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第2章 クローディアとサオリ
37、わたくし、上手く笑えません
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「クローディア殿!」
本日三度目になるビクトル王子の引き止める声にとうとうクローディアは振り向いた。初めての時は聞こえないふり、二回目は黙礼だけですれ違った。流石に三度目となると無視するわけにはいかなかった。
「、、、はい、なんでございましょう。」
ビクトル王子はやっと振り向いたクローディアに安堵したように頷いた。
「あーそのー、怪我はなかったか?」
「、、、はい。昨日は助けて頂きありがとうございました。」
「あ、ああ。それは構わない。仮といえ婚約者だからな。えーあのーあの男から何か聞いたか?」
「あの男でございますか?」
「ああ、あの其方にいつも付き従っているあの男だ!」
「ああ、バーナードですね。今日は所用で外しておりますの。」
するとビクトル王子は言いにくそうに明後日の方を見る。
「ビクトル王子、バーナードから話は聞きました。女性と関わるのが苦手なのですわよね?気付かず申し訳ございません。えー、あの、、、わたくしのことはスケープゴートにして頂いて結構ですわ。元々恋などするつもりはありませんし、、、。アーベル殿とあの、その
お幸せに!!!」
それだけ言うとクローディアは呆然としているビクトル王子を置き去りにして走り去った。
「いや、違うのだ!!クローディア殿!!!」
クローディアの消えた方向にビクトル王子の言葉が誰にも届くことなく消えた。
ビクトル王子の伸ばされた手だけがその場に残っていた。この一か月で初めて話しかけたのに、、まさか、、三度も逃げられるとは、、。ビクトル王子は朝からクローディアの誤解を解くべく頑張っていた事が全て無駄に終わった事を悟った。
「あービクトル王子、、。お幸せにってあれですよね?私とビクトル王子に対してですよね?うわー超ショックですよ!!」
ビクトル王子の後ろ盾アーベルが他人事のようにつぶやく。
「言うな。私もショックなのだ。」
「ですよね、、、、。」
ビクトル王子は別のアプローチを考えてなんとか誤解を解く方法を見つけなければと心に誓った。
ドキドキドキドキ
クローディアは高鳴る胸を押さえて立ち止まるとほうっと息を吐いた。
「大丈夫よね?きちんと祝福出来たわよね?顔は赤くなっていないわよね?」
クローディアは昨夜ビクトル王子へ祝福を伝える練習をしていたのだ。
ビクトル王子への恋を自覚した途端失恋とはかなりのダメージだが、好きになった人の幸せを願いたいと思った。
「後はわたくしの心の問題だもの。何とかなるわ。これから婚約者となるんですもの。もっと上手く笑わなくちゃ!」
そう言ったクローディアの顔はピクピクと引きつっていた。
「クローディア様、お時間です。」
一人でブツブツ言っていると戻ってきたバーナードが厳しい顔つきでクローディアに話しかけた。
「わかったわ。行きましょう。」
「ですが、、本当に行かれるんですか?」
「王太子ですもの、、、。王妃主催のお茶会に招かれたら断る事は出来ないわ。それに、十年前ではないのよ。わたくしもただ泣いて状況が変わる事を願うだけの少女ではないの。」
「それは、そうですが、、、。せめてビクトル王子にお話しされたら、、。」
「何故?」
「クローディア様を嫌っている訳ではないとわかったのです。それどころかお守り頂けるくらいなのですから、お声がけしてご一緒に向かわれては如何ですか?御婚約者なのですから帯同しても何も問題はございません。」
バーナードの顔には一人で行かせるのは心配だと書いてあるようだ。
それでも、クローディアはサオリとはきちんと話して決着しなければならないと考えていた。何故なら、サオリはまだ制裁リストには載っていないのだ。感情のままであれば、クローディアの婚約者を寝取ったのだから制裁を加えてもいいと思ってしまうが客観的に見ると疑問が残る。
サオリは只知り合いが誰もいない異世界で守ってくれる人を探していた?とも考えられるのだ。それをローレンス始め馬鹿な男が入れ込んで、忖度して、クローディアの追放まで実行したかもしれない。クローディアも礼儀や常識のないサオリに多少は厳しい指摘をした自覚もある。婚約者のいる男性と二人きりになってはいけないとも言った。
その話を聞いた馬鹿達が勝手に動いていたら、、、、、サオリに罪はない?
