悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

8、わたくし、秘密がありますの

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「それでは、クローディア様失礼いたします。」

最後にバーナードが部屋から去ってクローディアはまだ馴染んでいない部屋に一人になった。
今日は余りに目まぐるしく動き回っていたので心身ともに疲れ切っていた。
それでもここに戻ってきた事に後悔はなかった。思いがけず、優秀な人材を確保する事が出来たのも大きかった。
やはり暗殺等を考えると信頼できる護衛や料理人は不可欠だし、女性の武器であるドレスを整える侍女も必要ではあったのだ。それがクレアたちのおかげで、すぐに手に入った事に本当に感謝の気持ちを抱いていた。
毒の心配をせずに口にできるお茶を飲みながらクローディアは寝支度を済ませたままソファに座っていた。
クローディアは、ガサゴソとガウンのポケットを弄るともう赤茶けた古い封筒を取り出した。

「これが全ての始まりなのよね。」

クローディアは呟くとその封筒を開けて中身を取り出した。その便箋は優に10枚を超える程で、中身の長さを感じさせた。その便箋を開いて初めから読み始めた。これがクローディアの就寝前のルーティンなのだ。


クローディア嬢という書き出しから始まるこの手紙はクローディアが失意のどん底にある時に届いたものだった。誰のパーティなのかはよく覚えていないが、エスコートをする筈のローレンスが結局迎えに来ずに父であるフィールディング公爵に連れられて出席したのだ。そうしたらローレンスは既にサオリをエスコートして来ていたのだ。婚約者以外をエスコートするローレンスにも避難は集まったがそれよりもエスコートして貰えなかったクローディアに同情が集まったパーティだった。
そのパーティから早々に帰ってきた時に何故かウエストに巻いていたリボンから転がり落ちたのだった。
普段であればその様な恋文は侍女に処分させていたがその日に限っては読んでみようと思ったのだ。
クローディアはその封筒を持ってベッドに潜り込んだことを今でも鮮明に覚えていた。
そうして誰にも見せずに読んだ手紙がクローディアの運命を変えたのだった。

差出人は予言者ファティマで男か女かもわからない。しかし、その内容はまさに予言書だった。そう、くだらないと捨てる事など出来ない程クローディアの当時の状況を言い当てていた。
特に驚いたのはその週の前の週に実は既に一度約束をすっぽかされていた事が書かれていた事だった。それは誰にも言っていない。だって、一年も前にローレンスと約束した事なのだ。確か天文学の本に書いてあった流星群が見られるのが来年の今日で一緒に見ようと言っていた事だった。それはローレンスとクローディアだけが知っていた事だし、きっと今はクローディアしか知らない事だった。
その事が手紙の序文でピタリと言い当てられていた。それでクローディアは10枚以上からなる手紙を読む気になったと言っても過言ではなかった。
手紙は挨拶、序文の後は年表の様にこの国で起こる事、クローディアの身に起こる事が十三年後まで事細かに書かれていた。即ちクローディアが三十歳までの年表だった。
クローディアがその後更に冷遇され、嘲笑される事、父が亡命を考えている事、クローディアの誕生日での婚約破棄、一家で国を出て暮らす事、その時に頼る親戚の名前までが書いてあった。クローディアさえ知らない名前だ。
追放されるまでクローディアはまさか、まさかとこの手紙の内容を信じていなかった。しかし、次々と起こる手紙に書かれた内容にこれは神からの手紙だと考える様になった。
そして、追放される時には変えられない運命として受け入れていた。だから、父が婚約破棄に対する抗議する事を止めたし、この国を出る事を逆にクローディアから提案もした。父はクローディアから知らない筈の遠い親戚の名前が出た事にとても驚いていた。
しかし、クローディアは追放先でふと考えたのだ。本当に未来は変えられないのだろうか?と。本当に自分はこのまま失意の内に祖国から遠い国で一生を終えるのか?と考えた。
その時までは常に周りの言う事を聞いて自分に求められる役割を忠実に実行してきた自分自身を変えようと思ったのだ。
手紙に書かれていた事は次々と実現していったが、それと並行してクローディアはその手紙とは違う行動を取り始めた。
手紙には亡命先では自暴自棄になり、パーティ三昧と書かれていれば、今まで疎かにしていた学問に身を入れた。政治、経済、司法全てに手を出して家庭教師を雇い初歩からやり直した。
祖国からの使者が来て王位継承権の放棄を打診され簡単に放棄したと書かれていたので、意地でも放棄しなかった。
すると少しずつ書かれた未来と現実に差異が生まれ始めたのだ。
最初は本当に些細なことだった。
手紙では一度しか来なかった祖国からの使者が何度も訪れる様になったし、自暴自棄になって家族からも呆れられて追い出される様に二十歳も年の離れた男の後妻になると書かれていたが、そんな事は起こらなかった。逆に懸命に勉強やマナー、立ち振る舞い全てをやり直す様に習得していくクローディアを父も母も応援してくれた。
そうしてとうとうあの日を迎えたのだ。
ヒューバード王の死だ。
その年表通りの時期に本当に亡くなったと聞いて背筋が冷えた。クローディアに起こる事は既に全く違うものになっていたのに、この国に起こる事はその年表の通りになっているのだ。
その時になって変わったのは自分の周りだけなのだと考えたクローディアはこの国に降りかかる重大な出来事まで後たったの二年しかない事に気が付いたのだった。

二年後この国はある出来事をきっかけに滅ぶ。

クローディアは遠い国からこの滅亡を笑いながら見る事も出来たがそれよりも自らの手で復讐する事を選んだ。もう他者に振り回されるのはごめんだった。クローディア自身が救うべきものは救い、制裁すべき者は制裁する事にしたのだ。それが自らの選択だと思った。

「そう、後二年しかないわ。」

年表にはローレンスが王となり、父の妹がアッカルド王国初の女性王太子となると書かれていたが、既に現実は変わった。女性は女性だがそれは叔母のミランダではなく、クローディアとなったのだ。
そして、クローディアはローレンス達への復讐と共に自分も振り回され続けたこの予言書に対しても挑戦状を叩きつけたのだ。

「予言者ファティマ!今度は貴方の言う通りにはならないわよ!!」

クローディアは明日からの自分に気合いを入れた。

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