2 / 71
第1章 悪役令嬢の帰還
2、戦々恐々とする人々
しおりを挟む
「な、何!!!クローディアがもう着いたのか?!」
「ハッ!いかがいたしましょう?」
門番からの報告に先日即位したローレンスは顔色を変えた。十年前に無理矢理騙し討ちのように婚約を破棄した相手が戻ったのだ。狼狽えるなという方がどうかしている。この様な事態はローレンスがクローディアと別れた十年前には誰も想像していなかった。
こうなってしまう前に何とか回避しようと手を回したのだがなまじ国としての制度が整っている事が災いした。
このアッカルド王国は政治、経済、司法は完璧に分立している法治国家なのだ。それは王であっても法には従わなければならない。王とは政治の長かつ国の顔をという立場で決して全てを思い通りに出来るというものではなかった。
だから、父ヒューバートが三ヶ月前に亡くなり、ローレンスが先日即位するとまずい事が起こったのだ。
アッカルド王国では、必ず王太子を立てなければならないという法律がある。そしてその王太子は必ず王宮に住み、王を補佐するのが義務付けられていた。
王位継承権の順位も厳格なルールに基づいて定められており、王位継承権は亡くなるか、自ら辞退するまで持ち続ける事が出来る正当な権利だった。これは万が一にも正当な後継者が不当に権利を奪われないためのものだった。
その法律に則って王ヒューバートが亡くなり、王位継承順位一位のローレンスが王となる。そこまでは良かった。
しかし、残念ながらローレンスには子供がいなかったのだ。サオリと結婚して既に八年が経過しているが残念ながら懐妊とはならなかった。その事実が非常にまずい状況を作り出していた。
何故ならローレンスは一人っ子で次の王位継承順位二位はクローディアの父で王弟のフィールディング公爵だ。そして、第三位がその娘のクローディアだったのだ。これはいくら国を離れていようが変わらなかった。フィールディング公爵はこの国に見切りをつけたのか早々に王位継承権を放棄していたがクローディアはしなかった。
何度も使者をおくり王位継承権を放棄する様にせまったのだが、素気無く断られていた。
クローディアはこの十年間ずっと王位継承順位二位のままだった。
それがこのローレンスの即位により王位継承順位一位となり、それは即ち王太子になるということになったのだ。
司法の長はクローディアに連絡をとり王太子としての帰還もしくは継承権の放棄のどちらにするかを確認した所、大方の期待を裏切って王太子としての帰還を選択したのだった。
これにはローレンス以下あの婚約破棄に関わった貴族は皆慌てふためいた。
何といってもクローディアを不当に扱い最も屈辱的で効果的に排除したのだ。ない罪まで捏造して、、、。
そのクローディアが王太子として、次期王として帰還した。今、この瞬間に!!
「とりあえず、誰も行くな!出迎えを禁止する。王命だ!わかったな!」
「は!しかし、、クローディア様はどちらにご滞在なさるのでしょうか?」
「何処にも準備する必要はない!!早々に王位継承権を放棄させて追い出すのだ!」
ローレンスは髪を振り乱し、目を血走らせ、切羽詰まった顔をして頭を抱えた。そこにはクローディアと婚約していた面影は見当たらず、とても三十歳前とは思えない程老けて見えた。
「クローディア!あれだけ恥をかかせたのにまさか戻ってくるとはな、、、。」
そう呟いたローレンスはそれでも王としての責務としてクローディアに会わねばならないと謁見の準備にとりかかった。
なんとしても王位継承権を放棄させるのだ。金に困っていると聞いているので、まとまった金額を支払っても良いとまで考えていた。
「王、あの、サオリ様には何とお伝えすればよろしいでしょうか?」
「サオリには何も言わなくてよい。クローディアとは会わせる訳にはいかん。」
そういうとローレンスは少し遠くを見つめた。
エントランスが見渡せる正面階段の上では何人もの貴族達が今入ってきたクローディアを隠れて見つめていた。
クローディアは十年前と変わらず、いや更に美しくなっていた。
元々輝く黒髪の巻き毛と素晴らしいロイヤルブルーの瞳を持った美しい少女だったが、そこは深窓の公爵令嬢なのでどちらかというと世間知らずで我儘でそれでも庇護欲を掻き立てる様な雰囲気だった。
それがどうだ。
