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第1章 悪役令嬢の帰還
9、わたくし、王太子始めました
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「カーティス、よく来てくれたわね。」
クローディアが身支度を整えてお茶を飲んでいるとノックと共にカーティスが入ってきた。カーティスは昨日とは打って変わってその場で手を胸に当てて腰を折った。
「おはようございます。クローディア王太子殿下。昨日は先触れも送らずにお訪ねしてしまい誠に申し訳ございませんでした。本日はクローディア王太子殿下の執務室と補佐の者を紹介させて頂きます。」
「ご苦労様、カーティス。貴方もやっと自分の立場をわきまえてくれたようね。でも、念の為言葉にしておくわ。」
そういうとクローディアは立ち上がって頭を下げたままのカーティスを見下ろした。
「わたくしはこの国の王太子です。そしてわたくしの周りにいる者は須く王太子の側近としての言動を望みます。」
カーティスは頭を更に下げてはいと返事を返した。
クローディアが昨日カーティスに会わなかったのは、先触れが無かったからでも、忙しかったわけでもない。ただ一点、バーナードに非礼な態度をとったから会わなかった。それだけだった。
「では、執務室へ案内して頂戴。」
カーティスは漸く顔を上げてからかしこまりましたと言って右手をあげて案内しはじめた。
その顔はしおらしくしていても、その掌が白くなるほど握り締められている事にクローディアは気づいていた。
(この男は昔とちっとも変わっていないのね。いつでもどんな時も自分が一番頭がいいと思っている。ローレンスもクローディアも自分が面倒をみないといけないと考えている。)
クローディアはその背を見ながら誰にも気づかれない様にキッと睨みつけた。
(そして、わたくしは忘れないわ。あの婚約破棄の時のこの男の瞳を!!)
クローディアはあの時人知れずとても嫌な感じで笑っていたカーティスを見ていた。その会場のほぼ全員がクローディアを見ていたのでカーティスを見たのはクローディアだけだったかもしれないが、この男は打ちひしがれるクローディアを見て、嬉しそうに笑ったのだ。その顔は絶対に忘れられない。
(絶対に許さないわ!最後まで利用してから、その顔が怒り狂ったところを必ず見てやるわ!)
クローディアの制裁リストの三番目にカーティスの名が乗ったのだった。
もちろん一、二位はこの国の国王夫妻だ。
「こちらでございます。」
カーティスが立ち止まったのは広くもなく狭くもなく極々普通な執務室だったが、王太子という立場を鑑みると物足りないというのが正直な感想だった。
「カーティス、部屋を間違えたのではなくて?」
「は?」
「わたくしは王太子ですよ。一介の貴族が使う部屋に案内したのはどういう事ですか?」
「ですが、今空いているのはこの部屋だけでございます。」
カーティスの瞳がしょうがないと訴えていたがそうではない事はクローディアはよくわかっていた。
「付いて来なさい。」
クローディアは勝手知ったる王宮の中をずんずん歩きある部屋の前までやって来た。そして、カーティスが止める前にノックもせずに開け放った。
「な、何事だ!!」
そこには執務机の前に座っているローレンスが目も口も驚愕を浮かべて座っていた。
「ク、クローディア!?」
「何故ここにいらっしゃるのですか?ローレンス王。」
「なんのことだ?!」
クローディアは、うんざりした顔で言い直す。
「何故ローレンス王は、未だに王太子の執務室を使っているのですか?」
「え?ここは私の、、。」
「ローレンス王は一度この王国の歴史と法律をお勉強した方がよろしいですね。」
如何にも馬鹿にしているという口調で言い募る。
「な、なんだと?カーティス?カーティスはどうした!!」
「私はここに、、。」
「どういう事だ!!」
カーティスはクローディアを苦々しげに見つめてから、溜息をついてから話し出した。
「えー、クローディア王太子殿下の仰っているのは国王の安全についての話ではないかと思われます。」
「安全?」
「はい。ヒューバード王が使われていた執務室は代々の国王が使われておりました。」
「ああ。」
