悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

18、ビクトル王子の記憶

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ビクトル王子は上手くマチルダを誘導して自分のやり易い環境を整えたクローディアを見て不思議に思った。
実を言うと頭の中の記憶には少し違うが同じような場面は確かにあったのだ。
記憶では王太子選抜ではなく、王太子という地位の譲渡の為だった。
王太子となったマチルダは、自分の子供であるリカルドに王太子の地位を譲りたかったが、法律では王太子の交代には今回のような過去案件についての審査をうけて王太子として相応しいと評価される必要があったのだ。
その時の審査では母であるマチルダがわざといい加減な回答をして、リカルドに王太子を譲った形になったはずた。
それに幼かったリカルドには各分野の権威が補佐として認められていたので、回答も模範的で王太子として認められた。

現実ではクローディアとリカルドの勝負となったがこの国の滅亡まで後二年だし、誰が王太子になっても変わらないのではないか?とビクトル王子は冷めた考えを持っていた。
そして、二年後に起こることはクローディアも知っているはずなのだ。
確かにクローディアに渡した手紙の内容はクローディアの身の回りで起こる事を中心にとしていたので、クローディアが追放された後のアッカルドについてはあまり詳しく書いていなかった気がする。でも、あと二年で滅亡する事は絶対に書いた。
それなのに何故クローディアは王太子の地位にこんなに拘るのか?そもそもどうして王太子として戻ったのか?自分の運命は変わったのに何故この国の運命まで変えるのか?ビクトル王子の疑問は尽きなかった。

「カーティス殿、一つ質問していいかな?」

「はい、ビクトル王子。なんでしょうか?」

「流石に我々もクローディア王太子やリカルド殿下の人となりがわからないと判断しようがない。やはり他国の王太子を決めるのだ。インタビューなり食事会なりでお二人と話す機会を頂けないか?」

ビクトル王子が提案するとベルンハルトやシャルロッテも大きく頷いた。

「わたしもそれは考えていました。流石シダールのビクトル王子ですな。目の付け所が違う!」

ベルンハルトは口に蓄えた髭を撫でながら同調した。

「ええ、いい考えだと思いますわ。私も隣国の王となる方の考え方や性格なども考慮したいと思いますもの。」

シャルロッテは少し上目遣いでビクトル王子を見てから賛同の意を伝える。

「成る程、確かにその通りですね。ローレンス王いかがしますか?」

「ああ、いいんじゃないか?それくらい。」

「わかりました。それでは審査員の方との交流する時間を毎日設けさせていただきます。」

ビクトル王子は出来るかどうかは別にして、この時間にクローディアから今後の考えをうまく聞き出そうと心に決めた。運命を変えるのか?逆らうのか?流されるのか?方向性を確認したかった。

そして、ビクトル王子にはこれから出題される問題と模範解答が分かっている。
状況は違うが話の流れは同じなのだから同じ問題だろうと踏んでいた。
ビクトル王子の気持ち的には物語の中に入った気分だった。
ビクトル王子は迷路の中でゴールまでの道筋を知っているようだと思った。
元々遠くからクローディアをサポート出来ればといいなとこの国に来たのだ。クローディアの方針を確認してから、自分の記憶にある今回の問題と解答をそれとなく伝えるのもいいかもしれない。
ただ、クローディアはそれを望まない可能性がある。
今までも運命に真っ向勝負に挑んできたクローディアが自分だけ有利になる事を望むか?
それにビクトル王子も言いづらい環境にもあった。滞在を延ばすためとはいえ、引き受けた審査員という公平な立場を守らなければならないという点と、もし自分が予言者だと話したらクローディアはどう思うのかという点だ。
もし自分が予言者だとバレたら何故十年前に助けなかったのか?と思われてしまう。それは避けたかった。
そして何より一番怖いのは、もしビクトル王子が問題と答えを教えた事で折角クローディアが頑張って変わりつつある運命の歯車が元に戻る可能性もあるかもしれないという事だ。
今更クローディアがチビデブハゲの男と結婚するとは思えないがこればかりはわからない。ましてや運命に逆らい続けているクローディアがこの先どうなるのかは不確定要素なのだ。もしかしたら運命に負けて、これからもう一度追放されるかもしれないし、あの滅亡に向かう事件に巻き込まれるかもしれない。
そう考えるとビクトル王子はクローディアに惹かれていたし、サポートもしたいと思ってはいてもどのように接するべきなのかが判断できなかった。
そこで、ビクトル王子は取り合えずこの十日間は公平な審査員としての目線も忘れずに少しずつ慎重にクローディアとの関係を深めて、その考えを確認していきたいと考えていた。

「ビクトル王子!」

物思いに耽っていたビクトル王子に突然リカルドが話しかけた。

「リカルド殿下、どうしたのです?」

「いえ、あの折角こうしてお近づきになれたのですから、少し話しませんか?どうせお題は明日出題されすのですから今日は楽しく過ごしましょう!!」

ビクトル王子は明るい物言いのリカルドを見て成る程と頷いた。

(あのアッカルド王とカーティスがこの手段を選んだのはリカルドの子供ならではの人懐っこさがあったからなのだな。)

やはりこの様に話しかけてきてくれると嬉しいし仲良くなりたい、応援したいと思ってしまう。実際、ベルンハルトやシャルロッテも既にリカルドに暖かい視線を送っているのを感じた。
そして、未だに難しい顔をして思案に耽るクローディアは大丈夫なのか?と心配になってしまった。



クローディアは審査員の三人を見て大丈夫かしらと危機感を感じていた。既に三人にはリカルドとマチルダが話しかけ楽しそうに談笑しているのだ。
クローディアには出来ない芸当だった。なぜならこの十年は追放されたという身の上では社交は出来なかったし、クローディアに会いたいという者も殆どいなかった。
この審査員三人のことは資料で知ってはいるが話した事は殆どないに等しい。更にはビクトル王子には何故かはわからないが嫌われてしまったのだ。それだけで三人に話しかける切っ掛けが掴めずにいた。
ただこれから毎日交流する時間があるのだから、何とかしなければと気ばかり焦ってしまう。クローディアの気は重かった。
やはり十年前の婚約破棄で人間関係の脆さを肌で感じたクローディアにとって他人と深く関わる事にどうしても積極的になれないのだ。
もちろん話しかけられれば返事は返すし、雑談にも応じることは出来る。
でも、他人を信じて自らの運命を預ける事は出来ない。そうするには痛い目にあいすぎた。
審査員の三人に感情的な見地からクローディアの方に立ってもらうのは難しいとしか言えなかった。
クローディアは今自分の弱みを自覚した。

(わたくしは社交に弱いのね。他人と仲良くなるなんて無理だわ。信じられない、、、。)

クローディアは審査員の心情に訴えるのは諦めて回答の中身で勝負する事に集中することにしたのだった。
後二年で危機が訪れるにしても、見捨てるべきものが多くいるとしても、、、それでも助けたい者もいるのだ。それにはこの王太子という地位が必要だ。
クローディアにとっては負けられない戦いが始まった。
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