クローディアの頭の中で理性と感情が戦っているようだった。
それならば、あの時の甘やかされた少女ではない自分の目で人となりを判断したいのだ。
「バーナード、大丈夫よ。わたくしは冷静だわ。」
静かで落ち着いた声で答えたクローディアにバーナードはハッとして頭を下げた。何故ならその佇まいは王太子だったからだ。
「行くわよ。」
クローディアは顔を上げて堂々とした足取りでサオリの待つ王妃のお茶会に向かったのだった。
「ビクトル王子、クローディア王太子殿下がアッカルド王妃の元に向かったようです。」
クローディアが襲われてから言動の把握してだけでなく護衛もするように言ってある特殊組織の者が音もなくビクトル王子に話しかけた。
今までの情けない顔から瞬時に切り替えて部下に話しかける。
「そうか。王妃の様子は?」
「は!何というか浮かれています。王太子が来るという返事を受け取ってから終始楽しそうに用意しております。」
「毒殺の気配は?」
「ありません。因みに昨日の襲撃はローレンス王の単独犯で宰相や王妃は関わっていないようです。」
「そうか。お前達はクローディアをしっかりと見張りながらいざという時は遠慮なく守れ。いいな?」
「はっ!ビクトル王子はいかがされますか?」
「わたしか、、、ローレンス王に挨拶にでも行ってくるさ。何かあったらすぐに知らせよ!わかったな!」
「は!」
そういうと音もなく気配が消えた。
「昨日の襲撃は王の仕業か、、、。クローディアの誤解を解く前に釘を刺しに行くしかないな。」
ビクトル王子はヘタレた態度から大国の王子然とした堂々とした態度でアーベルに指示を出す。
「アーベル、至急アッカルド王に面会要請を。あと、昨日の襲撃の証拠となるものはあるのか?」
アーベルも普段の友人ような態度を改めて臣下の礼を取る。
「いえ、残念ながら証拠はございません。」
「そうか、では、遠回しに釘を刺すしかないな。手配を頼む。」
「わかりました。少々お待ちください。」
そう言ってアーベルも退出していった。
ビクトル王子が記憶と現実を照らし合わせた流れだと後半年は王妃には異変はないはずだ。
記憶では半年後に起こる事が、聡明で魅力的だった王妃を豹変させて国を滅ぼす行動をとるようになるのだ。だから、それまでは大丈夫な気がする。
もちろんビクトル王子が記憶の中で知っている王妃であればなのだが、、、。
思い出してみるとこの頭の中にある記憶は年々薄れているようなのだ。昔は小説のようだったが、最近は年表のように出来事がつらつらと頭に浮かぶイメージになっている。なので登場人物の言動はわかってもその奥にある気持ちは理解できない。
ビクトル王子は自分の記憶と現在の王妃の言動との差異を探ろうとしたのだが、王妃が半年後の出来事から起こす事件が何かはわかるが何故?の部分がよくわからないので止める事は難しいという結論に達していた。
原因がわからないから、実際に起きた時に対処するしかない。
「まあ、それもクローディアが滅亡からこの国を救いたいと思ったら、、だが。」
クローディアだけを助けるためなら何もしないで滅亡前にクローディアを連れてシダールに行けばいいのだ。理由は幾らでも思いつく。挨拶や旅行、シダール王からの召喚でもいい。自分達が滅亡から逃れる術はある。
但し、クローディアが国ごと救うとなると王妃を止めるか、シダールの力を使うかしかないのだ。あれが起こるまでの半年で何とかクローディアと色々話さなければならない。
一年あると思っていた期限が記憶の精査で半年に短縮してしまった事もビクトル王子を焦らせている原因なのだ。
「半年で十メートルの距離を縮めて、誤解を解き、クローディアの希望を聞き出す、、か。」
ビクトル王子は、あまりに高い目標に肩を落とした。
本日三度目になるビクトル王子の引き止める声にとうとうクローディアは振り向いた。初めての時は聞こえないふり、二回目は黙礼だけですれ違った。流石に三度目となると無視するわけにはいかなかった。
