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第2章 クローディアとサオリ
32、わたくし、婚約者(仮)に嫌われています
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「という訳で軟禁は解かれました。もう自由にされても結構ですわ。」
クローディアは再びビクトル王子の元を訪れてローレンスと話した内容を説明した。
「あ、ああ、わかった。」
そういったビクトル王子はお茶を飲みながら、やはり10メートル先の定位置からクローディアに返事を返した。
「あの、あと、ビクトル王子に置かれましては戦争を止めるためとはいえ、わたくしと婚約となりまして申し訳ございません。但し、ローレンス王の言う通りですと一年間は(仮)となりますので、、、あの、、。」
クローディアは一瞬言葉を詰まらせてから意を決したように顔を上げてビクトル王子を見つめてた。
「わたくしのことがお嫌いでしたら、無理にわたくしにお付き合いする必要はございません!!」
「ブッ!!」
ビクトル王子は手にしていたカップを持ったままクローディアを凝視した。
「わたくし、わかっておりますの。ビクトル王子はわたくしの事がお嫌いでしょう?正式な婚約となると色々と一緒にやる事もあるとは思いますが、この一年は(仮)です。婚約式や披露パーティどころか正式発表もございません。もしかしたら一年後にはシダール王のお怒りも溶けるかもしれませんわ。で、ですので、しばらくはあの、観光のおつもりでご滞在なさってくださいませ!!」
それだけ言うとクローディアはそそくさとドアに向かった。
「お、おい、、。」
ドアの前でくるりと振り向くと淑女の礼をとってから部屋を出て行ってしまった。
「ハハハハハハハハハ」
隣からアーベルの盛大な笑い声が響く。
「な、なんだ!」
「なんだって、、笑うしかないじゃありませんか?ビクトル王子が説明するまでもなく、クローディア様から近寄るな宣言ですからね?笑わずにはいられませんよ?」
「ふん、、。」
「もう、既に嫌われていると思われてるんですね、、。ビクトル王子、本当に告白まで持っていけるんですか?まぁ期間は一年延びましたが、、。」
「そ、それは、、クローディア殿がいっていた通り、一年あれば父上の心変わりもあるかもしれないし、、。告白するほど懇意になれないもしれないし、無理して告白しなくても、、、。」
「あのシダール王ですよ?前言撤回はなさらないと思います。それよりも一年待って下さいと説得するのが大変ですよ。きっと。
正式な婚約を交わした時にクローディア様と談笑出来ないのは避けた方がいいですよ。好きまで行かなくとも現時点で婚約自体は嫌ではなさそうですよね?いえ、それどころか好みはどストライクなんじゃないですか?」
アーベルが少し揶揄うようにビクトル王子に話すとビクトル王子は顔を赤らめて早口で今後の方針を決めた。
「と、兎に角、私は暫くは今まで通りクローディア殿を遠くから見守るぞ!そして、1メートルずつ距離を縮めるのだ。一年後にはダンスも談笑も出来るはずだ!」
ビクトル王子の宣言に呆れたアーベルは適当に返事をした。
「はい、はい。わかりました。では、私はシダールにアッカルド王の言葉を伝えてきます。折角軟禁も解かれたんだし、散歩にでも行きましょう。」
そう言ってアーベルは部屋から出て行った。一人残ったビクトル王子はソファの背もたれに体を深く沈めて天を仰いだ。
「婚約、、か。覚えている記憶とドンドン乖離していくぞ。それに、もし本当に婚約となるのならこの国を滅亡から救う必要があるのか?なんといってもわ、私のこ、婚約者の国なのだから、、。」
一人ぶつぶつ話すビクトル王子は最後に一言呟いた。
「それに、、、あの王妃が、、ヒロイン?なのか?」
ビクトル王子の記憶にある王妃と実際に見た王妃はかなり違う。物語を読んでいるような記憶の中ではあの王妃はもっと、、、なんというか、、魅力的に描かれていた。
ビクトル王子の好みではないが、何人もの男を誑かし、ライバルを罠にはめ追い出して王妃となるのだ。それなりに魅力的なイメージだった。
だからビクトル王子はあの女がまさか王妃だとは思わなかった。
ビクトル王子は記憶の中でも誇り高いクローディアに惹かれていたが、普通の男はあの王妃に惹かれる程の美貌と才覚を持っているはずだった。
「おかしすぎる、、。」
ビクトル王子はうーんと頭を抱えた。
クローディアとの関係もさる事ながらこの王妃の言動も把握しておかなければ滅亡は止められないのだ。
王妃と滅亡は密接に絡んでくるはずだ。
(取り敢えずアーベルが依頼した特殊組織の情報を待って、必要なら予言者としてまた手紙を書くしかないな。)
ビクトル王子はそう決めてアーベルが戻るのを待っていた。
クローディアは今自分がビクトル王子に話した事を反芻しながら執務室に戻ってきた。
「あれで良かったのよね?」
最後に自問自答して頷いた。
そう、あれで良かったはずだ。なんといってもビクトル王子は自分の事は嫌っているようだし、それでも王族として争いを止めようとしてくれただけでも感謝しなければならない。
もしビクトル王子がうんと言わなければ婚約は出来ず、他の二案も実行出来ずにシダールはきっと二年も待たずに攻めて来たはずだ。
婚約者に嫌われる、嫌われたまま婚約する。そして、嫌われたまま一生を過ごすのか、、。クローディアの心に暗雲が立ち込めた。
でも、どうせ二年後には国は無くなるので、運良く生きていても婚約は破棄になるわね。
