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第2章 クローディアとサオリ
36、わたくし、恋しておりません
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「お、おかしいわ。」
部屋に帰ったクローディアは自分の胸に手を当てて首をかしげる。
先程の襲撃について依頼者のヒントがないかを確認しながら思い出していた。
それなのにビクトル王子の至近距離の顔を思い出すと心臓がドキドキするのだ。それこそ黒尽くめの男達の特徴を思い出そうとしているのに、ビクトル王子の顔や腕の感覚、抱きしめられた逞しい胸ばかりを思い出してしまう。
そして、胸がドキドキするというのを繰り返していた。
「だ、ダメだわ。全然賊の事は思い出せない。」
クローディアはため息をつくとベッドに座ってから横になる。
この感情をクローディアは、よく知っている。取り分け十数年前はこの感情に振り回されたのだ。忘れるはずもない。
(わたくしは、ビクトル王子に恋してしまったの、、、。)
クローディアにとって恋とはまやかしだ。気の迷いと言ってもいい。
(もう、二度としないと心に決めたのに、、、。)
クローディアは別の意味で涙が滲んでくるのを感じていた。
それでも恋とは落ちるものなのだ。
クローディアはどうしようもない胸の高鳴りにこの先どのようにビクトル王子と接するべきなのかを考えた。
(開き直れば婚約者(仮)同士、こ、恋したって全然問題ないわ。問題は完璧な片思いってことよ。でも、さっき助けてくれた時はいつものような冷たさは感じなかったし、そんなには嫌われていないかもしれない。)
そんな事を考えていると部屋のドアが叩かれた。
「クローディア様、バーナードでございます。」
「今、行くわ。」
クローディアは一旦恋の事は忘れてベッドから降りて立ち上がるとドアに向かった。
「え?!どういうことかしら?」
「あの、ですからビクトル王子は女性が苦手なだけでクローディア様を嫌っている訳ではなかったのでございます。」
「女性が?苦手?」
「はい、ビクトル王子達は誤魔化しておいででしたが私はこの目でしっかりと見たのです。間違いありません。ビクトル王子と側近のアーベル殿はそういう仲なのです。」
「そういう、、仲?そんな、、、。」
傍目から見てもズドーンと落ち込んだクローディアにバーナードは畳み掛ける。
「ですから、ビクトル王子のあの態度は決してクローディア様を嫌っている訳ではないのです。ご安心下さい!!」
バーナードはその後賊の事と話してから部屋を出て行ったがクローディアは上の空で頷いていただけだった。
「まさか、、、もう、、失恋したのかしら?わたくし、、、。」
まさかビクトル王子がそういう趣味だとは思わなかった。そうなると心が伴わない政略結婚はビクトル王子の望みなのかもしれない。そして、嫌っているのに助けたという矛盾も説明がつく。説明がつかないのはクローディアの気持ちだけだった。
恋を自覚した途端失恋とは笑えない。あまりの事に涙も出ない。
クローディアはその夜は夜中まで悶々と考えてしまったのだった。
「で?どうするんですか?ビクトル王子。」
部屋に戻ったビクトル王子にアーベルが呆れたように問いかける。
「あれは、あの男は、、誤解したままだよな?」
「ですね。私としても不名誉極まりないですが!」
「私にとってもだ!!」
そう言ってビクトル王子は頭を抱えた。
「でも、そう考えると今までのビクトル王子の言動が全て説明がつくという摩訶不思議な現象が起こっています。」
「そうか?」
「はい。クローディア様に冷たくしたのは女性が苦手だから、婚約を了承したのは気持ちの伴わない結婚が必要だったから、そして何より三十手前まで結婚していなかったのは女性が恋愛対象ではなかったから、、、。完璧です。」
アーベルが話した事を客観的に考えると確かにその通りなのだ。もちろん気持ち的には何度か恋もしたし、好みの女性もいたが本当の意味でお付き合いまで発展した事はない。その事も側から見ればそういう事だと取られかねない。
