」
「はい。」
「実は私はある密命を受けているのです。」
そう切り出したアーベルは予言者の手紙をこっそりとクローディアに渡していた事、十年前は何も出来なかった事、それでもまだ予言には続きがある事、そして、今はアッカルドの為に役に立ちたいと思っている事を話した。
「では、ファティマは本当に実在しているのですか?」
「はい。」
「あの滅亡の予言は今も進行中なのですか?」
「はい。」
「十年前は傍観していたのに今回は積極的関わろうとするのは何故ですか?」
「シダールの王子がクローディア様の婚約者だからです。」
アーベルの淡々とした答えにクローディアは懸命に頭を働かせていた。
確かに、十年前に初めて予言書を受け取ったのもシダールからの視察団が来た時だった。そして、今回新たな予言もシダールからビクトル王子達が来ている時だ。そして、十年前とはシダールとの関わりはかなり違うのも事実だ。十年前は注意すべき隣の大国というだけだったが、今はビクトル王子との事や復興支援で親密になっている。
「何故今その事をわたくしに話すのですか?」
「それは予言者含めて私も勿論ビクトル王子もこのアッカルドを救いたいと考えているからです。その為にはお互いの協力が必要です。」
クローディアは暫し思案してから今度は逆の意味を尋ねた。
「、、十年前にはアッカルドなど問題ではなかったのに何故予言書をお渡しになったのですか?わたくしの不幸を楽しんでいらしたの?」
アーベルは率直なクローディアの発言にやっぱり破断だったなとビクトル王子が正体をバラさなくて良かったと心から思った。
「いえ、あの時はこの運命に逆らえるとは考えていなかったのです。気休め程度の気持ちでお渡しした予言書で少しでもクローディア様の不幸が軽減される事を期待していました。しかしながら、追放までは予言通りになりましたので運命は変わらないという結論に至りました。」
「そう、なのね。」
「その後のクローディア様の行動は私共も把握しておらず、、こちらに来てまさかクローディア様が予言を変えていた事に驚いた次第です。」
「それで貴方達は遅ればせながら予言に立ち向かう事にしたということかしら?」
「恥ずかしながら、その通りです。」
「この事はビクトル様もご存知なの?」
「はい。」
「ファティマは今どこにいるの?」
「そちらはお話できません。」
「会えるのかしら?」
「お答え出来ません。」
「、、そう。わかったわ。では、ビクトル様はなんと?」
「クローディア様のお役に立ちたいと仰せです。」
クローディアは手を頬に当てて暫く考え込んだ。
沈黙の時間に終わりを告げたのもクローディアだった。
「わかりました。わたくしもこの国を救うと決めましたの。折角ですからシダールにもご協力頂きたいわ。」
「仰せのままに。」
「では、早速わたくしがまだ知らないファティマの予言を詳しく教えていただける?その上でお話ししたいの。あと、バーナードには予言について話します。ですが、十年前の事については話さずにこれからの未来についてのみの予言という事にして頂戴。バーナードは十年前の事を未だに気に病んでいるの。」
「はい。わかりました。では、後程ビクトル王子も含めて四人で話すという事で宜しいでしょうか?」
「そうね。そうしましょう。」
それだけ言うとクローディアは立ち上がりアーベルに軽く会釈するとバーナードの方に去っていった。
一人残されたアーベルはその颯爽とした後ろ姿を見つめていた。
「確かにクローディア様は王の器だな。」
アーベルの内容に驚いた筈だし、過去の不干渉に怒りも覚えた筈なのにそんな事はスッと引っ込めて協力体制を築く。なかなか出来ることではない。
更に部下の気持ちを慮る事も忘れない。王とは斯くあるべきだという見本の様だった。
アーベルは心からの尊敬をクローディアに向けるとともにクローディアが救いたいと言ったこの国の為に心血を注ぐ事を決意した。
遠く離れたクローディアの後姿に向かってアーベルは最上の臣下の礼を取ったのだった。
クローディアは早朝にアーベルから呼び出されて庭園にやって来た。
「クローディア様、こんな時間にお呼びたてして申し訳ありません。どうしても他言できないお話でしてお許しください。」
アーベルが頭を深く下げて膝を折る。
「わかりました。では、バーナードにも話が聞こえない場所まで下がらせましょう。バーナード、あちらにいっていて頂戴。」
「はい。」