クローディアはそう考えて、最悪でも(仮)婚約者としての一年と婚約者としてもう一年の二年間だけなのだと嫌われていても良いではないかと自らに言い聞かせていた。
クローディアは再びビクトル王子の元を訪れてローレンスと話した内容を説明した。
「あ、ああ、わかった。」
そういったビクトル王子はお茶を飲みながら、やはり10メートル先の定位置からクローディアに返事を返した。
「あの、あと、ビクトル王子に置かれましては戦争を止めるためとはいえ、わたくしと婚約となりまして申し訳ございません。但し、ローレンス王の言う通りですと一年間は(仮)となりますので、、、あの、、。」
クローディアは一瞬言葉を詰まらせてから意を決したように顔を上げてビクトル王子を見つめてた。
「わたくしのことがお嫌いでしたら、無理にわたくしにお付き合いする必要はございません!!」
「ブッ!!」
ビクトル王子は手にしていたカップを持ったままクローディアを凝視した。
「わたくし、わかっておりますの。ビクトル王子はわたくしの事がお嫌いでしょう?正式な婚約となると色々と一緒にやる事もあるとは思いますが、この一年は(仮)です。婚約式や披露パーティどころか正式発表もございません。もしかしたら一年後にはシダール王のお怒りも溶けるかもしれませんわ。で、ですので、しばらくはあの、観光のおつもりでご滞在なさってくださいませ!!」
それだけ言うとクローディアはそそくさとドアに向かった。
「お、おい、、。」
ドアの前でくるりと振り向くと淑女の礼をとってから部屋を出て行ってしまった。
「ハハハハハハハハハ」
隣からアーベルの盛大な笑い声が響く。
「な、なんだ!」
「なんだって、、笑うしかないじゃありませんか?ビクトル王子が説明するまでもなく、クローディア様から近寄るな宣言ですからね?笑わずにはいられませんよ?」
「ふん、、。」
「もう、既に嫌われていると思われてるんですね、、。ビクトル王子、本当に告白まで持っていけるんですか?まぁ期間は一年延びましたが、、。」
「そ、それは、、クローディア殿がいっていた通り、一年あれば父上の心変わりもあるかもしれないし、、。告白するほど懇意になれないもしれないし、無理して告白しなくても、、、。」
「あのシダール王ですよ?前言撤回はなさらないと思います。それよりも一年待って下さいと説得するのが大変ですよ。きっと。
正式な婚約を交わした時にクローディア様と談笑出来ないのは避けた方がいいですよ。好きまで行かなくとも現時点で婚約自体は嫌ではなさそうですよね?いえ、それどころか好みはどストライクなんじゃないですか?」
アーベルが少し揶揄うようにビクトル王子に話すとビクトル王子は顔を赤らめて早口で今後の方針を決めた。
「と、兎に角、私は暫くは今まで通りクローディア殿を遠くから見守るぞ!そして、1メートルずつ距離を縮めるのだ。一年後にはダンスも談笑も出来るはずだ!」
ビクトル王子の宣言に呆れたアーベルは適当に返事をした。
「はい、はい。わかりました。では、私はシダールにアッカルド王の言葉を伝えてきます。折角軟禁も解かれたんだし、散歩にでも行きましょう。」
そう言ってアーベルは部屋から出て行った。一人残ったビクトル王子はソファの背もたれに体を深く沈めて天を仰いだ。
「婚約、、か。覚えている記憶とドンドン乖離していくぞ。それに、もし本当に婚約となるのならこの国を滅亡から救う必要があるのか?なんといってもわ、私のこ、婚約者の国なのだから、、。」
一人ぶつぶつ話すビクトル王子は最後に一言呟いた。
「それに、、、あの王妃が、、ヒロイン?なのか?」
ビクトル王子の記憶にある王妃と実際に見た王妃はかなり違う。物語を読んでいるような記憶の中ではあの王妃はもっと、、、なんというか、、魅力的に描かれていた。
ビクトル王子の好みではないが、何人もの男を誑かし、ライバルを罠にはめ追い出して王妃となるのだ。それなりに魅力的なイメージだった。
だからビクトル王子はあの女がまさか王妃だとは思わなかった。
ビクトル王子は記憶の中でも誇り高いクローディアに惹かれていたが、普通の男はあの王妃に惹かれる程の美貌と才覚を持っているはずだった。
「おかしすぎる、、。」
ビクトル王子はうーんと頭を抱えた。
クローディアとの関係もさる事ながらこの王妃の言動も把握しておかなければ滅亡は止められないのだ。
王妃と滅亡は密接に絡んでくるはずだ。
(取り敢えずアーベルが依頼した特殊組織の情報を待って、必要なら予言者としてまた手紙を書くしかないな。)
ビクトル王子はそう決めてアーベルが戻るのを待っていた。
クローディアは今自分がビクトル王子に話した事を反芻しながら執務室に戻ってきた。
「あれで良かったのよね?」
最後に自問自答して頷いた。
そう、あれで良かったはずだ。なんといってもビクトル王子は自分の事は嫌っているようだし、それでも王族として争いを止めようとしてくれただけでも感謝しなければならない。
もしビクトル王子がうんと言わなければ婚約は出来ず、他の二案も実行出来ずにシダールはきっと二年も待たずに攻めて来たはずだ。
婚約者に嫌われる、嫌われたまま婚約する。そして、嫌われたまま一生を過ごすのか、、。クローディアの心に暗雲が立ち込めた。
でも、どうせ二年後には国は無くなるので、運良く生きていても婚約は破棄になるわね。
クローディアはそう考えて、最悪でも(仮)婚約者としての一年と婚約者としてもう一年の二年間だけなのだと嫌われていても良いではないかと自らに言い聞かせていた。
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