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第2章 クローディアとサオリ
29、サオリの絶望
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「ん、、。」
サオリの意識がゆっくりと浮上していった。
折角日本に帰って学校に行くところだったのにあぁやっぱり夢だったと言う気持ちが覚醒を妨げていた。
「サオリ!!目が覚めたか?!」
サオリが少し目を開けるとそこには日本ではあり得ない程のイケメンが自分を心配そうに覗き込んでいた。
(美人は三日で飽きるって本当よね。)
サオリは面倒くさそうに起き上がると一応夫であるローレンスを見つめた。
「サオリ!何処か痛いところはないか?」
ローレンスがペタペタと触ってくるのを我慢しているとやっと安心したのか少し体を離してからもう一度サオリの顔を覗き込んだ。
「もしかして、何も覚えていないのか?」
ローレンスの瞳が憐憫の色を帯びる。本当にこの顔を見るとうんざりするのだ。それでもこの異世界ではローレンスの保護無くしては暮らせないのでうんざりした表情を隠して首を傾げた。
「何を?」
「いや、あの、、クローディアの事だ、、。」
その一言でサオリの頭がやっと動き始めた。
そうだ、そうだった。突然ゲームの世界に入り込んでそのゲームの主人公として楽しんだまでは良かった。
何人かの攻略キャラとの恋を楽しんで、最後は悪役令嬢を追い出して、王太子のローレンスと結婚したのだ。それまでは順調だった。
しかし、ゲームのストーリーをクリアしたのに日本に帰れないのだ。
サオリはゲームのエンディングである結婚式が終わったら帰れると思っていたのに何にも起こらなかったのだ。
そう、日々は淡々と過ぎていった。十年もだ!!
よくあるゲームの最初に戻る事も、悪役令嬢にギャフンされる事もなく本当に只々十年が経ってしまった。高校生だったサオリももう二十七歳だし、セーラー服も似合わない。転移してきた時に持っていた携帯の画面は真っ暗だし、そんな現実に押しつぶされそうだった。
その上ゲームのキャラであるローレンスを夫として見る事は出来ないし、二次元としてなら好きだが現実に存在すると大して愛してはいなかった。
元々こんな国とは早々に離れるつもりだったから愛着もない。
それでも、帰れない。日本への帰り方がわからないのだ。
サオリは絶望感に包まれて過ごしていたのだ。
そんな時にふと悪役令嬢の話を聞いた。なんでも今この国に戻っているらしい。
サオリは良くある話の様にもしかして悪役令嬢は転生者で日本への帰り方がわかるのでは!!と大急ぎでセーラー服を着込むと悪役令嬢の元に走ったのだ。
確かにドアを開けるとそこには悪役令嬢が立っていた。十年前とは随分と雰囲気が変わっていたがそれでも何回もゲームで戦ってきたのだ間違えるはずがない。
サオリは悪役令嬢目掛けて走った。
転生者であるはずの悪役令嬢に摑みかかる勢いで走ったまでは覚えているがそこで記憶は途切れていた。
「ねぇ、ローレンス?何があったの?なんで悪役、、クローディア様がいるの?なんで私には教えてくれなかったの?」
サオリは疑問に思ったことをそのままローレンスにぶつけてみた。
「お、落ち着いてくれ。ちゃんと話すから兎に角落ち着いてくれ。」
ローレンスの声にサオリはゆっくりと顔を横に向けてローレンスに頷いた。
「わかったから、話して!!」
ローレンスは最近では珍しくまともにやり取りが出来るサオリを見て不思議に思いながらもゆっくりと話し始めた。もちろんそれはクローディアが王太子として帰還した所から今日の王太子選抜審査までで知っている事を全て話したのだった。