「何故ならあの部屋の壁は厚くなっており話し声はもれず、いざという時の守りも硬くなっております。ですから歴代の王はあの部屋をお使いになられたのです。」
クローディアはさも呆れたように付け足す。
「ローレンス王はまだ王太子のつもりですのね。そんなに王太子が宜しければ、今すぐ王位を替わって差し上げも宜しくてよ?」
「な、な、な、な、な、なんだと!!王は私だ!い、い、い、今部屋を移ろうとしていたのだ!いくぞ!カーティス!」
「ローレンス王?!」
顔を真っ赤にしたローレンスはクローディアの隣を通り過ぎる時に睨みつけて来たがクローディアは一瞥さえしなかった。
ローレンスが扉に手をかけた時、クローディアはくるりと振り向くとにっこりと笑った。
「それではこの部屋はわたくしが執務室として使わせていただきますわ。家具は全部入れ替えます。またない罪を捏造されたら怖いですもの。わたくしのものはわたくし自身で手配いたします。もし、必要な物がありましたら今日中にどうぞお持ちください。」
ローレンスが憎々しげにフンと顔を背けて部屋を出て行くとカーティスがその後を追った。クローディアはふふふと笑って今までローレンスが使っていた机をチラリと見てバーナードに頷いた。
「バーナード、取り敢えず国の運営に関わる書類を確認するわ。こちらのテーブルに運んで頂戴。後予算の分配とその使途も把握します。カーティスの手の物が引き取りに来る前にやるわよ。」
クローディアが躊躇なく執務机を調べ始めた。
「はい、クローディア様。」
バーナードは本棚を確認し始めた時ふとクローディアが質問して来た。
「あら?そう言えば補佐の者はどうしたのかしら?」
バーナードはあぁと頷いてクローディアに返答した。
「後ほどカーティス様に確認いたします。」
「頼んだわ。バーナード。」
(相変わらずローレンスは甘いわ。何故自分に恨みを持っているであろうわたくしを一人残して出て行くのだろう?信じられない。)
クローディアとってこの国にいた者たちは皆時間が止まっていたのかと思うほど危機管理に乏しく、自分の都合の良い夢を見ているような態度に感じられた。
言い換えると思考が停止しているのだ。
バーナードが積み重ねている書類を確認するのが怖くなくほど、呆れていたのだった。
クローディアが身支度を整えてお茶を飲んでいるとノックと共にカーティスが入ってきた。カーティスは昨日とは打って変わってその場で手を胸に当てて腰を折った。
「おはようございます。クローディア王太子殿下。昨日は先触れも送らずにお訪ねしてしまい誠に申し訳ございませんでした。本日はクローディア王太子殿下の執務室と補佐の者を紹介させて頂きます。」
「ご苦労様、カーティス。貴方もやっと自分の立場をわきまえてくれたようね。でも、念の為言葉にしておくわ。」
そういうとクローディアは立ち上がって頭を下げたままのカーティスを見下ろした。
「わたくしはこの国の王太子です。そしてわたくしの周りにいる者は須く王太子の側近としての言動を望みます。」
カーティスは頭を更に下げてはいと返事を返した。
クローディアが昨日カーティスに会わなかったのは、先触れが無かったからでも、忙しかったわけでもない。ただ一点、バーナードに非礼な態度をとったから会わなかった。それだけだった。
「では、執務室へ案内して頂戴。」
カーティスは漸く顔を上げてからかしこまりましたと言って右手をあげて案内しはじめた。
その顔はしおらしくしていても、その掌が白くなるほど握り締められている事にクローディアは気づいていた。
(この男は昔とちっとも変わっていないのね。いつでもどんな時も自分が一番頭がいいと思っている。ローレンスもクローディアも自分が面倒をみないといけないと考えている。)
クローディアはその背を見ながら誰にも気づかれない様にキッと睨みつけた。
(そして、わたくしは忘れないわ。あの婚約破棄の時のこの男の瞳を!!)
クローディアはあの時人知れずとても嫌な感じで笑っていたカーティスを見ていた。その会場のほぼ全員がクローディアを見ていたのでカーティスを見たのはクローディアだけだったかもしれないが、この男は打ちひしがれるクローディアを見て、嬉しそうに笑ったのだ。その顔は絶対に忘れられない。
(絶対に許さないわ!最後まで利用してから、その顔が怒り狂ったところを必ず見てやるわ!)