今馬車から降りてきたクローディアは女王ようだった。大胆にカットされた胸元の体の線に沿った真っ赤なドレスを身につけて完璧なスタイルを見せつけている。
そして何より変わっていたのはその雰囲気だった。世間知らずで我儘でそれでものんびりとした王太子の婚約者の公爵令嬢でも、婚約者に裏切られて憔悴しきった姿でもなく、そこには自信に満ち溢れ、輝く瞳をもつ気品あふれた淑女が立っていたのだ。
「おい!誰が言ったのだ!フィールディング公爵一家は落ちぶれて見る影もないのではないのか!?」
「金さえ渡せば簡単に継承権を放棄するという話は本当なんですよね?どう考えても金に困っている様には見えませんよ。」
「そんなの知るか!でも、どうするんだ?このまま居座られたら、、。」
「どうすると言われても、、、。本当に王位を継承する様な事があったら、、。あまり非礼をしても問題だぞ、、、。」
すると一人の男がスクッと立ち上がると座り込んで隠れている人々に宣言した。
「わ、私は、クローディア様を出迎えるぞ!こ、これは家の為だ。失礼する。」
「おい!ローレンス王からは出迎えるなと言われているぞ!」
「あなた方はこの十年間のローレンス様を見ていなかったのか!サオリ様のいいなりではないか!あれではローレンス王の治世は長く持たないぞ!」
そう言って一人が階段を駆け下りていった。その後ろ姿を見ていた数人も頷きあうと後を追う様にクローディアを出迎える為に駆け出したのだった。
残った面々も顔を見合わせて自らの進退を思い黙り込む。
今この時こそが決断の時を迎えている事をこの時はまだ誰も気づいていなかった。
「ハッ!いかがいたしましょう?」
門番からの報告に先日即位したローレンスは顔色を変えた。十年前に無理矢理騙し討ちのように婚約を破棄した相手が戻ったのだ。狼狽えるなという方がどうかしている。この様な事態はローレンスがクローディアと別れた十年前には誰も想像していなかった。
こうなってしまう前に何とか回避しようと手を回したのだがなまじ国としての制度が整っている事が災いした。
このアッカルド王国は政治、経済、司法は完璧に分立している法治国家なのだ。それは王であっても法には従わなければならない。王とは政治の長かつ国の顔をという立場で決して全てを思い通りに出来るというものではなかった。
だから、父ヒューバートが三ヶ月前に亡くなり、ローレンスが先日即位するとまずい事が起こったのだ。
アッカルド王国では、必ず王太子を立てなければならないという法律がある。そしてその王太子は必ず王宮に住み、王を補佐するのが義務付けられていた。
王位継承権の順位も厳格なルールに基づいて定められており、王位継承権は亡くなるか、自ら辞退するまで持ち続ける事が出来る正当な権利だった。これは万が一にも正当な後継者が不当に権利を奪われないためのものだった。
その法律に則って王ヒューバートが亡くなり、王位継承順位一位のローレンスが王となる。そこまでは良かった。
しかし、残念ながらローレンスには子供がいなかったのだ。サオリと結婚して既に八年が経過しているが残念ながら懐妊とはならなかった。その事実が非常にまずい状況を作り出していた。
何故ならローレンスは一人っ子で次の王位継承順位二位はクローディアの父で王弟のフィールディング公爵だ。そして、第三位がその娘のクローディアだったのだ。これはいくら国を離れていようが変わらなかった。フィールディング公爵はこの国に見切りをつけたのか早々に王位継承権を放棄していたがクローディアはしなかった。
何度も使者をおくり王位継承権を放棄する様にせまったのだが、素気無く断られていた。
クローディアはこの十年間ずっと王位継承順位二位のままだった。
それがこのローレンスの即位により王位継承順位一位となり、それは即ち王太子になるということになったのだ。
司法の長はクローディアに連絡をとり王太子としての帰還もしくは継承権の放棄のどちらにするかを確認した所、大方の期待を裏切って王太子としての帰還を選択したのだった。
これにはローレンス以下あの婚約破棄に関わった貴族は皆慌てふためいた。
何といってもクローディアを不当に扱い最も屈辱的で効果的に排除したのだ。ない罪まで捏造して、、、。
そのクローディアが王太子として、次期王として帰還した。今、この瞬間に!!