バーナードはそう言うと姿は見えるが話は聞こえない絶妙な位置まで下がって頭を下げた。その姿に頷くとアーベルはクローディアにベンチまでエスコートして腰を下ろした。
「クローディア様、これはお心に留めて頂きたい話なのですが宜しいでしょうか?」
「はい。」
「実は私はある密命を受けているのです。」
そう切り出したアーベルは予言者の手紙をこっそりとクローディアに渡していた事、十年前は何も出来なかった事、それでもまだ予言には続きがある事、そして、今はアッカルドの為に役に立ちたいと思っている事を話した。
「では、ファティマは本当に実在しているのですか?」
「はい。」
「あの滅亡の予言は今も進行中なのですか?」
「はい。」
「十年前は傍観していたのに今回は積極的関わろうとするのは何故ですか?」
「シダールの王子がクローディア様の婚約者だからです。」
アーベルの淡々とした答えにクローディアは懸命に頭を働かせていた。
確かに、十年前に初めて予言書を受け取ったのもシダールからの視察団が来た時だった。そして、今回新たな予言もシダールからビクトル王子達が来ている時だ。そして、十年前とはシダールとの関わりはかなり違うのも事実だ。十年前は注意すべき隣の大国というだけだったが、今はビクトル王子との事や復興支援で親密になっている。
「何故今その事をわたくしに話すのですか?」
「それは予言者含めて私も勿論ビクトル王子もこのアッカルドを救いたいと考えているからです。その為にはお互いの協力が必要です。」
クローディアは暫し思案してから今度は逆の意味を尋ねた。
「、、十年前にはアッカルドなど問題ではなかったのに何故予言書をお渡しになったのですか?わたくしの不幸を楽しんでいらしたの?」
アーベルは率直なクローディアの発言にやっぱり破断だったなとビクトル王子が正体をバラさなくて良かったと心から思った。
「いえ、あの時はこの運命に逆らえるとは考えていなかったのです。気休め程度の気持ちでお渡しした予言書で少しでもクローディア様の不幸が軽減される事を期待していました。しかしながら、追放までは予言通りになりましたので運命は変わらないという結論に至りました。」
「そう、なのね。」
「その後のクローディア様の行動は私共も把握しておらず、、こちらに来てまさかクローディア様が予言を変えていた事に驚いた次第です。」
「それで貴方達は遅ればせながら予言に立ち向かう事にしたということかしら?」
「恥ずかしながら、その通りです。」
「この事はビクトル様もご存知なの?」
「はい。」
「ファティマは今どこにいるの?」
「そちらはお話できません。」
「会えるのかしら?」
「お答え出来ません。」
「、、そう。わかったわ。では、ビクトル様はなんと?」
「クローディア様のお役に立ちたいと仰せです。」
クローディアは手を頬に当てて暫く考え込んだ。
沈黙の時間に終わりを告げたのもクローディアだった。
「わかりました。わたくしもこの国を救うと決めましたの。折角ですからシダールにもご協力頂きたいわ。」
「仰せのままに。」
「では、早速わたくしがまだ知らないファティマの予言を詳しく教えていただける?その上でお話ししたいの。あと、バーナードには予言について話します。ですが、十年前の事については話さずにこれからの未来についてのみの予言という事にして頂戴。バーナードは十年前の事を未だに気に病んでいるの。」
「はい。わかりました。では、後程ビクトル王子も含めて四人で話すという事で宜しいでしょうか?」
「そうね。そうしましょう。」
それだけ言うとクローディアは立ち上がりアーベルに軽く会釈するとバーナードの方に去っていった。
一人残されたアーベルはその颯爽とした後ろ姿を見つめていた。
「確かにクローディア様は王の器だな。」
アーベルの内容に驚いた筈だし、過去の不干渉に怒りも覚えた筈なのにそんな事はスッと引っ込めて協力体制を築く。なかなか出来ることではない。
更に部下の気持ちを慮る事も忘れない。王とは斯くあるべきだという見本の様だった。
アーベルは心からの尊敬をクローディアに向けるとともにクローディアが救いたいと言ったこの国の為に心血を注ぐ事を決意した。
遠く離れたクローディアの後姿に向かってアーベルは最上の臣下の礼を取ったのだった。
10
お気に入りに追加
2,424
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる