悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

文字の大きさ
上 下
26 / 71
第2章 クローディアとサオリ

26、王太子選定審査のその後

しおりを挟む
「私はこれで失礼する!!全く何の茶番なのだ!!こんな弱小国の王太子など誰がなっても同じではないか!!!」

ベルンハルトは自ら支持したリカルドが去り、ビクトル王子とも意見を合わせる事が出来なかったと怒りを撒き散らしていた。

「ベルンハルト殿、私の態度が誤解を与えたようで申し訳ない。但し私は公平にこの判断を下したという自負がある。ベルンハルト殿も自らのプライドに掛けて下した判断ならそれでいいではないか?」

ベルンハルトはビクトル王子の大国の王子然とした余裕のある態度に悔しさがこみ上げたがこの場では何も言わずにそのまま退出していった、

「この国もビクトル王子も許さん!」

会場を出た途端放った言葉はそのまま誰にも聞かれる事なく霧散した。



「お姉様!おめでとうございます!」

シャルロッテは満面の笑みでクローディアに近づくとその手を取って握りしめた。

「シャルロッテ様、ありがとうございます!」

「あの、でも、誤解なさらないでね?お姉様。わたくし、お姉様だから支持したのではなくてお姉様の解決策がとても斬新で感銘を受けたんですの!!」

そう言って更に強くクローディアの手を握る。

「わたくし、恥ずかしかったのです。お姉様のお話を聞いて如何にわたくしが甘やかされていたのかに気付いたのですわ!ですから、お姉様とお話ししてから私なりに今回の問題に対する答えを考えてみましたの。」

そう言ってシャルロッテは一枚の紙をクローディアに差し出した。クローディアはその紙を開いて中に書かれている内容を読んでみた。そこにはクローディアともリカルドとも違う解決策が書かれていた。クローディアから見てもまだ拙い内容ではあったがシャルロッテが国や国民の事を考え始めた事がよくわかる内容だった。

「シャルロッテ様、素晴らしいですわ!!」

クローディアが褒めそやすとシャルロッテも頬を染めて恥ずかしそうに微笑んだ。

「そう思われます?」

「ええ、本当に素晴らしいですわ。わたくしが気づかなかった貴族女性向けの温泉の啓蒙内容など、もしお許しいただければ参考にさせていただいてもいいかしら?」

「本当ですか?お姉様!!」

「勿論ですわ。シャルロッテ様は良い王族ですのね。」

「お姉様、、、。」

「兎に角また、お会いしたいわね?」

「はい!!国の様子を確認したらいつもよりも早く社交シーズンのパーティに出席しますわ。そうすればアッカルドにも頻繁に来ることが叶いますわ!」

シャルロッテは瞳を輝かせて大きく頷いた。クローディアはそっとシャルロッテの体に腕を回してハグすると囁いた。

「可愛い方ね。では、また、いらっしゃい?」

「はい!」

そうしてシャルロッテも会場から去っていった。



「ビクトル王子、、、。あの、この度は、ありがとうございました。」

クローディアは未だに残っているビクトル王子に淑女の礼をとった。

「べ、別にクローディア殿の為ではない!!良いものを良い、悪いものを悪いと言っただけだ!!」

ビクトル王子は早口で囃し立てた。

「それでも、わたくしは貴方の言葉で王太子としてこの場にこの国に残ることが出来ました。本当にありがとうございます。」

「ふん!そんな事はどうでもいい。まあ、精々頑張るんだな!し、し、失礼する。」

ビクトル王子が慌てたように壇上からおりたその時会場の扉の方からザワザワとした声が響く。

「なんだ?」

ビクトル王子が不思議そうに見つめるとその横を物凄い勢いで走り抜けた男がそのザワザワの中心に向かって飛び込んだ。

「サ、サオリ!!!」

「え?!」

「何!?」

「王妃様?」

ローレンスの叫び声に周りのものは少し離れて輪になった。その中心には真っ黒な髪を二つに結んで異世界の服を着たこの国の王妃が立っていた。
その瞳は挑発的に輝いている。