「、、、そうだったのね。クローディア様が王太子になられたの、、、。」
「ああ、そうなんだ。サオリはクローディアが苦手だっただろう?だからサオリには知らせずにまた追い出そうとはしたんだ。でも、中々しぶとくて、、。無理だった。すまない。」
「苦手?あぁ、そうね。主人公だもの、悪役令嬢のクローディア様の事は苦手という事になるわね。でも、もうゲームは終わったもの。別になんとも思っていないわ。どちらかというとお話を聞きたいくらいなの。クローディア様なら日本への帰り方を知ってると思うのよ!!」
「え?」
サオリはローレンスに詰め寄るとその胸に手を置いてお願いする。
「ねぇ、ローレンス?私とクローディア様が話せるようにお願いして頂戴!!わかった?とっても大事な事なの!」
「それは、、、サオリに手を上げたシダールの王子の件もあるし、直ぐには無理だ。」
「なんでよ!ローレンスは王様になったんでしょう?何でも出来るんじゃないの?何でダメなの?!」
サオリは自分の感情が高まっていくのを感じていた。こうなるともう自分では止められない。自分の感情を全て吐き出さないと自分自身を制御出来ないのだ。
サオリは自分にも絶望していた。
「ローレンスは私の味方じゃないの?一緒に、力を合わせてゲームをクリアしたじゃない!!どうしてそんな意地悪を言うの!!ひどい!!酷すぎるわ!!」
サオリが感情のまま叫び続けると数人の侍女が興奮したサオリをそのまま部屋から連れ出して奥の王妃の部屋に連れていったのだった。
その後ろ姿を見てローレンスは深いため息をついた。
「おい、ローレンス。サオリはいつもああなのか?」
執務室の壁に寄りかかり事の次第を見つめていたカーティスは顔をしかめてローレンスに話しかけた。
「、、、ああ。そうだな、、。」
「さっきの態度といい、王妃に相応しくないと言う声が上がるのも時間の問題だぞ?」
「はぁ、、、、そうだな。」
「ローレンスには悪いが私だってあの勢いで走ってきたら叩き落とすよ。」
「そうか、、、。」
「お前はまだサオリを愛しているのか?」
カーティスの真剣な声にローレンスは即答する事が出来なかった。
サオリの意識がゆっくりと浮上していった。
折角日本に帰って学校に行くところだったのにあぁやっぱり夢だったと言う気持ちが覚醒を妨げていた。
「サオリ!!目が覚めたか?!」
サオリが少し目を開けるとそこには日本ではあり得ない程のイケメンが自分を心配そうに覗き込んでいた。
(美人は三日で飽きるって本当よね。)
サオリは面倒くさそうに起き上がると一応夫であるローレンスを見つめた。
「サオリ!何処か痛いところはないか?」
ローレンスがペタペタと触ってくるのを我慢しているとやっと安心したのか少し体を離してからもう一度サオリの顔を覗き込んだ。
「もしかして、何も覚えていないのか?」
ローレンスの瞳が憐憫の色を帯びる。本当にこの顔を見るとうんざりするのだ。それでもこの異世界ではローレンスの保護無くしては暮らせないのでうんざりした表情を隠して首を傾げた。
「何を?」
「いや、あの、、クローディアの事だ、、。」
その一言でサオリの頭がやっと動き始めた。
そうだ、そうだった。突然ゲームの世界に入り込んでそのゲームの主人公として楽しんだまでは良かった。
何人かの攻略キャラとの恋を楽しんで、最後は悪役令嬢を追い出して、王太子のローレンスと結婚したのだ。それまでは順調だった。
しかし、ゲームのストーリーをクリアしたのに日本に帰れないのだ。
サオリはゲームのエンディングである結婚式が終わったら帰れると思っていたのに何にも起こらなかったのだ。
そう、日々は淡々と過ぎていった。十年もだ!!
