悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

23、わたくし、頑張りますわ

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ビクトル王子が朝食後ソワソワしながら約束の庭園の入り口までやってきた。
其処には既にクローディアが待っていてくれた。今日のクローディアは相変わらずシンプルなストンとしたドレスを身に付けていたがその色は爽やかなスカイブルーで風がドレスの裾をなびかせていた。日差しが強い為か真っ白い日傘をさして佇んでいるその姿は絵画を見ているようだった。
ビクトル王子が暗示のように呟いていていた仕事だ、好みじゃない、女性じゃないという言葉が霧散していくのが見えるようだった。

(だ、ダメだ、、。可愛すぎて、、、緊張してしまう、、、。)

ビクトル王子が頬を引きつらせて回れ右しようとした時、今まで庭園の方を見ていたクローディアがゆっくりと振り返った。

ドキン

ビクトル王子の胸が高鳴る。

「ビクトル王子?」

涼やかなクローディアの声が風に乗ってビクトル王子まで届いた。

「、、、、ああ、、、。」

(もっと!!優しく!!話せ!!俺!!)

クローディアはさしていた日傘を畳むと優雅にビクトル王子の側にやってきて淑女の礼をとった。

「ビクトル王子、本日は突然お誘いして申し訳ございません。来てくださってありがとうございます。」

クローディアはそう言って顔を上げると不安そうに瞳を揺らした。
ビクトル王子はサッと瞳をそらして口に手を当てると早口で話す。

「いや、あの、その、私は、、、薔薇が好きなのだ。別にクローディア殿の、誘いだから、、来たのでは、、、、。い、行くぞ!!」

そう言ってビクトル王子はスタスタと薔薇園に向かって歩きだした。その後を慌ててクローディアが早足でついてくるのを感じていた。

「ハァハァハァ、、あの、、ビクトル王子、、、。申し訳ありません。、、少し、、休憩を、、、ハァハァ。」

ビクトル王子が緊張で歩き続けているとかなり後ろからクローディアの声が微かに聞こえた。その声を聞いてビクトル王子はやっと止まった足で振り向いた。
10メートル程後ろで肩で息をしながら少し上気した頬を手で押さえて立ち尽くしているクローディアを見てビクトル王子の体がカッと熱くなる。

(う、美しい、、。)

「そ、そこのベンチにす、座れ。」

ビクトル王子はクローディアの後ろにあるベンチを指差して指示を出す。
クローディアは後ろを見て頷くとヨロヨロと歩いてベンチに腰を下ろしてほぉーと息を吐いた。
その様子に自分がかなりの時間大股で歩いてしまったのだと気付いて顔をしかめた。

「も、申し訳ございません。ビクトル王子のペースに合わせてご案内出来ず、、。」

クローディアは顔をしかめたビクトル王子を見て謝罪を重ねた。
その様子にビクトル王子は自分が情けなくて、男らしくなくて、、、仕方がなかった。大国の王子だからこそ周りが許す横暴さだ。そして、ビクトル王子は気付いてしまった。今まで自分が優しく出来ないから縁談がうまくいかないと思っていた。でも、それは違うのかもしれない。このような態度が我儘な王子だと思われていたのではないかと思った。いつも相手が謝ってきたが、本当は自分が嫌われていたのだ。
ビクトル王子が一歩を踏み出そうとしたが、この一歩を近づくとまた、暴言を吐きそうだ。
ビクトル王子はこの10メートルが普通に話せる限界だと感じていた。

「そ、そのままでいい。」

「はい?」

「私は、、別に、、クローディア殿を嫌っているわけではない。」

「え?わたくしはてっきり、、、。」

「気にするなと言ってもしょうがないかもしれないが、私の態度は気にしないで貰いたい。この態度がその、、審査に影響する事はない。」

「えっと、審査には私情は持ち込まないという事でしょうか?」

「いや、これは、、その私の悪い病気というか、、。」

「え?!お加減が優れないのですか?」

そういうとクローディアは立ち上がり心配そうにビクトル王子の方に一歩近づいた。その行動にビクトル王子は、ビクッとして一歩後ろに下がると早口で捲し立てた。

「い、いや、そうじゃない。あのな、、とりあえず、、一つだけ聞かせてくれ。」

「、、、はい。」

「ク、クローディア殿は、王太子のままでいたいのか?何故だ?」

「はい。わたくしは王太子のままでいなければなりませんの。何故かは、、そうですわね。、、守りたいものがありますの。」

「そ、そうか、、わかった。クローディア殿はやるべき事があるから王太子でいたいのだな?」

ビクトル王子が重ねて尋ねるとクローディアははっきりと頷いた。

「はい!」

「わかった。其方はここで休むが良い。私はこのまま薔薇を見て帰る。」

そう言ってビクトル王子は走って言ってしまった。クローディアは今の会話を反芻し、とりあえずビクトル王子には嫌われているかもしれないが審査は公平に判断してくれるのだと理解したのだった。
それならばやる事は一つ。誰もが納得する解決策をまとめる事だ。
そうして、クローディアは一休みすると部屋に戻って資料をまとめ始めたのだった。



「私は、、また、なんで、、逃げるのだ、、。」

庭園の奥まで走るとビクトル王子は近くのベンチに腰をかけて頭を抱えた。この国に来てから頭を抱えることばかりだ。
しかし、今日は少しだけマシかもしれない。なんといってもクローディアときちんと話ができたのだ。10メートルは距離があったが、、。

「まあ、聞きたい事は聞けたし、この態度についても気にしないように伝えられたな。」

ビクトル王子は、極限まで下げたハードルをなんとか超えた事に安堵していた。
これでクローディアは王太子を続けたいと考えている事はわかったのだ。自分に出来るのはその望みを叶えるように動く事だと頷くとその場に立ち上がり出口に向かって歩き出した。

「昼食はキャンセルすべきではなかったな、、。」

安堵と一緒感じた空腹にビクトル王子はアーベルへの言い訳を考え始めたのだった。
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