悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

51、わたくし、全てを手に入れます

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クローディアがビクトル王子に恋愛勝負宣言をしてから数ヶ月が経過した。
地面が揺れた事による被害の復興も進み、王都も真新しい建物も含めてまた前の様な賑やかさを取り戻しつつあった。
そんな中で変化した者と変化しなかった者の間に大きな溝が生まれていた。
変化した者とは勿論クローディアを始めとする新行政組織で変化しなかった者はローレンス率いる旧政府の者だった。
災害時の対応で大きな差が発生し、司法と経済も巻き込んでの実政府の交代劇があったのだった。それによってローレンスからは王という位以外の権限が剥奪されて政治の実権はクローディア達に移る事になったのだった。
これには多くの国民の嘆願書がこの国の三権の長を動かしたと言っても過言ではなかった。
そうして動き出した新行政府はクローディアとビクトルを中心に組閣され国民に二人の婚約と共に発表されたのだった。
これはビクトル王子の勧めで国民の暗い気持ちを明るくする為にも慶次を公表しようという事になったのだ。
勝ち負けはまだついていないが、勿論二人の気持ちも何となく伝わった事もこの婚約発表を後押ししたことに違いはない。

「クローディア!!」

「はい、何でしょうか?ビクトル様。」

「き、今日のそ、其方も、、う、美しいな。」

「まぁ、ありがとうございます。ビクトル様も素敵ですわ。」

そう言ってにっこり笑ったクローディアを見て顔を真っ赤に染めたのはビクトル王子本人だった。

「くっ、、。今日も負けか、、、。」

「ふふ、ビクトル様、もうやめませんか?毎日どちらの方が顔を赤くするかでは勝敗を決められませんわ。」

「ふむ、そうかもしれないな、、。では、クローディアはどの様な勝負を望んでいるのだ?」

クローディアから恋愛勝負と言われてからビクトル王子の方がそれを口実にクローディアに話しかける様になっていた。

「そうですわね。プロポーズした方が負け?とか?」

「プ、プ、プロポーズ!!」

「ええ、まだ、わたくしビクトル様からプロポーズされていない事に気がついたのですわ。」

クローディアに痛いところを突っ込まれたビクトル王子はそうかもしれないなと早口で同意するとサッサと仕事モードに入った。この朝の一幕が終わると二人は仕事上のパートナーとしてよく話し、よく意見を言い合い、助け合い、このアッカルドの発展の為に知恵を絞っていた。
クローディアにとってビクトル王子の助言は的を射るものばかりで中にはクローディアが気づかなかった国内の問題まで指摘することがあるのだ。それはビクトルの記憶によるものが大きいのだがそれを知らないクローディアはシダールの情報網に舌を巻いていた。

「そういえば、奴らの動向はどうなのだ?」

ビクトル王子は取り敢えず今日話すべき内容を話してから休憩を取りながらクローディアに確認した。

「ローレンス王達のことですか?」

「ああ。この前はローレンス王とカーティスそれに王妃が毎日の様に集まっていると言っていたではないか?」

「はい、それは今も変わりませんわ。何をやっているのかはよくわからないのですが、今も三人で集まって何かを話している様ですの。ただ、三人以外に連絡をとっているわけではないのでクーデター等は心配要らないと思います。」

「そうか、、、。」

ビクトル王子からするとその会合はこの国の滅亡への引き金だと思っていたが未だに予言書についてはクローディアに話せていなかった。話しても良かったが、信じてもらえるのかが不安だし、いまこうして二人で国を運営しているからもしもの時も大丈夫ではないかと考えていた。

「でも、わたくし、少し心配しておりますの。ローレンス王はともかくあのカーティスがそう易々と権力の座を諦めるのかが信じられないのです。」

「そうなのか?」

「ビクトル様はご存知ないとは思いますが、カーティスは昔から自分の才覚に絶対の自信を持っていました。それなのにこの前の実権の放棄にああも簡単にサインして要求はローレンス王の王位維持のみだったのです。未だに信じられません。」

「ふむ、、、、。ではクローディアは奴等が何か企んでいると?」

「はい、その可能性は高いかと思います。」

「わかった。私も気をつけてみていよう。」

そうして二人の休憩は終わり、また、忙しい仕事に戻ったのだった。



「おい、本当にこれでいいのか?」

ローレンスの疑いの目を無視してカーティスはサオリに話しかける。

「サオリ王妃、私の計算では王妃がこの世界に来た日と来月の月の日は状況が似ていると思うのです。」

「どういう事?」

「サオリ王妃がこちらにいらしたのは十四年前の隠れ月の月の日です。隠れ月は十五年毎に暦の修正月として設定されているので来月が丁度十五年目になります。その日にサオリ王妃が迷い込んだ場所に行けばそのニホンという場所に帰れるのではないかと思います。」

「流石カーティス様ね。そんな難しい事があったのね。私全然気がつかなかったわ!!凄いわ!!」

サオリの全力の褒めに満更でもないカーティスが今度は地図を広げた。

「サオリ王妃が迷い込んだ森はこの地図で言うとどこですか?」

「うーん、地図だとよくわからないわ。実際に行って景色を見ないと、、、。」

「そんな事言っても今はまだ王宮から出るのは危険だぞ!民が殺気立ってるらしいからな。」

「何か目立つものはありませんでしたか?」

カーティスの確認にサオリは懸命に昔の事を思い出す。
本当に歩きスマホをしていて気づいたら森の中だったからよくわからないのだ。

「そうねぇ、森を出たら牛が一杯いてびっくりしたのよね。」

「牛ですか?」

「うん。真っ白な牛ばっかり居たのよね。」

「白い牛、白牛か!それならセドア共和国の国境付近が酪農地域だな!!」

ローレンスの言葉にカーティスも頷いてある一箇所を指差した。

「でしたら、多分この森辺りが怪しいですね。森を挟んでセドアとの国境になっていますがこの森の手前が大きな放牧地となっています。」

そう言って地図をトントンと指先で叩いたカーティスが顔を明あげた。

「じゃあ、来月その森に行けばニホンに帰れそうなの?」

「はい。」

「サオリ、其方は本当に帰りたいのか?私との結婚に未練は本当にないのか?」

もう何度も確認して諦めたはずのローレンスだがまた同じ質問をサオリにした。

「もう!何度も言ったでしょ?私の役はもう終わってるの!ローレンスの事はキャラとしか思えないの!カーティス様が言ってる様に私が帰ったら再婚して幸せになってよ!!わかった!」

「、、そんな、言い方は、、、、。」

ガックシと肩を落としたローレンスはいつも通りほって置いてカーティスとサオリはどうやったら来月ここに行く事が出来るのかを話し始めたのだった。
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