「はぁ、、、。」
その事実に折角クローディアとの関係が改善されかけたのに全てが間違った解釈の元に理解されてしまうだろう事にため息しか出ない。そして、チラリとアーベルを見て、更に深くため息をついた。
「あ!ビクトル王子、私も不満ですから!!何が悲しくてこんなヘタレ王子との仲を疑われないといけないんですか!!やめてくださいよ!!」
「アーベル、、お前、私の傷に塩を塗ってるぞ。明日からどんな顔でクローディアに会えばいいのだ、、、。」
「ですよね。私もそんな目で見られていると考えただけで頭が痛いです。」
ビクトル王子とアーベルの深いため息がもう一度吐き出されたのだった。
「何!!!失敗したのか!!」
ローレンスは報告に来た男に強い口調で叱責した。
「申し訳ございません。しかし、まさかシダールの王子が邪魔に入るとは、、、。」
「ええい!!黙れ。クローディアが王太子に留まれないくらいの怪我をさせよと命じたではないか!!」
「は!」
「そうなれば仮であっても婚約者なのだ。あの王子が王太子ではなくなったクローディアをシダールに連れ帰るだろう。そうすればこの国にうるさい事を言う人間がやっといなくなるのだ!!」
「あの、ローレンス王、カーティス様はどちらに?」
怒鳴り散らすローレンスの背後にいつも笑顔で立っているはずのカーティスが見当たらない事に男が気づいた。
「ん?カーティスか?あいつは何故かクローディアを一年後の正式婚約破棄まではここに留めたいとうるさいのだ。私にはこの仮婚約期間でクローディアを失墜させれば良いと言ったくせにな!!」
そう言ってローレンス王は今度はカーティスへの不満を爆発させた。
「大体あいつは少し頭が回るからと言って私のやる事に一々口を出し過ぎるのだ!!王は私なのだぞ!!そういつまでもあいつのいう事は聞けん!」
「はぁ、ではこの襲撃はローレンス王の独断という事でしょうか?」
「無論だ。カーティスは知らん。あいつはサオリのことまでとやかく言いはじめたのだ。私の女どもの事は私が決めるのだ!!」
そう言ってローレンス王は男に次の指示を待てというと部屋を退出していった。
部屋に帰ったクローディアは自分の胸に手を当てて首をかしげる。
先程の襲撃について依頼者のヒントがないかを確認しながら思い出していた。
それなのにビクトル王子の至近距離の顔を思い出すと心臓がドキドキするのだ。それこそ黒尽くめの男達の特徴を思い出そうとしているのに、ビクトル王子の顔や腕の感覚、抱きしめられた逞しい胸ばかりを思い出してしまう。
そして、胸がドキドキするというのを繰り返していた。
「だ、ダメだわ。全然賊の事は思い出せない。」
クローディアはため息をつくとベッドに座ってから横になる。
この感情をクローディアは、よく知っている。取り分け十数年前はこの感情に振り回されたのだ。忘れるはずもない。
(わたくしは、ビクトル王子に恋してしまったの、、、。)
クローディアにとって恋とはまやかしだ。気の迷いと言ってもいい。
(もう、二度としないと心に決めたのに、、、。)
クローディアは別の意味で涙が滲んでくるのを感じていた。
それでも恋とは落ちるものなのだ。
クローディアはどうしようもない胸の高鳴りにこの先どのようにビクトル王子と接するべきなのかを考えた。
(開き直れば婚約者(仮)同士、こ、恋したって全然問題ないわ。問題は完璧な片思いってことよ。でも、さっき助けてくれた時はいつものような冷たさは感じなかったし、そんなには嫌われていないかもしれない。)
そんな事を考えていると部屋のドアが叩かれた。
「クローディア様、バーナードでございます。」
「今、行くわ。」
クローディアは一旦恋の事は忘れてベッドから降りて立ち上がるとドアに向かった。
「え?!どういうことかしら?」
「あの、ですからビクトル王子は女性が苦手なだけでクローディア様を嫌っている訳ではなかったのでございます。」
「女性が?苦手?」
「はい、ビクトル王子達は誤魔化しておいででしたが私はこの目でしっかりと見たのです。間違いありません。ビクトル王子と側近のアーベル殿はそういう仲なのです。」
