悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第3章 破滅への足音

41、動き出した運命

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クローディアとビクトル王子が婚約者(仮)となって、既に数ヶ月が経過した。
毎日二人はを保ちながらも話はするようになっていた。

「クローディアはいつも忙しそうだな。」

ビクトル王子が少し横柄な口調でクローディアに話しかける。

「そうですわね。やる事が山程ありますの。もう時間もないのですもの。」

「時間が?何のだ?」

「えっと、あ!それよりも最近はそのデートはなさらないのですか?」

「デートだと?」

「ええ、あのアーベルとです、、。なんたか最近はよくわたくしのお茶の時間にいらっしゃるけれど、ビクトル様はそれでいいのですか?わたくしは気にいたしませんし、口外もしませんからお二人で散歩でもしていらしたら?」

「何度も言っているが、それはそなた達の誤解だ。その証拠に毎日お茶しているではないか!そ、それに今は距離も近くなっているぞ。」

そうなのだ。ビクトル王子は未だにアーベルとの仲を誤解されたままではあるが毎日お茶を共にする習慣を作る事には成功していた。初めは縦に長いテーブルの端と端のはす向かいに座っていたが、今は斜め向かいくらいまで近寄る事が出来ていた。その間にもアーベルとの事は誤解だと言ってはいたのだが、いかんせん口調が硬いままなので中々信じては貰えてはいない。但し、婚約者としての関係は友人並みにはなってきていた。現にビクトル王子は、クローディアを呼び捨てにクローディアもビクトル王子を敬称抜きで呼ぶようになったのだ。
初めてクローディアに向かって名前を呼び捨てにした夜はビクトル王子の心に記念日として登録されている。勿論クローディアからビクトル王子ではなく、ビクトル様と呼ばれた日も然りだ。

「と、ところでクローディア。来月一緒にシダールに来い。」

「は?」

「王が会いたがっている。来月の森の日に行くぞ。」

「だ、ダメです!!わたくしは来月はアッカルドを離れられません!!」

「仕事か?何なら必要な者達を何人でも連れて行っても構わないぞ?」

「な、何人でも、、、。」

「ああ、明日までに返事をよこせ。わかったな!」

ビクトル王子はそれだけ言うとそのまま退出して行った。
残されたクローディアは今の提案を思案した。
あの襲撃からは特に危険な目にもあっておらずクローディアには考える時間は十分にあった。
それにローレンスからもカーティスからも特に妨害もなく王太子としての仕事は順調だった。勿論クローディアが全ての管理職の地位に信頼の置ける者を次々と抜擢したので口を出す事も出来なくなったのだ。二人にはいつやってもいいが面倒な仕事を常に回すように手配している。
ただ一つサオリには変化があった。クローディアと話してから正気に戻らなくなったのだ。ローレンスからは散々嫌味を言われたが特にクローディアが何もしていない事は複数の侍女から証言された為その話もうやむやとなった。
ファティマからの手紙もあれ以来届いておらず、サオリの行動が制限されている今クローディアは未だにこの国についての悩みを持ったままだった。

滅亡を止めるか止めないか、、、。

「それが問題ね。」

「は?何でしょうか?」

「何でもないのよ。バーナード。それよりも国内の備蓄倉庫の建設は、進んでいて?」

「はい。それは順調に進んでおります。しかし、何故突然各地域に備蓄倉庫などを建設なさるのですか?」

「何かあった時にはやはり水と食料を十分に用意する必要があるからよ。ほら?不作とか?」

「近年は豊作ばかりですが、、。」

「まぁ、いいじゃない?ついでに備蓄倉庫毎に利用者の登録も済んでいるのでしょう?」

「はい、それもクローディア様のおっしゃる通りに何処の誰がどの備蓄倉庫を使うのかの振り分けも完了しております。」

「よかったわ。ありがとう。バーナード。」

ビクトル王子が指定したまさにその日が今後の運命を変える出来事があるのだ。
ファティマの予言書に書かれている内容が本当なのかは半信半疑だが対処法や必要なものを着々と準備していた。

「あのクローディア様、先程のビクトル王子からのお誘いですが、如何されるのですか?」

「ああ、ご挨拶ね。確かに仮とはいえ婚約者であるわたくしから挨拶に向かわねばならないとは思っているわ。でも、来月の森の日は、、、無理なの。」

「はぁ。何かありましたか?」

バーナードが一生懸命に予定を確認しているが特に何もない。

「今はまだね。バーナード、サオリ王妃との面会をその日に設定して頂戴。」

「え?!王妃ですか?あの?」

「ええ、来月の森の日はサオリ王妃と過ごさねばならないのよ。」

「はぁ、承知しました。面会の要望を出しておきます。」

そうしてバーナードも退出していった。
クローディアはふぅと息を吐き出すとバルコニーから庭園を眺めた。
そう、今まで決められずにいたがビクトル王子の提案で心が決まった。はっきり言ってとても魅力的な誘いだった。この国を見捨てるには最高の誘いだった。この国で起こる事をシダールから高見の見物が出来る、しかも、助けたい者を連れて行けるなんて願っても無い申し出だった。
でも、クローディアは断った。自分でも思ってもみなかったが、考えるよりも先に断っていた。

「わたくしはこの国を守る!!」

それがクローディアの答えだった。



ビクトル王子は先程話したクローディアの様子に逃げる気は無いのだと確信した。元々それを確認する為の質問だった。
友人にはなれたが、自分の記憶を話すまでにはなれずクローディアがこれからどうするつもりなのかをやっと聞き出せたのだ。それならばビクトル王子の行動も変わってくる。クローディアがこの国から逃げないのならこの国を滅亡から守るだけだ。幸い来月の出来事でこのアッカルドは変わる。その混乱に乗じる事が出来るなとビクトル王子は頷くとアーベルに指示を出した。

「アーベル、私の騎士団に移動の準備を始めさせよ。」

「やっと呼びますか?」

「来月の森の日に出立出来るように手配を頼む。但し、国境で待機だ。」

「ここまでは連れてこないんですか?」

「ああ、私の騎士団とはいえ大義名分が必要だ。それを用意出来次第、王宮に呼び寄せる。いいな。」

「はい、わかりました。でも、最近クローディア様との会話が自然ですよね。もうそろそろ病気についてもお話しされた方がいいんじゃないですか?」

「そ、それも、、、来月だ!」

「はいはい。わかりましたよ。では、デートでもしますか?」

「ば、馬鹿者!!」

「ハハハ、失礼します。」

そう言ってアーベルは騎士団の手配のためにビクトル王子の側を離れた。その時前から随分と青白い顔をしたローレンス王とカーティスが歩いてきたのだった。
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