「、、、はい、なんでございましょう。」
ビクトル王子はやっと振り向いたクローディアに安堵したように頷いた。
「あーそのー、怪我はなかったか?」
「、、、はい。昨日は助けて頂きありがとうございました。」
「あ、ああ。それは構わない。仮といえ婚約者だからな。えーあのーあの男から何か聞いたか?」
「あの男でございますか?」
「ああ、あの其方にいつも付き従っているあの男だ!」
「ああ、バーナードですね。今日は所用で外しておりますの。」
するとビクトル王子は言いにくそうに明後日の方を見る。
「ビクトル王子、バーナードから話は聞きました。女性と関わるのが苦手なのですわよね?気付かず申し訳ございません。えー、あの、、、わたくしのことはスケープゴートにして頂いて結構ですわ。元々恋などするつもりはありませんし、、、。アーベル殿とあの、その
お幸せに!!!」
それだけ言うとクローディアは呆然としているビクトル王子を置き去りにして走り去った。
「いや、違うのだ!!クローディア殿!!!」
クローディアの消えた方向にビクトル王子の言葉が誰にも届くことなく消えた。
ビクトル王子の伸ばされた手だけがその場に残っていた。この一か月で初めて話しかけたのに、、まさか、、三度も逃げられるとは、、。ビクトル王子は朝からクローディアの誤解を解くべく頑張っていた事が全て無駄に終わった事を悟った。
「あービクトル王子、、。お幸せにってあれですよね?私とビクトル王子に対してですよね?うわー超ショックですよ!!」
ビクトル王子の後ろ盾アーベルが他人事のようにつぶやく。
「言うな。私もショックなのだ。」
「ですよね、、、、。」
ビクトル王子は別のアプローチを考えてなんとか誤解を解く方法を見つけなければと心に誓った。
ドキドキドキドキ
クローディアは高鳴る胸を押さえて立ち止まるとほうっと息を吐いた。
「大丈夫よね?きちんと祝福出来たわよね?顔は赤くなっていないわよね?」
クローディアは昨夜ビクトル王子へ祝福を伝える練習をしていたのだ。
ビクトル王子への恋を自覚した途端失恋とはかなりのダメージだが、好きになった人の幸せを願いたいと思った。
「後はわたくしの心の問題だもの。何とかなるわ。これから婚約者となるんですもの。もっと上手く笑わなくちゃ!」
そう言ったクローディアの顔はピクピクと引きつっていた。
「クローディア様、お時間です。」
一人でブツブツ言っていると戻ってきたバーナードが厳しい顔つきでクローディアに話しかけた。
「わかったわ。行きましょう。」
「ですが、、本当に行かれるんですか?」
「王太子ですもの、、、。王妃主催のお茶会に招かれたら断る事は出来ないわ。それに、十年前ではないのよ。わたくしもただ泣いて状況が変わる事を願うだけの少女ではないの。」
「それは、そうですが、、、。せめてビクトル王子にお話しされたら、、。」
「何故?」
「クローディア様を嫌っている訳ではないとわかったのです。それどころかお守り頂けるくらいなのですから、お声がけしてご一緒に向かわれては如何ですか?御婚約者なのですから帯同しても何も問題はございません。」
バーナードの顔には一人で行かせるのは心配だと書いてあるようだ。
それでも、クローディアはサオリとはきちんと話して決着しなければならないと考えていた。何故なら、サオリはまだ制裁リストには載っていないのだ。感情のままであれば、クローディアの婚約者を寝取ったのだから制裁を加えてもいいと思ってしまうが客観的に見ると疑問が残る。
サオリは只知り合いが誰もいない異世界で守ってくれる人を探していた?とも考えられるのだ。それをローレンス始め馬鹿な男が入れ込んで、忖度して、クローディアの追放まで実行したかもしれない。クローディアも礼儀や常識のないサオリに多少は厳しい指摘をした自覚もある。婚約者のいる男性と二人きりになってはいけないとも言った。
その話を聞いた馬鹿達が勝手に動いていたら、、、、、サオリに罪はない?
