悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第2章 クローディアとサオリ

27、ビクトル王子の考え

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「どうぞ、中へ。」

騎士に囲まれて部屋に戻ったビクトル王子はアーベルと共に滞在中の部屋に戻るとそのまま部屋に入った。背後でドアが閉められてその前に騎士が二人付いているようだった。

「ふむ、、こう来たか、、。」

「ビクトル王子?」

「ああ、いや、なんでもない。、アーベル、大丈夫か?」

ビクトル王子はそのまま部屋に入るとソファに腰掛けてアーベルを見た。

「大丈夫も何も、、、。これからどうするんですか?」

「どうしようもないだろう?まさかあの女が王妃とはな。狂った不審者かと思ったな。」

「まあ、確かに尋常じゃない雰囲気でしたね。あんな方が王妃とは私も思いませんでした。」

「ああ、聞くと見るとじゃ大違いだ。まぁ、ローレンス王の言っている事もわかる。王妃と知らなくとも私は王妃に手を上げたのだ。今のところ牢屋でないことに感謝するか。」

「何をのんきな事を仰っているんですか?シダールの者がこの事を知ったら直ぐに戦争ですよ?こんな国あっという間に無くなります。」

アーベルはそう言ってからブツブツと想定しうる可能性を考え始めた。
ビクトル王子は自分が知らない展開になった事で運命からの離脱は上手く言っているのではと考えていた。
やはりクローディアがここに王太子としている事が運命を変えているのだ。であればこのアッカルドが滅亡する事もないのかもしれない。

(いや、早まったのか?)

ビクトル王子は今アーベルが言ったことを考えてからシダールにこの事が伝わってしまったらと頭を抱えた。
もう三十歳だと言うのに両親も兄も少し過保護な面がある。普段は気にしていないがこの小国でシダールの第三王子が捕縛されたとなれば大騒ぎされるに決まっている。そして、もし、その怒りや心配から軍事的な解決を考えてしまったら、、、。

「三日で滅ぶな、、、、。」

「はい?何ですか?」

「私はシダールが動いたらこの国は三日しか持たないと思うがどうだ?」

するとアーベルは、んーっと考えてぽんっと手を打った。

「二日しか持ちませんよ。まぁ移動時間を入れたら一週間で焼け野原ですね。」

「ふむ、、。そうか、、。」

「そりゃそうです。大事な末息子なんですから、、、。」

ビクトル王子は自分が思っている以上に家族に大事にされている事がわかり少し照れ臭くなった。それでもアーベルになんとか打開策を確認する。

「止める手立ては?」

ビクトル王子的には滅亡は二年後で原因も全然違うのだ。今この国を潰しても何にもならない。クローディアもやりたい事あると言っていたのだ。

「そうですね。まずはビクトル王子自ら手紙で状況を説明していただきたいです。そして、誤解を受けた、牢屋ではなく、客室で過ごしていると伝えてもらえたら、、、止まるかもしれません。」

「わかった!!すぐに書くから用意してくれ。」

「でも、この国はあの王である限り監視対象国となりますね。何かしたら瞬殺ですよ。」

「まぁ、それは仕方がない。、今すぐ滅ぶよりはいいだろう?クローディアも何か目的があるようだしもう少しこのままにしたいな。」

ビクトル王子は用意された紙に手紙を書きながら天気の話をするように答えた。
アーベルはビクトル王子から受け取った手紙に自ら書いたメモを貼り付けてから窓の外のバルコニーに出た。そして、口笛を吹くとその場に手紙をおく。

「まぁ、これで少しは冷静さを取り戻してくれるといいですね。」

「ああ。」

二人が話しているといつのまにか手紙が消えていた。これはシダールの特殊組織の仕業だった。このアッカルドに限らずシダールのこの組織は殆どの国にそのネットワークを持っている。普段は情報収集を生業にしているが王族のためならばメールボーイもするし、護衛もする。
はっきり言ってビクトル王子が帰るかと一言言えばここから抜け出して帰る事も造作もないのだ。あの予言書をクローディアに届けたのもこの組織だった。

「で?ビクトル王子はこれからどうされますか?」

「そうだな。どうと言っても折角クローディアが骨を折ってこの部屋に留まらしてくれたんだ。暫くは様子見だな。」

「ええ?!そうなんですか?」

「そりゃそうさ。あの女の事も調べないとやばそうだからな。なんだってこの国はあんな奴らばかりなんだ?王も側近も王妃もクローディアをヤバイ瞳で見つめてるなんて危険すぎるだろう?」

「まぁ、しょうがないですね。わかりました。彼らが調査結果を持ってくるまでは大人しくしていましょう。」

アーベルは、そう言って部屋に用意されているお茶をセットし始めた。
ビクトル王子はそれを眺めながらもこれからの事を考えていた。

(こんなエピソードはなかったよな、、。隣国の王子が捕らえられるなんていう話は記憶には、ない。この記憶は更新されないんだな。)

「使えないな、、。」

「はい?何か?」

「いや、なんでもない。」

そう言ってからも記憶の中の王太子交代劇の後から滅亡までを、目を閉じで思い出していた。
急に静かになったビクトル王子を見てアーベルは、そっと飲み物をテーブルに置くと自分は続き部屋となっている自室に下がった。
アーベルも不思議だが極偶にこの王子はこのように考え事をする時があるのだ。その間は何をしても何を言っても反応が全くなく子供の頃は心配したが最近は意識が戻ってくるまで放置することになっていた。

「まあ、シダールの方は先程の手紙で止まるでしょう。」

アーベルが添えたメモにはこのアッカルドの王太子にビクトル王子が興味を持っていると書かれていた。もちろん恋愛としてと書いたのであの過保護な王族であっても静観すると踏んでいる。
何故なら彼らもビクトル王子の病気の事は知っているのでビクトル王子が好きになる程の女性がいるのならこの関係に水を差すような真似は絶対にしないはずなのだ。

「まぁ、まだ時間はあるという事ですね。」

アーベルはそう呟くと不便な軟禁生活をこれからどう過ごすかを考えることにした。
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