クローディアの制裁リストの三番目にカーティスの名が乗ったのだった。
もちろん一、二位はこの国の国王夫妻だ。
「こちらでございます。」
カーティスが立ち止まったのは広くもなく狭くもなく極々普通な執務室だったが、王太子という立場を鑑みると物足りないというのが正直な感想だった。
「カーティス、部屋を間違えたのではなくて?」
「は?」
「わたくしは王太子ですよ。一介の貴族が使う部屋に案内したのはどういう事ですか?」
「ですが、今空いているのはこの部屋だけでございます。」
カーティスの瞳がしょうがないと訴えていたがそうではない事はクローディアはよくわかっていた。
「付いて来なさい。」
クローディアは勝手知ったる王宮の中をずんずん歩きある部屋の前までやって来た。そして、カーティスが止める前にノックもせずに開け放った。
「な、何事だ!!」
そこには執務机の前に座っているローレンスが目も口も驚愕を浮かべて座っていた。
「ク、クローディア!?」
「何故ここにいらっしゃるのですか?ローレンス王。」
「なんのことだ?!」
クローディアは、うんざりした顔で言い直す。
「何故ローレンス王は、未だに王太子の執務室を使っているのですか?」
「え?ここは私の、、。」
「ローレンス王は一度この王国の歴史と法律をお勉強した方がよろしいですね。」
如何にも馬鹿にしているという口調で言い募る。
「な、なんだと?カーティス?カーティスはどうした!!」
「私はここに、、。」
「どういう事だ!!」
カーティスはクローディアを苦々しげに見つめてから、溜息をついてから話し出した。
「えー、クローディア王太子殿下の仰っているのは国王の安全についての話ではないかと思われます。」
「安全?」
「はい。ヒューバード王が使われていた執務室は代々の国王が使われておりました。」
「ああ。」
「何故ならあの部屋の壁は厚くなっており話し声はもれず、いざという時の守りも硬くなっております。ですから歴代の王はあの部屋をお使いになられたのです。」
クローディアはさも呆れたように付け足す。
「ローレンス王はまだ王太子のつもりですのね。そんなに王太子が宜しければ、今すぐ王位を替わって差し上げも宜しくてよ?」
「な、な、な、な、な、なんだと!!王は私だ!い、い、い、今部屋を移ろうとしていたのだ!いくぞ!カーティス!」
「ローレンス王?!」
顔を真っ赤にしたローレンスはクローディアの隣を通り過ぎる時に睨みつけて来たがクローディアは一瞥さえしなかった。
ローレンスが扉に手をかけた時、クローディアはくるりと振り向くとにっこりと笑った。
「それではこの部屋はわたくしが執務室として使わせていただきますわ。家具は全部入れ替えます。またない罪を捏造されたら怖いですもの。わたくしのものはわたくし自身で手配いたします。もし、必要な物がありましたら今日中にどうぞお持ちください。」
ローレンスが憎々しげにフンと顔を背けて部屋を出て行くとカーティスがその後を追った。クローディアはふふふと笑って今までローレンスが使っていた机をチラリと見てバーナードに頷いた。
「バーナード、取り敢えず国の運営に関わる書類を確認するわ。こちらのテーブルに運んで頂戴。後予算の分配とその使途も把握します。カーティスの手の物が引き取りに来る前にやるわよ。」
クローディアが躊躇なく執務机を調べ始めた。
「はい、クローディア様。」
バーナードは本棚を確認し始めた時ふとクローディアが質問して来た。
「あら?そう言えば補佐の者はどうしたのかしら?」
バーナードはあぁと頷いてクローディアに返答した。
「後ほどカーティス様に確認いたします。」
「頼んだわ。バーナード。」
(相変わらずローレンスは甘いわ。何故自分に恨みを持っているであろうわたくしを一人残して出て行くのだろう?信じられない。)
クローディアとってこの国にいた者たちは皆時間が止まっていたのかと思うほど危機管理に乏しく、自分の都合の良い夢を見ているような態度に感じられた。
言い換えると思考が停止しているのだ。
バーナードが積み重ねている書類を確認するのが怖くなくほど、呆れていたのだった。
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