「とりあえず、誰も行くな!出迎えを禁止する。王命だ!わかったな!」
「は!しかし、、クローディア様はどちらにご滞在なさるのでしょうか?」
「何処にも準備する必要はない!!早々に王位継承権を放棄させて追い出すのだ!」
ローレンスは髪を振り乱し、目を血走らせ、切羽詰まった顔をして頭を抱えた。そこにはクローディアと婚約していた面影は見当たらず、とても三十歳前とは思えない程老けて見えた。
「クローディア!あれだけ恥をかかせたのにまさか戻ってくるとはな、、、。」
そう呟いたローレンスはそれでも王としての責務としてクローディアに会わねばならないと謁見の準備にとりかかった。
なんとしても王位継承権を放棄させるのだ。金に困っていると聞いているので、まとまった金額を支払っても良いとまで考えていた。
「王、あの、サオリ様には何とお伝えすればよろしいでしょうか?」
「サオリには何も言わなくてよい。クローディアとは会わせる訳にはいかん。」
そういうとローレンスは少し遠くを見つめた。
エントランスが見渡せる正面階段の上では何人もの貴族達が今入ってきたクローディアを隠れて見つめていた。
クローディアは十年前と変わらず、いや更に美しくなっていた。
元々輝く黒髪の巻き毛と素晴らしいロイヤルブルーの瞳を持った美しい少女だったが、そこは深窓の公爵令嬢なのでどちらかというと世間知らずで我儘でそれでも庇護欲を掻き立てる様な雰囲気だった。
それがどうだ。
今馬車から降りてきたクローディアは女王ようだった。大胆にカットされた胸元の体の線に沿った真っ赤なドレスを身につけて完璧なスタイルを見せつけている。
そして何より変わっていたのはその雰囲気だった。世間知らずで我儘でそれでものんびりとした王太子の婚約者の公爵令嬢でも、婚約者に裏切られて憔悴しきった姿でもなく、そこには自信に満ち溢れ、輝く瞳をもつ気品あふれた淑女が立っていたのだ。
「おい!誰が言ったのだ!フィールディング公爵一家は落ちぶれて見る影もないのではないのか!?」
「金さえ渡せば簡単に継承権を放棄するという話は本当なんですよね?どう考えても金に困っている様には見えませんよ。」
「そんなの知るか!でも、どうするんだ?このまま居座られたら、、。」
「どうすると言われても、、、。本当に王位を継承する様な事があったら、、。あまり非礼をしても問題だぞ、、、。」
すると一人の男がスクッと立ち上がると座り込んで隠れている人々に宣言した。
「わ、私は、クローディア様を出迎えるぞ!こ、これは家の為だ。失礼する。」
「おい!ローレンス王からは出迎えるなと言われているぞ!」
「あなた方はこの十年間のローレンス様を見ていなかったのか!サオリ様のいいなりではないか!あれではローレンス王の治世は長く持たないぞ!」
そう言って一人が階段を駆け下りていった。その後ろ姿を見ていた数人も頷きあうと後を追う様にクローディアを出迎える為に駆け出したのだった。
残った面々も顔を見合わせて自らの進退を思い黙り込む。
今この時こそが決断の時を迎えている事をこの時はまだ誰も気づいていなかった。
21
お気に入りに追加
2,427
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる