悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

19、予言者の復活

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その夜、ビクトル王子は滞在する部屋で難しい顔をしてソファに腰掛けていた。

「ビクトル王子、どうしました?」

アーベルはお茶の支度を支持してからビクトル王子に話しかけた。

「はぁ、、、。」

ビクトル王子はため息をついてから頭を抱えた。

「クローディア王太子殿下の事ですか?それとも審査の事ですか?」

「、、、、、はぁ。」

「クローディア王太子殿下の事は随分気に入られたんですね?いつも以上に冷たく素っ気なかったですよ?ダルトリー子爵なんてビックリしたのか慌てたように昨日から何度も私の所に確認の書簡を送ってきてますよ。」

「え?、、、、なにぃ?!そ、それで?」

「まだ返答してませんよ?ダルトリー子爵はクローディア王太子殿下が何か失礼をしてしまったのかをとても心配していましたよ?」

「失礼?そ、そ、そ、そんな訳あるか!クローディア殿の礼儀は完璧だったし、とても聡明で、、、美しく、、、可愛く、、、。」

「あーはいはい。とっても気に入ってしまっていつも以上に過剰反応してしまったんですよね?昨日の顔合わせでもそうでしたが、今日は挨拶すらしていませんでしたよね?」

「挨拶くらい、、、、していないか、、、。」

「私が見る限りしていませんね。あの王やカーティス殿には普通に話していましたが、、クローディア王太子殿下にはなんとも、、。私の私見ではありますが、ビクトル王子はクローディア王太子殿下を嫌っていると思われていますよ。
それに一体なんで今回の審査員を了承したんですか?クローディア王太子殿下の為ですか?」

「審査員を受けたのは、まぁ滞在を延ばせるかなというのが一番だが、どうせ私が辞退しても他のもっと息がかかった王族を手配しているだろう?あのカーティスという男は。」

「まぁ、そうでしょうね。そういう頭は回りそうでしたよ。」

「どうせ私に声を掛けたのは一応大国シダールにも声を掛けた実績だけでも良かったくらいだろうな。それでも審査員として三人に入ればクローディア殿のサポートくらいは出来るだろう?」

「まぁ、じゃあ結局はクローディア王太子殿下を遠くから助けたいが為じゃないですか!もっと近くから助けてあげればいいんですよ?シダールの王子と懇意にしているという事実だけでもかなりの後押しにはなりますよ?」


「それはそうなんだが、、、はぁ、私は何故好みの女性を前にすると何も話せなくなるのだ、、、。」

「何故何でしょうね?でも、大丈夫なんですか?明日から毎日クローディア王太子殿下との交流を持つんですよ?話せます?」

アーベルが呆れたように確認をとるとビクトル王子は一段と大きいため息をついたのだった。

「まぁ、お手紙でもお渡ししたらどうですか?恥ずかしくして話せないとかなんとか、、、。」

「そ、そ、そんな手紙出せるか!、、、、、手紙、、、か。」

何かを考え込んだビクトル王子を見てアーベルはこれだけ飲んで今日はお休みくださいと言って部屋を出て行った。一人になった部屋でビクトル王子はブツブツと独り言をつぶやく。

「手紙か、、成る程、、確かに十年前は手紙を渡してクローディアの運命が変わったんだな。まぁ追放までは、、手紙通りだったが、、。それでも、その後はいい方に変わったはずだ。だからこそ、ここにクローディアがいるのだし、私もここにいる。」

ビクトル王子は立ち上がるとライティングデスクに座ると便箋を取り出してペンを取った。直接話す事や正体をバラす事は難しいがあの時と同じように予言者として手紙を出す事は出来ると思ったのだ。これなら運命からの見逃して貰えたと言う前例もある。
そう自分に言い聞かせるとビクトル王子はこれから出題される問題と模範解答を紙に書き出した。

「よし、これをわからないようにクローディアに渡すのだ。そうすればクローディアの役に立てるし、運命からの干渉も受けないはずだ。しかも、、私が直接話す必要もなくなる。一石二鳥だ。」

一人で納得したビクトル王子は予言者ファティマの復活を果たしたのだった。



クローディアは寝支度を整えながらこれからのプランを考えていた。
まずは仲良くなるまで行かずともやはり審査員の三人の心象を良くしなければならない。中でも今マイナス地点にいるシダールの王子にはプラスとまでは言わないが嫌いから普通レベルまでは心象を良くしないと絶対に勝てそうにないのがわかった。なぜなら後の二人は今日の発言を聞いても大国シダールの意向に沿うような回答が多かったのだ。
ただ、その方法がクローディアにはわからない。マナーと知識では人間関係を構築できないのだ。部下と敵はわかるし対応もわかる。しかし、十年前に友人を悉く失ってからは対等な付き合いをした事がない。ましてや異性など、近寄りもしなかった。
クローディアは頭を抱えた。
やはり社交が下手だという事実がわかったのだ。それ以外から責めなくてはならないのかもしれない。
クローディアの思考が人間関係からこれから出題される問題へと移っていった。

カタン

クローディアがどのような問題が出題されるのかを予測しているとバルコニーのある窓の方で音がした。

「風かしら?」

クローディアが何気なく窓を開けて見るとそこには真っ白い封筒が置いてあった。

「?」

何気なく拾ったクローディアはその封筒の差出人を見て目を見開いた。そこには予言者ファティマの文字が浮かんでいたのだ。

「ファティマ!?」

この十年自分が抗ってきた物がまた現れたのだ。クローディアの手が震える。
それでもクローディアはその手紙を持って部屋に戻った。そして、しばらく見つめた後、思い切って封を切ったのだった。

「こ、これは、、、。」

クローディア王太子殿下へから始まった今度の手紙は明日から始まる王太子選抜審査に言及していた。

「一体何故?今?今更?」

クローディアは訳がわからなかった。
慌てて十年前の手紙を出して来て二通の封筒を並べてみた。
一つは赤茶けているが筆跡は同じに見える。

「神からの手紙?運命を変えすぎた罰?歯車が戻るのかしら、、、、。」

クローディアにとっての予言書は今や呪いの書なのだ。それが増えてしまったショックで建設的な考えが浮かばない。
ビクトル王子の良かれと思った行為はクローディアを恐怖の淵に追い込んでいた。
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