悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

52、ビクトル王子のためらい

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ビクトル王子は悩んでいた。
クローディアとはかなり親密になってきたし、この国の復興もかなり進んでいる。婚約も正式に発表となり、傍目にはかなり幸せな状況だった。
しかし、ただし一つ自分の持つ不思議な記憶についてはモヤモヤとした物を抱えていた。なんと言ってもこのアッカルドの将来に関わることだし、自分一人で判断するには状況も変わりすぎてしまって不確定要素が多すぎるのだ。

「話すべきか、、、話さざるべきか、、、。」

ビクトル王子はこれから起こるであろう重大な事件について思いを馳せた。
ビクトル王子がもつ記憶によれば多分三ヶ月以内にあの王妃がやらかすのだ。
地面が揺れてからホームシックになった王妃は故郷に帰るために隣国の領土に入っていってしまう。しかも護衛の騎士団を引き連れてだ。王妃自身は只故郷に帰るための行動だが、側から見たら騎士団を連れての隣国侵攻となった。
もちろんそれを知った隣国は国境の部隊を派遣して王妃諸共殲滅した。それに怒ったアッカルド王が宣戦布告してこの国と隣国は戦争状態となり、勿論国力の差であっという間にアッカルドは焦土と化すのだった。
それがビクトル王子が記憶に持つストーリーだった。
但し現状は三方の隣国との関係は良好だし、実権をクローディアが握っているため宣戦布告もしないだろう。そうすれば戦争は回避されるのではないかとビクトル王子は考えていた。

「ならば、ワザワザ話す必要もない、、と思う。しかし、もし、万が一何かが狂ってしまったら、、、。」

ビクトル王子は記憶と現実を埋める何かが起こった時に戦争になるのを恐れている。今回の復興支援でクローディア以外のこの国の民にも愛着を感じているし、それはこの国に呼んだ騎士団も同じようだ。だから、戦争相手ほシダールではないと思う。それではあのシャルロッテの国か?いやあり得ないだろう。シャルロッテはクローディアに心酔しているし、あの国の王はシャルロッテに王族の自覚を教えたクローディアに感謝していると聞いている。

「となると、セドア共和国か?」

ビクトル王子は先日会ったベルンハルトを思い浮かべてうーんと唸る。

「やはり、他の人間の意見を聞かねば判断を間違えそうだ。それは避けねばならないな。」

ビクトル王子はこの記憶についてを少なくともクローディアとアーベルには話すことを心に決めた。




「えっと一体どうしたんですか?突然呼び出して。」

ビクトル王子はまずはアーベルに話す事にした。

「少し、相談があってな。」

「相談ですか?クローディア様のことで?」

「いや、、まぁ、関係はないとは言えないが、、うん、そんな感じだな。」

「もう、はっきり言ってくださいよ!私も忙しいんですよ!」

「ああ、そうだな。まぁ、座ってくれ。」

そう言ってアーベルに座るよう勧めると自らも腰を下ろした。

「アーベル、お前はこの国をどう思っている?」

「アッカルドですか?そうですね。ここに来る前は只の小国、緩衝国というイメージでした。ここに来て、捕らえられた時には滅ぼしてもいい国になりました。でも、その後にクローディア様達とお話しして、地面が揺れて一緒に復興事業に携わっている今は、、、第二の故郷という感じですね。実際ビクトル王子が婿入りすれば私もこちらに移り住む事になると思いますし、、。」

「そうか、、もしこの国が滅亡すると言ったらどうする?」

「物騒ですね。滅亡ですか?シダール絡みじゃなければ助けられればいいなくらいは思いますよ。シダールが必要だと判断したら、しょうがないとは思いますが。でも、折角ここまで復興したので無駄にはしたくないですね。」

「そうか、、、。アーベル、今から私は突拍子もない話をする。信じるも信じないもお前の好きにしていい。ただし、私はお前の考えを聞きたいと思っている。」

真剣なビクトル王子の表情にアーベルは姿勢を正した。

「わかりました。どうぞ。」

「、、、、私には私の物ではない記憶があるのだ。」

「え?」

そうしてビクトル王子は記憶があるとわかってからの自分の言動とこれから起こりうる出来事についてを出来る限り順序立てて話した。

「、、というわけなのだ。」

ビクトル王子が話し終わると二人の間に暫し沈黙が訪れた。
やはり信じろというのは無理かとビクトル王子が諦めかけた時にアーベルが考え深そうに頷いた。

「やっと、わかりました。納得しました。」

そう言って顔を上げたアーベルはとてもスッキリとした顔をしていた。

「いやー。可笑しいと思ったんですよ。大国シダールの王子なのに何故このアッカルドにあれだけ執着するのか。偶に特殊組織にクローディア様に手紙を届けているのにどうして親密にならないのだろうとか。どうして地面が揺れた時あんなに落ち着いていられたのかとか。疑問は色々あったんです。それがスッキリしましたよ。それこそ十五年分くらい溜まりに溜まった疑問がすっきりと解決した気分です。」

「そ、それはよかった。しかしお前は私の言った事を信じるのか?」

「当たり前ですよ。私が何年ビクトル王子に付いてると思っているんですか?こんな下らない嘘をこの忙しい時に付くよう人間ではない事は嫌という程わかります。そうしたら、もう、信じるしかないじゃないですか。」

「そ、そうか、、それでお前の意見は?」

ビクトル王子は自分が話すべきか否か悩んでいた自分が馬鹿みたいだと思いながらも安堵の溜息をついた。

「意見ですか?一言でいうなら、、、ビクトル王子は馬鹿野郎ですかね。」

「、、、、、は?」

「わかりませんか?もっと早くに話すべきでした。それこそ十年前に!!いえ、もっとその記憶を自覚した時だって私は側にいたはずです。」

「あ、ああ。」

「可笑しいと思っていたんですよ。ふつうシダールの王子はこのような小国の事など気にも留めないのに、ビクトル王子はアッカルド、アッカルドとうるさかったですもんね。それが十年前に一度訪問するとそんな事は忘れたかのように放置ですからね。皆首を傾げたもんですよ。」

「そ、そうか、、、。」

「それに、、、そのファティマ?ですか?予言書は、、、マジ、最悪です。」

「、、、ハハハ、、、。」

ビクトル王子はアーベルの言葉にガックリと肩を落としたのだった。
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