「そういう、、仲?そんな、、、。」
傍目から見てもズドーンと落ち込んだクローディアにバーナードは畳み掛ける。
「ですから、ビクトル王子のあの態度は決してクローディア様を嫌っている訳ではないのです。ご安心下さい!!」
バーナードはその後賊の事と話してから部屋を出て行ったがクローディアは上の空で頷いていただけだった。
「まさか、、、もう、、失恋したのかしら?わたくし、、、。」
まさかビクトル王子がそういう趣味だとは思わなかった。そうなると心が伴わない政略結婚はビクトル王子の望みなのかもしれない。そして、嫌っているのに助けたという矛盾も説明がつく。説明がつかないのはクローディアの気持ちだけだった。
恋を自覚した途端失恋とは笑えない。あまりの事に涙も出ない。
クローディアはその夜は夜中まで悶々と考えてしまったのだった。
「で?どうするんですか?ビクトル王子。」
部屋に戻ったビクトル王子にアーベルが呆れたように問いかける。
「あれは、あの男は、、誤解したままだよな?」
「ですね。私としても不名誉極まりないですが!」
「私にとってもだ!!」
そう言ってビクトル王子は頭を抱えた。
「でも、そう考えると今までのビクトル王子の言動が全て説明がつくという摩訶不思議な現象が起こっています。」
「そうか?」
「はい。クローディア様に冷たくしたのは女性が苦手だから、婚約を了承したのは気持ちの伴わない結婚が必要だったから、そして何より三十手前まで結婚していなかったのは女性が恋愛対象ではなかったから、、、。完璧です。」
アーベルが話した事を客観的に考えると確かにその通りなのだ。もちろん気持ち的には何度か恋もしたし、好みの女性もいたが本当の意味でお付き合いまで発展した事はない。その事も側から見ればそういう事だと取られかねない。
「はぁ、、、。」
その事実に折角クローディアとの関係が改善されかけたのに全てが間違った解釈の元に理解されてしまうだろう事にため息しか出ない。そして、チラリとアーベルを見て、更に深くため息をついた。
「あ!ビクトル王子、私も不満ですから!!何が悲しくてこんなヘタレ王子との仲を疑われないといけないんですか!!やめてくださいよ!!」
「アーベル、、お前、私の傷に塩を塗ってるぞ。明日からどんな顔でクローディアに会えばいいのだ、、、。」
「ですよね。私もそんな目で見られていると考えただけで頭が痛いです。」
ビクトル王子とアーベルの深いため息がもう一度吐き出されたのだった。
「何!!!失敗したのか!!」
ローレンスは報告に来た男に強い口調で叱責した。
「申し訳ございません。しかし、まさかシダールの王子が邪魔に入るとは、、、。」
「ええい!!黙れ。クローディアが王太子に留まれないくらいの怪我をさせよと命じたではないか!!」
「は!」
「そうなれば仮であっても婚約者なのだ。あの王子が王太子ではなくなったクローディアをシダールに連れ帰るだろう。そうすればこの国にうるさい事を言う人間がやっといなくなるのだ!!」
「あの、ローレンス王、カーティス様はどちらに?」
怒鳴り散らすローレンスの背後にいつも笑顔で立っているはずのカーティスが見当たらない事に男が気づいた。
「ん?カーティスか?あいつは何故かクローディアを一年後の正式婚約破棄まではここに留めたいとうるさいのだ。私にはこの仮婚約期間でクローディアを失墜させれば良いと言ったくせにな!!」
そう言ってローレンス王は今度はカーティスへの不満を爆発させた。
「大体あいつは少し頭が回るからと言って私のやる事に一々口を出し過ぎるのだ!!王は私なのだぞ!!そういつまでもあいつのいう事は聞けん!」
「はぁ、ではこの襲撃はローレンス王の独断という事でしょうか?」
「無論だ。カーティスは知らん。あいつはサオリのことまでとやかく言いはじめたのだ。私の女どもの事は私が決めるのだ!!」
そう言ってローレンス王は男に次の指示を待てというと部屋を退出していった。
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