悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

20、出題

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「それでは それぞれの長から出題をお願いします。」

カーティスの声に経済の長フリードリヒ・レフテラ長官が立ち上がった。

「はい。わかりました。経済からの出題は過去といっても現在進行形のものを出題させていただきます。審査員のお三方は他国とはいえ、このアッカルドとは国境を接している兄弟国です。この国の未来を左右する産業についてご判断下さい。」

レフテラ長官はそういうとアッカルドの地図を出すと三ヶ所に丸をつけた。

「この場所に最近温泉が湧き出たとの報告が上がって来ております。リカルド殿下とクローディア王太子にはこの温泉の利用方法を考えて頂きたい。」

そう言ってレフテラ長官は腰を下ろした。

「レフテラ長官、ありがとうございます。続いて政治の長ローレンス王お願いします。」

カーティスの声にローレンスは立ち上がって一歩前に出た。

「ああ。わかった。政治からの出題は王と王太子が不仲の場合の政治的メリットとデメリットについて解決策というか、、意見を聞きたい。」

ローレンスはそういうと少し後ろの席に腰をかけた。クローディアはそんなにわたくしが王太子なのは嫌なのねとほくそ笑んだ。

「それでは最後に司法の長お願いします。」

司法長官ヨエル・ハーヤネンは一礼して立ち上がった。

「はい。それでは司法からは八年前に起こった財産分与事件についての見解をお聞きしたい。」

そう言ってそれぞれに配られた資料にはクローディアの父フィールディング公爵家の財産分与が不当に行われたという事件について事細かに説明されていた。
クローディアは確かに父フィールディングが王位継承権を放棄した際にこのアッカルドにある財産を全て処分したと聞いたことがある。少し揉めたが関わるのも嫌だからこれでいいと使者を追い返していたのを今も覚えている。
資料によると王弟という立場を利用して国家財産を私的に流用した疑いがかかり、財産の半分以上を国に返納したことで解決をみたと書かれていた。
これ以外の解決策を探すとは中々に挑戦的だとクローディアはハーヤネン長官を見つめた。するとハーヤネン長官は誰にも気付かれる事なくふんわりとクローディアに笑顔を見せたのだ。

(長官がこのお題という事は司法はこの解決策が不満ということなのね。だから別のより良い解決策を当事者に考えさせるなんて、、、流石ね。もっともファティマの予言書通りというのが気にくわないわ。)

クローディアは王の意向ではないにも関わらずクローディアに王太子を打診して来た司法の長の流石の胆力に舌を巻いた。

(お父様の事だけど私情を挟んだ途端わたくしの評価が下がるのね。これはどれだけ公正に物事が見られるかの試験なんだわ。)

三つの問題が出揃ったところでカーティスは解決策を10日後にこの場所で発表してもらいますと言うと質疑応答に入った。リカルドから質問を受けてヨハンが話し始めるのを見届けるとカーティスはローレンスに元にやってきた。

「おい!カーティス!ヨハンの問題はなんだ!あれでは暗に政治判断が間違っていると言っているようなものだぞ?何だってあんな問題を許したんだ!」

ローレンスは未だに説明を続けているハーヤネン長官を尻目にカーティスに不満をぶつけていた。

「そんな事を言われましても、、私も今初めて聞いたのです。ハーヤネン長官にいくら王と言えども司法には口出すなと言われまして、、、。ただ、この問題はリカルド殿には有利ですよ?」

「ん?何故だ?明らかにこれさフィールディング公爵の事だろう?」

「そうです!クローディア様の父上ですよ。絶対に私情を挟んだ解決策になるはずです。昔からクローディア様は公私混同甚だしい方ですからね。そして、ハーヤネン長官はそのような公正ではないものを嫌悪しているのです。それならば初めから第三者のリカルド殿下の方が気に入られる可能性が高いです。」

「流石カーティスだな。では司法はリカルドが貰ったも同然だな。」

そう言ってローレンスは安心したように王座に座り直した。
ローレンスはどうしてもリカルドに王太子になって貰いたかった。というかクローディアには退いて欲しかった。
初めは金目当てと馬鹿にしていた。しかし、実際に十年振りに会ってあの瞳で見つめられると身がすくむのだ。
己の汚点を裏切りを姑息さを見せつけられるようなのだ。あの十年前には悲しみに揺れていたクローディアの瞳が力強く輝くのを見るとそこには自分の罪が映し出されるようだった。
折角父からの圧力が無くなったと思ったら今度はクローディアの目を気にしている自分が本当に嫌だった。
だから、、だから、、クローディアには消えてもらう。
それにクローディアが王太子のままだと遅かれ早かれサオリにも知られてしまう。
そうなればこの国は十年前の再来だ。父のいない状態では乗り切れる自信がない。
だから、クローディアには去ってもらう。
ローレンスはそう心に決めて暗い瞳をクローディアに向けたのだった。


ゾクリ

クローディアの背に寒気が走った。
キョロキョロと見回したが特に変わったところはない。クローディアは首を傾げて再びハーヤネン長官の話に耳を傾けた。
その様子をいつも通りクローディアを一心に見つめていたビクトル王子だけが気付いていた。素っ気ない挨拶をした後少し離れた場所から慎重にでも集中してクローディアを見ていたビクトル王子はローレンスの怪しい瞳に気がついた。クローディアが不審に思ってキョロキョロして気付かなかった事にビクトル王子はしっかりと気付いていた。

「アーベル、あのローレンス王は危険だな。」

「危険?ですか?」

「ああ、見ろ。あの目を。あんな目は切羽詰まった者がする目だ。決して王がすべきではない。」

「、、はぁ。」

「そして、何だってこの国の男は自ら罠にはめて追放したクローディアをあんな目で見るんだ?クローディアが恨むのならわかるがあいつらは一体何がしたいんだ?」

ビクトル王子の真剣な表情にアーベルも頷いて調査を約束した。

「じゃあ、ちょっと調べましょう。今日もクローディア王太子殿下に冷たい挨拶だけしかしていないビクトル王子ですからね。もし、万が一、その厄介な病気が治ってクローディア王太子殿下とどうにかなったら、この国の王配って事もあり得ますもんね。」

そう言ってアーベルはウキウキしながら調査の指示を出しに行った。そのアーベルの言葉を反芻して理解したビクトル王子の顔は珍しく赤く染まった。

「お、お、王配!だと?!!」

今時珍しく純粋なビクトル王子からしたら夢また夢だが、そうなれたら嬉しいと素直に思ったのだった。
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