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「お嬢様、神殿から迎えが参りました」
ジェイの言葉に私はキャサリンに話しかける。
「キャサリン、時間のようよ」
未だに涙を流していたキャサリンは顔を上げた。
その顔は希望に満ちている。
彼女は転生被害者にはならなかった。
私はそのことが嬉しくて嬉しくて仕方がない。
「ニア様……」
キャサリンは私の前に立つと真っ直ぐに見つめてくる。
「キャサリン、頑張ってね。三年後、貴女が聖女になるのを楽しみにしているわ」
「はい、なんとお礼を申したらいいのかわかりません。わたくしは、命を救われました。本当です」
「キャサリン……」
「わたくしの精一杯の感謝をアスラン大公女様に捧げます」
そう言ってキャサリンはスッと腰を落とした。
それは国王に捧げるような正式なカーテシーだった。
優雅で美しく、そして、力強い。
会場の誰もが目を見張る気品とオーラ。
「わたくしにお手伝いできることがありましたら、いつでもお呼びください」
「わかったわ。貴女の幸福を心から望みます」
私はそう言って彼女の額に手を添えた。
スッと顔を上げたキャサリンと目と目が合う。
一瞬の沈黙の後、キャサリンは立ち上がった。
「それでは、これにてお暇いたします」
「ええ」
「また、お会いできることを切に望みますわ」
「私もよ」
キャサリンは最後にニコリと微笑むとくるりと背を向けて会場の出口に向かって歩き出した。
それはまるで新しい人生に向かって歩いているように見える。
もうこの会場で彼女を『悪役令嬢』と呼ぶ人間はいない。
もうそんな転生被害者もいない。
「終わったな」
「ええ」
ジェイの言葉に私も頷いた。
「では、帰りましょう。私達も」
私がそう言うとジェイがサッと手を出した。
私はその手を掴むと歩き出す。
後ろでは未だに公爵と伯爵、ステイルも入り乱れて言い合いをしている。
不気味なのは、何も言わないで遠巻きに騒動を眺めているイザベラだが、彼女が今後どう動くのかは誰にもわからない。
もしかしたら、新たなターゲットを見つけて再び転生被害者を作るかも知れないが、その時はまた保護しに来ればいい。
私はジェイと共に馬車に乗り込んだ。
「ちょっと!! 俺を置いてくなんて酷いだろ!!」
馬車のドアを閉めようとした時、ライアンも飛び込んできた。
確かに酷かった。
「ご、ごめんなさい」
思わず頭を下げる。
「まだ、リリアンお嬢様なんだから、頭なんて下げなくていいよ。 あーあ、わかっていたけど、フラれたなぁ」
ライアンはドカリと馬車の座席に腰を下ろすと両手を頭の後ろで組んだ。
「フラれ……」
そういえば、ライアンはキャサリンと仲が良かった。それはそういうことだったのか……
「えっと、あの、ライアンならきっと他にも……」
「いいよ。いいよ。慰めなくても!」
その拗ねた様子に私とジェイは顔を見合わせて笑い声を上げた。
「ははは、まぁ、良かったじゃないか! キャサリン嬢だって、お前に感謝してるよ」
「はぁ。俺が好きになった子は全員強くてしっかりしてて自分の足で歩いていっちゃうんだよね」
そう言って肩を落とすライアンに私はキャサリンを思う。
そう。確かにキャサリンは自分の人生を自分の足で歩いていったのだ。
それは羨ましいほどの強さだ。
私は思わず自分と比べてしまい、肩を落とす。
その時ライアンがジェイに話しかける。
「よし、後は撤収だね。ジェイ、プランは?」
「そうだな。元々旅行に来たんだから、帰りますって帰ろうか?」
「え? 俺は?」
「ライアンもリリアナお嬢様に付いて行くでいいんじゃないか? 元々アスラン大公家の縁者なんだから」
「まぁ、そうだけどな。すこーし気になることがあるんだ」
「……転生者か?」
「ああ。あまりに大人しすぎだっただろ?」
「そうだな」
私は二人の会話を聞きながら、確かにイザベラが大人しすぎたことを思い出した。
あんなに怒っていたのに、最後まで後ろの方で見ていただけだ。
「私も気になりましたわ。何故イザベラは傍観していたのでしょう?」
「ふむ。帰るのはそれを見届けてからにするか?」
「いや、二人、いやリサも入れると三人か……は撤収してくれて大丈夫だ。俺だけ少し残って確認するよ」
ライアンがそう言って胸をポンっと叩いた。
「そうだな。それがいいだろう。アーサーには僕から言っておこう」
「よろしく頼むわ。えっと、ニアちゃん、今度は素で会おうね」
「ええ、はい」
そう言うとライアンが馬車の天井をトントンと叩いた。
「では、まだライアン・リドル子爵としてお別れいたしましょう。リリアナお嬢様、お会いできて光栄でした。どうぞ、道中お元気で」
