悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

44、わたくしは王太子です

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クローディアがバルコニーから見た王都は変わり果てていた。
あちらこちらで建物が倒壊し、煙が立っている建物も見られたのだ。人々は逃げ惑い、上から見てもパニックに陥っているのがよくわかった。

「これは、、酷いな。」

隣からビクトル王子の呟きが聞こえる。
その時クローディアの中の王太子としての責任感がフツフツと湧いてきた。
そして、クローディアはバルコニーの中央に移動すると姿勢を正した。

「皆、落ち着きなさい!!!」

クローディアが発した声は静かに王都に響き渡る。何故ならこのバルコニーには音響効果を狙った設計がされており、中央に立つとその声が何十倍にも増幅されて王都に響くようになっていた。

「皆、落ち着くのです!!わたくしは王太子クローディアです。皆、わたくしを見なさい!!」

突然聞こえたクローディアの声にパニックに陥っていた人々が徐々にこちらに注目するのがわかった。

「王太子クローディアから命じます!皆で負傷者を助けなさい。そして、今煙が出ている建物の火事を消し止めるのです!!」

そう言われて初めて周りを見渡した人々は慌てたように救助や消化に動き出した。

「怪我人や病人、高齢者や子供は定められた備蓄倉庫に向かいなさい!!そこには十分な食べ物が揃っています。」

その言葉に母親達は頷くと子供や高齢者が移動を開始するのが見えた。

「皆、地面の揺れは収まりました。落ち着いて行動するのです!!パニックになってはいけません!!!」

クローディアの静かな声に今まで逃げ惑っていた人々が口々に返事を返しているようだった。

「わたくしは皆と共にあります!!」

その言葉に人々は歓声をあげてそれぞれがすべき事を始めたようだった。
それを確認してクローディアはほうっと息を吐くとその場にへたり込んだ。

「クローディア、大丈夫か?」

ビクトル王子はクローディアを連れてバルコニーから中に入ると近くあった長椅子に座らせた。この辺りも花瓶や絵画が床に落ちたりしているのが見える。

「あ、ありがとうございます。ビクトル王子。」

「クローディア、、、。」

ビクトル王子はクローディアの目の前に座り込んでその顔を覗き込んだ。

「クローディア、私は君を尊敬する。君に敬意を払い。忠誠を誓う。」

「え?」

「あのバルコニーでの君は素晴らしかった。私は自分が如何に周囲に甘えていたのかがよくわかった。自分が苦手な部分を誤魔化していたのだ。この混乱が収まったらクローディアに話したいことがある。」

そういうとビクトル王子は立ち上がって初めてクローディアにエスコートの手を差し出した。自分でもびっくりだが、もうクローディアから逃げたいとも自分の気持ちを隠したいとも思わなかったのだ。

「クローディア、手を。」

クローディアも初めて差し出された手を驚いたように取ると力強く引かれた。

「まずはこの状況をなんとかしよう。私の騎士団が国境付近で待機している。人道支援としての入国を許可してほしい。」

クローディアは目を見開いて大きく頷いた。

「はい。王太子として許可します。」

「ありがとう。アーベルとバーナードもそろそろ情報を集めて戻るだろう。行こう。」

そう言ってビクトル王子はクローディアを優しく力強くエスコートしたのだった。




ガタガタ

「お、おい!!まだ揺れてるぞ!!」

ローレンスの情けない声がローレンスの寝室から響く。

「これはですね。地震という現象です。我が国では有史以来初めての経験ですね。いやー地面が揺れるとは驚きです。」

「カーティス!!おまえは恐ろしくはないのか!!」

「もちろん、初めはびっくりしましたよ?でも直ぐに図書館に行って調べたんです。この国で地震について一番知識があるのは私ですね!!フフハハハ」

「お前!姿が見えないと思ったらそんな事をしてたのか!!」

「大変だったんですよ?図書館の本は本棚から落ちてまして、何人か埋まってしまったようです。私も自分の欲しい本を見つけるのに三人も使いましたよ。」

「そ、それでも!!こういう時は私の側を離れるな!!いいか!!」

「はいはい。じゃあ、早速ですが地震が何故発生するのか教えますよ。原理が分かれば怖くありませんからね。」

「そうなのか?」

「そんなもんですよ。ここに来る途中も花瓶やらなんやらが落ちて割れていたのでローレンスは王としてここで暫くは安全に過ごした方がいいですからね。」

そうして、ローレンスとカーティスは暫く部屋に閉じ篭もる事にしたのだった。




「サオリ様!!」

ムクッと起き上がったサオリは初めこそぼーっとしていたが直ぐに正気を取り戻していた。

「じしん、、、そうよ!!逃げないと!!津波が来るわ!!」

それだけ言ってベッドから降りてドアに向かって走り出そうとした。サオリとそれを危ないですと引き止める侍女たちが攻防を繰り広げていると夫婦の寝室のドアが開いた。

「騒がしいな!何事だ!え?サオリ!!正気になったのか!!」

侍女とやり取りしているサオリを見て部屋に閉じこもっていたローレンスが慌てて駆け寄った。

「ローレンス!!ねえ、さっきの地震はヤバかったでしょ?早く逃げないとまずいわ!!」

「どうしたんだ?サオリ?」

「地震があって、海が近かったら津波がくるのよ!!早く高いところに逃げましょう!!」

「津波?なんだそれは?」

「ローレンスは知らないかもしれないけど大変なの!!王宮の屋上でいいから連れて行って!!ほら!!早く!!ローレンス!!!」

必死に縋り付いてくるサオリにローレンスも揺れも収まったし、屋上くらいはいいか、、と頷いた。

「わかった。よくわからないが折角正気に戻ったのだ。そんなに行きたいのなら屋上に行くか。」

「本当!!やっぱりローレンスだけが私をわかってくれるわ!!行きましょ!」

「わかった。おい其方ら!屋上にお茶の用意をしてくれ!!あっ早々日差しも強いから日よけも設置してくれ。ほら!早くしろ!」

ローレンスから要請に困惑顔を侍女の一人が一歩前に出て現状をローレンスに伝えた。

「あの、、ローレンス王、、大変申し訳ございません。現在はケガ人の手当や危険な場所の確認および要救護者の捜索に人手が取られておりまして、、、とても、お茶会のご用意が出来るとは思えません。」

「ん?なんだそれは。先程カーティスもそんな事は言ってなかったぞ。地震も聞けばそんなに恐ろしいものでもないらしい。騒ぎすぎなのだ。誰だ?そんな指示を出しているのは。」

「クローディア王太子殿下です。」

「ふん、クローディアか!地震が何かも知らず哀れな奴だ。そんな指示は無視していいから、早く屋上に行け!!」

ローレンスは面倒くさそうに手を振るとサオリをエスコートして王宮の屋上に向かった。
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