悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

文字の大きさ
上 下
10 / 71
第1章 悪役令嬢の帰還

10、わたくし、呆れました

しおりを挟む
バーナードが積み上げた書類を物凄い勢いで読み込んでいくクローディアは暫くするとドンドン顔色が悪くなってきた。

「ク、クローディア様、あのお加減が悪いのでしょうか?」

流石のバーナードでさえ、遠慮がちに話しかけてきた。

「そうね、、、。気分が悪くもなるわ。ここまで国の財政状況が悪いだなんて、、、。」

クローディアが確認した書類だけでも既に辻褄の合わない支出があったり、不必要な事業への投資、過度な恩賞、、、、不正のオンパレードだった。
これではあと二年も持たないレベルだ。
そして、クローディアはこの国があの出来事で滅亡する土台がこの国力の無さなのだと悟った。確かにこれでは国としての大事に対応するほどの余裕がない事が容易に想像ができた。
そして、大体の書類に目を通すとそのままソファの背に深く沈んだ。
前王が元気な時はまだマシだった。
しかし、前王が体調を崩した一年前から徐々に財政は悪化していったように見える。クローディアはこの十年で身につけた知識を総動員して分析していた。
そして、その結果はやはりローレンスが無能な王なのだと結論づけるしかなかった。
多分あの男も十年前から何も変わっていないのだ。いつも父親の言う事ばかりを聞いてきたローレンスは父親の指示が無くなるとどうすればいいのかがわからなかったのだ。
クローディアが前王の側近が前王亡き後悉く王宮を去った本当の意味を理解した。これは若手に譲ったいうよりも見捨てたのだ。

「いかがでしょうか?」

バーナードがクレアから渡されたティーセットをクローディアの目の前に手際よく並べながら確認してきた。

「そうね、、。国を滅ぼす為に何をすべきかというえば、このまま此処を去れば近い将来この国は潰れるわ。というよりこんな直ぐに分かる事が今この王宮で誰も分かっていない事に驚くわ。」

「これから、いかがいたしましょう?」

そう、それが問題だった。
個別に制裁するまでこの国は持たないかもしれないのだ。
クローディアの頭の中では直ちにやめるべき公共事業が最低でも十個は頭に浮かぶ。確かにこの国の王、貴族には怒りを感じているが、国民まで巻き込みたくはなかった。
クローディアはこの国の貴族として国民を守る義務はよくわかっているのだ。しかも、今は王太子、、、見過ごすわけにはいかない。

「、、、、、。王と話すわ。先触れを出して、正式な謁見を申し込んで頂戴。出来れば、財政大臣、建設大臣、外交大臣そして流通大臣にも声をかけて。」

「はい。」

「来るのを渋るなら王太子権限を振りかざしてもいいわ。」

「はい、わかりました。して、いつがよろしいでしょうか?」

「今よ!今すぐに使いをやって30分後に謁見の間に連れてきて頂戴。」

そう指示を出してクローディアは、白紙の紙を用意するとスラスラと資料の作成を始めたのだった。

(復讐するはずが、助けなければならないなんて、、、最悪だわ。)

そう思いながらも幼い頃からの王妃教育もあり、国民を見捨てることは出来なかった。

トン、トン、トン

クローディアの指先が資料を作っていたテーブルの上をいっていのリズムで叩く音が響く。クローディアが思考に沈んでいる時の癖だった。

「ダルトリー子爵とアボット伯爵、ウィルビー伯爵にオマリー男爵ね。」

クローディアは一旦制裁リストとは別に国民生活を立て直す為に必要な人材リストの作成も始めていた。
資料や嘆願書などを読み解くとこの貴族達は何とかローレンスの方針を改めようとしているのがよくわかる。提案や要望も的を射ている内容でこの者達は貴族でなく、国民を見ている事がよくわかった。

「バーナード、この召喚状を今の四人に渡して謁見の間に連れてきて頂戴。」

「はい。」

バーナードが出て行くとクローディアは立ち上がりクレア達を呼んでから自室に戻り謁見に相応しい身支度を整えてから昨日も行った謁見の間に向かった。その手には制裁リストならず復興リストが握られていた。



「一体全体なんなのだ!!」

クローディアが謁見の間に現れると挨拶もなしにローレンスが不満そうに口火を切った。
クローディアは呆れながらもこの男に本気で惚れていた自分自身にも呆れていた。それでもクローディアは謁見の作法通りの礼を取ってからその場に集まった者を確認した。
王座にほど近い場所にはクローディアも見覚えがあるローレンスの側近が集まっていた。全てサオリの取り巻きだった連中だ。このメンバーで正しいのなら能力ではなく、忖度で大臣を任命したとしか考えられない人事だった。
それ程仲良くないクローディアでさえ大臣の器ではない事がわかるメンバーだ。

「あなた達が財政大臣、建設大臣、外交大臣そして流通大臣なのですか?」

クローディアが確認するとそれぞれが頷いた。
クローディアは頭を抱えたくなるのを我慢して王座の方まで歩き上座に立った。
そしてその大臣達を見下ろしてから扉近くにいるクローディアが自ら集めたメンバーを近くに呼び寄せた。

「ダルトリー子爵とアボット伯爵、ウィルビー伯爵にオマリー男爵。こちらに来なさい。」

「「「「はい。」」」」

「まずは王太子権限においてこの者達を大臣補佐に任命します。」

「な!何を勝手に!」

ローレンスが身を乗り出して否定する。

「勝手にですって?ローレンス王は、本当にこの国の法律を学ばれたら?」

「なんだと!」

「王太子はその権限において大臣補佐を任命する事が出来るのです。そして王太子が直に任命した補佐とは大臣に対しての意見や大臣命令の修正と王太子への報告が義務付けられています。もちろん最終決定は大臣ですが、あまり邪険にすると諮問機関の審査と投票を持って補佐と大臣の入れ替わりを決定できますわ。」

ローレンスは悔しそうに口を噤んだ。

「ダルトリー子爵は外交大臣補佐、アボット伯爵は財政大臣補佐、ウィルビー伯爵は建設大臣補佐でオマリー男爵が流通大臣補佐に任命します。」

突然に任命された四人は顔を見合わせたがここで異議は唱えられるはずもなく頷いた。

「それでは、早速いくつかの事業について質問させて頂きます。」

そう言ってクローディアは用意していた資料に沿ってそれぞれの大臣に質問を試みるが大臣の中にクローディアへの回答を持っている者は誰もいなかった。

カツン

クローディアは自らのヒールを鳴らして苛立ちを隠さなかった。
そして、最後の質問までまともな答えがない大臣達に叱責を飛ばした。

「ねぇ、貴方達は本当に大臣なのですか?こんな簡単な質問にもまともに答えられないとは流石に思いませんでしたわ。恥を知りなさい。」

大臣達の顔が怒りと羞恥で赤くなる。

「さぁ、それでは新大臣補佐、貴方達の回答を聞かせて頂戴。」

「はい!」

クローディアが話を振ると今まで懸命にメモを取って聞いていたアボット伯爵から順番に今クローディアが知りたかった答えをスラスラと答えたのだ。
それには各大臣だけではなくローレンスでさえ目を見開いた。なぜならクローディアが指名した者達は今まで別に目立った功績もない者たちで自分達がわからなかったことを知っているようには見えなかったのだ。

「よくわかったわ。ありがとう。」

クローディアは新補佐達に満足そうに頷くとローレンスを見た。

「ぐ、、そなた達ご苦労だった。これからも励むが良い。」

「「「「は!」」」」

ここにいるメンバー全員はこの新メンバーに不満を言う事は出来なかった。そして王からも正式に許可を受けた形でこの謁見が終了したのだった。
クローディアはもう用はないと扉に向かったが呆然としているローレンスと大臣達に振り向いて婉然と笑った。

「そうそう、ローレンス王、わたくしが正式な王太子となった事を国内外に広めたいと思いますの。来月には前王の喪が明けますので、お披露目のパーティを開きますわ。」

クローディアは、ローレンスの返事も待たずにそのまま退出していった。
そのクローディアの後を新補佐となった者達が続いていったのだった。
これが新体制と旧体制がはっきりと別れた瞬間となった。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。 そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。 母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。 アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。 だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...