「ちょっと!!やっぱり悪役令嬢がここにいるんじゃない!!!あんた追放されたんじゃないの?!何が起こってるの!!ローレンス!!!」

「サオリ!どうしてここに来たんだ?」

「そんなことどうでもいいでしょう!!なんで悪役令嬢がまだここにいるのよ!!あんた転生者なんでしょう!!私が帰れないのはあんたのせいなのね!!それとも転生ゲームが終わってないの?教えなさいよ!!!」

そう言ってサオリがローレンスの腕を振り払ってクローディア目掛けて走り出した。その様子は尋常じゃないものでそのまま体当たりしそうな勢いだった。
クローディアはあまりの事に一瞬何も出来なかった。
もうそのままサオリに掴み掛かられるという時に両手を上げて走るサオリの首をビクトル王子が軽くトンっと手刀で叩くのが見えた。
その途端、サオリの体は力がなくなり、そのまま倒れ込んだ。
ローレンスは慌ててサオリに駆け寄ると抱き寄せた。

「サ、サオリ!!大丈夫か?」

「う、、。」

気を失っているサオリに変わってビクトル王子が答える。

「大丈夫だろう?眠っているだけだ。」

「きっさまー!!」

淡々と述べるビクトル王子をキッと睨むとローレンスはカーティスを呼んでサオリを任せて立ち上がった。

「おい!!私の妻に我が国の王妃に手をあげたのだ!!わかっているんだろうな!!第三王子!!」

ローレンスのその言葉にビクトル王子の顔が疑問だらけになった。

「は?!王妃だと?この女が?本当に?不審者ではないのか?」

「不審者だと!おい、お前らこの男を捕らえよ!!」

「え?!何を言っている?!」

ローレンスの信じられない言葉にハッとして動き出したのはクローディアとアーベルだった。

「その発言は聞き捨てならん!ローレンス王、どう言う事だ!ビクトル王子はシダール王国の第三王子。アッカルド如きに捕らえられるお方ではない!!」

アーベルはそう言うとビクトル王子の前に立って剣の柄に手をかけた。
クローディアもアーベルの前に立ちローレンスに向かって両手を広げた。

「ローレンス王!!ビクトル王子に謝罪と騎士たちに命令の撤回を!!!」

真剣な表情のクローディアはキッとローレンスを睨みつけた。

「黙れ!!クローディア!!この国の王は私だ!!!王妃に手を上げた者をこのまま帰すわけにはいかん!!!」

「ローレンス王!!いけません!!」

「ええい!!うるさい!!さっさとこの男を捕らえよ!!このアッカルドの王妃が倒れたのだ!!」

ローレンスの剣幕に騎士達は顔を見合わせてどうすべきかを推し量っているようだった。クローディアはローレンスに更に畳み掛ける。

「なりません!!アッカルドはシダールに逆らってはならないのですよ!!そんな事も学んでいないのですか?!」

「うるさい!!王は私だ!!!」

ローレンスの絶叫にビクトル王子が一歩前に出てアーベルとクローディアを脇に押しやると話しかけた。

「わかった。ローレンス王、私を捕らえよ。」

「ビクトル王子!!」

「大丈夫だ。今はローレンス王も冷静ではないらしい。」

そう言うとビクトル王子は騎士達に向かって歩き出した。その後を慌てたようにアーベルが付いていく。
クローディアは未だにビクトル王子を睨みつけているローレンスを呆れたように見やってからビクトル王子の後を追った。

「貴方達、ビクトル王子をそのまま部屋に案内なさい。」

「ですがクローディア王太子殿下、ローレンス王が、、、。」

「いいのです。その部屋の外に騎士が立てば良いのです!!わかりましたね!」

「はっ!!」

クローディアはビクトル王子に頭を下げて腰を落とした。

「ビクトル王子、、、大変申し訳ございません。少しの間ご不便をお掛けしますがお許しください。」

「ああ、貴女が謝ることではない。行くぞ。」

ビクトル王子は冷たく言い放って騎士を先導して部屋を去っていった。
その後ろ姿を見つめるとクローディアはローレンスに向き直り睨みつけた。

「ローレンス王、貴方はご自分が何をなさったのかわかっていますか!!冷静におなりなさい!!」

それだけ言うとクローディアも部屋を退出していった。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...