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第2章 クローディアとサオリ

33、わたくし、仕事に生きています

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クローディアとビクトル王子の婚約(仮)が整って既に一ヶ月が経過していた。
当初は一年の猶予に難色を示したシダールもアッカルドがすぐにビクトル王子の軟禁を解いた事を確認したことで(仮)婚約をしぶしぶ認めてくれた。
勿論そこにはアーベルとビクトル王子自身の口添えもあったのは言うまでもない。
流石のシダール王も末の息子から正式な婚約の前にクローディアとの距離を縮めたいと言われたら頷くしかなかった。
そして、今日もビクトル王子は王太子の婚約者(仮)として王宮で過ごしていた。

「アーベル、今日の予定は?」

「えっと、今日はこのアッカルドの産業について経済長官よりお話ししていただきます。その後は司法長官より法律的なシダール王国との差異についての説明がありますね。」

「そうか、。そ、そのクローディア殿との面会予定はどうなのだ?」

ビクトル王子の質問にアーベルは頭を掻いて口籠る。

「あー、、それですね、、。確かに面会の要請は毎日の様に出してはいるのですが、、中々承諾の返事がこないんですよ。」

「またか!この一ヶ月クローディアと会えたのは全て偶然庭園でではないか!」

「まぁ、しょうがないですよ。なんといってもビクトル王子はクローディア様を嫌っておいでですからね?」

「その噂はどこまで広がっているんだ?」

「もう、王宮中に広まってます。」

「、、そうなのか、、、。」

この一ヶ月10メールどころか話すことさえ満足にしていないビクトル王子は焦っていた。両親にクローディアとの仲を進言した事で毎日の様に様子を確認する手紙も届いている。話せたか?近づけたか?手を取れたか?優しく出来たか?と子供にするような質問ばかりなのだ。

「あっでも、今日も薔薇園にはいらっしゃるようですよ。」

「いつだ!」

「確か夕食の後だとダルトリーには聞いています。」

「そうか、、。では、今日も偶然会うぞ!」

「はいはい、わかりました。でも見ているだけじゃなく話しかけてくださいよ?」

「わ、わかっている!」

「そうそう、これも王宮での話なんですが、驚いたことにクローディア様の評価が真っ二つなんですよ。それこそ神のように崇拝する者と悪魔のように嫌っている者に分かれています。まるで意図的に分けているようですよ。」

「、、、そうか、、。」

少し思考に落ちたビクトル王子を残してアーベルは部屋から出て行った。
クローディアはビクトル王子の焦りなど知らず精力的に動いているようだった。政治に関しては流石にローレンスの息のかかった者が多いからなのか、専ら経済や司法の人間とこの国の現状把握や改善点、そして何より使える人間と使えない人間、信用できる人間と信用できない人間を見極めているように動いていた。
勿論ビクトル王子が見ているわけではないがクローディアの動向は逐一報告させていた。
そして、同時にビクトル王子は王妃サオリについても調査させていた。
ローレンスが閉じ込めるように囲っていて中々進まなかったがつい最近になってやっと、報告書が届いたのだ。
そこには突然この国に現れてから今日までの十数年が事細かに記載されていた。
今はそれを読みながら自分自身の持つ記憶と照らし合わせる作業を毎日少しずつ行っていた。
すると、少しずつ記憶と現実の差異が確認出来てきたのだ。

「誰かとこの状況を確認したいものだ。そして、クローディアがこの国を滅亡から救いたいのか、どのように変えていきたいのかを確認しなければ、、。」

ビクトル王子は今日こそは話しかけようと心に決めた。




クローディアは執務室で机に向かっていた。調べれば調べる程この国のダメさ具合がわかってきた。
前王ヒューバードが生きていた時はまだマシだった。手が行き届いていないなりに肝を押さえた政策がまだ国として成り立っていたのだ。それがローレンスが王になると全くといって良いほど何もしていない。いや、毎日何かはしているのだ。
ダルトリー始めクローディアの後押しで大臣になったもの達からの報告でもローレンスは働いている。しかし、それは今しなくても良い事ばかりなのだ。
今すべきことをせず、いつやっても良いことばかりをやる。そして、それを周りは許しているのだ。
今国を支えているのはカーティス一人といっても過言ではないが、そのカーティスも前王の教えを継承しただけで改善も何もしていない。

「もう、ダメね。この国は今もし他国から攻められたらあっという間に負けるわ。」

それが二年後なら更に簡単になるだろう。なぜなら政策を決定する権限を持つものがその事に気づいていないのだ。
クローディアは、このひと月で把握した現状を考えて今悩んでいた。

「わたくしは、この国を救うベきなのかしら?」

クローディアの机の上にはほぼ完成した制裁リストと救済リストが広げられていた。はっきりいってこの救済リストの人材を連れて逃げれば、国の再建は可能だ。一度焦土化してから新しい国を作った方がある意味簡単かもしれない。

そこに国民が含まれなければ、、だが。

リストに含まれるのは貴族と権力者のみ。国民は含まれない。
国の危機に逃げ出した王太子達を受け入れる可能性はゼロだ。
それが今のクローディアを悩ませていた。

「この国を戦争で勝利に導くほど改善するには二年は短すぎるわ。わたくし達が逃げて戻れば国民の非難は受けるが再建可能ね。でも、それはきっと将来に禍根を残す。それこそクーデターを誘発するレベルよね。」

それにとクローディアは自身の婚約にも思いを馳せる。あの後ビクトル王子からは面会の要請だけは定期的に来ていたがそれはあくまでもパフォーマンスだと考えていた。ある程度交流しなければ戦争になると考えているのだろう。その証拠にの要請はあるが等のいわゆるデートのようなお誘いは皆無だった。
偶に庭園で視線を感じて振り向くと遠くからビクトル王子が睨んでいることさえあるのだ。だからといって決して話しかけてこないのだから、この嫌われようは救いようがなかった。

「でも、こちらも一年後に正式に婚約となると見せかけだけでも仲良くしないといけないのかしら?面会を受けるべきなの?でも、それで冷たくされるのも嫌よね。」

ぶつぶつと呟いていたクローディアは机に手を乗せて立ち上がるとドアに向かった。こういう時は気分を変えるのだ。

「バーナード、少し早いけど薔薇園に行ってくるわ。」

「は、しかし護衛の者がまだ、、、。」

「大丈夫よ。気分転換に少し散歩するだけよ。」

「はぁ、いや、しかし、、。」

「後から寄越してちょうだい。わたくしは先にいってるわ。」

そう言ってクローディアは夕闇迫る薔薇園へ向かったのだった。
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