よくあるゲームの最初に戻る事も、悪役令嬢にギャフンされる事もなく本当に只々十年が経ってしまった。高校生だったサオリももう二十七歳だし、セーラー服も似合わない。転移してきた時に持っていた携帯の画面は真っ暗だし、そんな現実に押しつぶされそうだった。
その上ゲームのキャラであるローレンスを夫として見る事は出来ないし、二次元としてなら好きだが現実に存在すると大して愛してはいなかった。
元々こんな国とは早々に離れるつもりだったから愛着もない。
それでも、帰れない。日本への帰り方がわからないのだ。
サオリは絶望感に包まれて過ごしていたのだ。
そんな時にふと悪役令嬢の話を聞いた。なんでも今この国に戻っているらしい。
サオリは良くある話の様にもしかして悪役令嬢は転生者で日本への帰り方がわかるのでは!!と大急ぎでセーラー服を着込むと悪役令嬢の元に走ったのだ。
確かにドアを開けるとそこには悪役令嬢が立っていた。十年前とは随分と雰囲気が変わっていたがそれでも何回もゲームで戦ってきたのだ間違えるはずがない。
サオリは悪役令嬢目掛けて走った。
転生者であるはずの悪役令嬢に摑みかかる勢いで走ったまでは覚えているがそこで記憶は途切れていた。
「ねぇ、ローレンス?何があったの?なんで悪役、、クローディア様がいるの?なんで私には教えてくれなかったの?」
サオリは疑問に思ったことをそのままローレンスにぶつけてみた。
「お、落ち着いてくれ。ちゃんと話すから兎に角落ち着いてくれ。」
ローレンスの声にサオリはゆっくりと顔を横に向けてローレンスに頷いた。
「わかったから、話して!!」
ローレンスは最近では珍しくまともにやり取りが出来るサオリを見て不思議に思いながらもゆっくりと話し始めた。もちろんそれはクローディアが王太子として帰還した所から今日の王太子選抜審査までで知っている事を全て話したのだった。
「、、、そうだったのね。クローディア様が王太子になられたの、、、。」
「ああ、そうなんだ。サオリはクローディアが苦手だっただろう?だからサオリには知らせずにまた追い出そうとはしたんだ。でも、中々しぶとくて、、。無理だった。すまない。」
「苦手?あぁ、そうね。主人公だもの、悪役令嬢のクローディア様の事は苦手という事になるわね。でも、もうゲームは終わったもの。別になんとも思っていないわ。どちらかというとお話を聞きたいくらいなの。クローディア様なら日本への帰り方を知ってると思うのよ!!」
「え?」
サオリはローレンスに詰め寄るとその胸に手を置いてお願いする。
「ねぇ、ローレンス?私とクローディア様が話せるようにお願いして頂戴!!わかった?とっても大事な事なの!」
「それは、、、サオリに手を上げたシダールの王子の件もあるし、直ぐには無理だ。」
「なんでよ!ローレンスは王様になったんでしょう?何でも出来るんじゃないの?何でダメなの?!」
サオリは自分の感情が高まっていくのを感じていた。こうなるともう自分では止められない。自分の感情を全て吐き出さないと自分自身を制御出来ないのだ。
サオリは自分にも絶望していた。
「ローレンスは私の味方じゃないの?一緒に、力を合わせてゲームをクリアしたじゃない!!どうしてそんな意地悪を言うの!!ひどい!!酷すぎるわ!!」
サオリが感情のまま叫び続けると数人の侍女が興奮したサオリをそのまま部屋から連れ出して奥の王妃の部屋に連れていったのだった。
その後ろ姿を見てローレンスは深いため息をついた。
「おい、ローレンス。サオリはいつもああなのか?」
執務室の壁に寄りかかり事の次第を見つめていたカーティスは顔をしかめてローレンスに話しかけた。
「、、、ああ。そうだな、、。」
「さっきの態度といい、王妃に相応しくないと言う声が上がるのも時間の問題だぞ?」
「はぁ、、、、そうだな。」
「ローレンスには悪いが私だってあの勢いで走ってきたら叩き落とすよ。」
「そうか、、、。」
「お前はまだサオリを愛しているのか?」
カーティスの真剣な声にローレンスは即答する事が出来なかった。
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