クローディアの頭の中で理性と感情が戦っているようだった。
それならば、あの時の甘やかされた少女ではない自分の目で人となりを判断したいのだ。
「バーナード、大丈夫よ。わたくしは冷静だわ。」
静かで落ち着いた声で答えたクローディアにバーナードはハッとして頭を下げた。何故ならその佇まいは王太子だったからだ。
「行くわよ。」
クローディアは顔を上げて堂々とした足取りでサオリの待つ王妃のお茶会に向かったのだった。
「ビクトル王子、クローディア王太子殿下がアッカルド王妃の元に向かったようです。」
クローディアが襲われてから言動の把握してだけでなく護衛もするように言ってある特殊組織の者が音もなくビクトル王子に話しかけた。
今までの情けない顔から瞬時に切り替えて部下に話しかける。
「そうか。王妃の様子は?」
「は!何というか浮かれています。王太子が来るという返事を受け取ってから終始楽しそうに用意しております。」
「毒殺の気配は?」
「ありません。因みに昨日の襲撃はローレンス王の単独犯で宰相や王妃は関わっていないようです。」
「そうか。お前達はクローディアをしっかりと見張りながらいざという時は遠慮なく守れ。いいな?」
「はっ!ビクトル王子はいかがされますか?」
「わたしか、、、ローレンス王に挨拶にでも行ってくるさ。何かあったらすぐに知らせよ!わかったな!」
「は!」
そういうと音もなく気配が消えた。
「昨日の襲撃は王の仕業か、、、。クローディアの誤解を解く前に釘を刺しに行くしかないな。」
ビクトル王子はヘタレた態度から大国の王子然とした堂々とした態度でアーベルに指示を出す。
「アーベル、至急アッカルド王に面会要請を。あと、昨日の襲撃の証拠となるものはあるのか?」
アーベルも普段の友人ような態度を改めて臣下の礼を取る。
「いえ、残念ながら証拠はございません。」
「そうか、では、遠回しに釘を刺すしかないな。手配を頼む。」
「わかりました。少々お待ちください。」
そう言ってアーベルも退出していった。
ビクトル王子が記憶と現実を照らし合わせた流れだと後半年は王妃には異変はないはずだ。
記憶では半年後に起こる事が、聡明で魅力的だった王妃を豹変させて国を滅ぼす行動をとるようになるのだ。だから、それまでは大丈夫な気がする。
もちろんビクトル王子が記憶の中で知っている王妃であればなのだが、、、。
思い出してみるとこの頭の中にある記憶は年々薄れているようなのだ。昔は小説のようだったが、最近は年表のように出来事がつらつらと頭に浮かぶイメージになっている。なので登場人物の言動はわかってもその奥にある気持ちは理解できない。
ビクトル王子は自分の記憶と現在の王妃の言動との差異を探ろうとしたのだが、王妃が半年後の出来事から起こす事件が何かはわかるが何故?の部分がよくわからないので止める事は難しいという結論に達していた。
原因がわからないから、実際に起きた時に対処するしかない。
「まあ、それもクローディアが滅亡からこの国を救いたいと思ったら、、だが。」
クローディアだけを助けるためなら何もしないで滅亡前にクローディアを連れてシダールに行けばいいのだ。理由は幾らでも思いつく。挨拶や旅行、シダール王からの召喚でもいい。自分達が滅亡から逃れる術はある。
但し、クローディアが国ごと救うとなると王妃を止めるか、シダールの力を使うかしかないのだ。あれが起こるまでの半年で何とかクローディアと色々話さなければならない。
一年あると思っていた期限が記憶の精査で半年に短縮してしまった事もビクトル王子を焦らせている原因なのだ。
「半年で十メートルの距離を縮めて、誤解を解き、クローディアの希望を聞き出す、、か。」
ビクトル王子は、あまりに高い目標に肩を落とした。
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