ライアンがそう言うと馬車がゆっくりと停止した。
「じぁな。俺は行くよ」
ライアンはそう言って馬車から降りていった。その後ろすがらはどこからどう見てもリドル子爵だった。
私はライアンがいなくなった席を見て、寂しさを感じていた。
「嵐のようなやつだろう?」
「ええ、そうですわね。なんだか寂しくなってしまいました」
「戻ってきたら後日談が聞けるよ。ライアンの報告書は読み物としても最高だよ」
そう言ってニコリと笑ったジェイに私も口角を上げた。
なんだか目まぐるしい毎日であっという間の滞在だったように感じるがもう既に一月が過ぎようとしている。
「ニア、もうすぐ大公邸だよ。もう少しだけ、リリアナお嬢様でいてね」
「はい。わかりましたわ。いつくらいに帰る予定でしょうか?」
「そうだな。国王陛下から手紙が届く前にお暇したほうが良さそうだね」
「では、早めがいいですわね。今日のことが噂に慣れば絶対にお声がかかるはずですもの」
「確かに。では、明日にしよう。あーあ、バルト達と分かれるのは辛いね」
私はジェイの言葉に頷いた。確かに寂しい。しかし、私はここにいると自分ではないリリアナという大公女でいることに罪悪感を感じていたのだ。それがなくなるだけで気持ちが軽くなる。
「寂しいですが、これ以上皆さんを騙す必要がないのですもの。それに越したことはありませんわ。では、着いた時点でバルトに伝えますわ」
「ああ、よろしく頼むよ。リリアナお嬢様」
そう言っていると馬車がゆっくりと停止した。
「あと一芝居だね」
ジェイはそう言って馬車から降りると、サッと手を差し出してくれる。
「お手をどうぞ。リリアナお嬢様」
「ええ、ありがとう」
私はその手を取って馬車から降りた。
その後はただただ大変だった。バルトに明日帰ると伝えるとかなりのショックを受けていた。ここマイヤー王国の大公邸に大公家の人間が来ること事態がイベントだったからだ。
バルトは私のためのプレゼントを沢山用意してくれた。ドレスに、靴にお菓子。私が好きだと言ったものを全て集めるような勢いだ。
私はさすがにバルトを呼んで止めるほどだった。
そうして、あっという間に翌日を迎えた。
「バルト、いろいろありがとう。楽しかったわ」
私は馬車に乗る前にバルトへ感謝を伝える。
「とんでもございません。至らぬことも多かったでしょうにお嬢様の寛大さにこのバルト感銘を受けました」
「そんな。ありがとう」
バルトはプレゼントを一杯に詰め込んだ馬車を指さした。
「あちらはお嬢様へ大公家からのプレゼントでございます。是非、ご活用ください」
「え?」
私は馬車を覗いてみて驚いた。プレゼントと呼ばれたものはドレスから装飾品、果ては私が気に入っていたチェストにテーブルまでが積み込まれている。
私が驚いて顔をあげるとバルトがウインクを返す。
「お嬢様、私はマイヤー王国の別邸とはいえ、アスラン大公家の執事長でございます。大公家に属していらっしゃる方は全て頭に入っております」
「え? では、始めから……」
「はい、その通りです。でも、ご安心ください。私は何もお聞きいたしません。ただ、一言言わせていただけると、お嬢様のお召し物は本当にアスラン大公殿下がご用意したものでございます。本当の大公女様として仕えるようにとの指示もございました」
そうか。そうだったのか。大公は全く表には出てこないが、影からしっかりとサポートしてくれていたのだ。私はバルトの手を掴んだ。
「ありがとう。バルト。また、今度会いましょうね」
「はい、今度はお嬢様の本当のお名前でお呼びできることを心より願っております」
私はバルトに少しだけ顔を寄せる。
「今度はニアと呼んで頂戴」
それだけ言うと、馬車に乗り込んだ。
「ニア様、いってらっしゃいませ!!」
外からバルトの声が聞こえる。
私は少しだけ窓を開けるとバルトが見えなくなるまで手を振ったのだった。
「バルトはなんだって?」
「私が偽物だと初めから気づいていたみたいですわ」
「流石だね。でも、そのまま騙されてくれたなんて、バルトも人が悪いな」
「リサは大丈夫だった? 大公家の侍女として残りたかったんじゃない?」
「何をおっしゃっているんですか? 私はお嬢様と別れるつもりはありません」
リサはそう言って私の手を掴んだ。
「お嬢様は私の生きがいですわ」
「……リサ、ありがとう」
大公邸を出発し、もうすぐ国境だ。本来ならばここでキャサリンを保護する予定だった。
でも、その悲劇は起こらなかった。それが全てだ。
私は心のそこからキャサリンを助けられて良かったと思っている。
「国境を越えたね」
ジェイの言葉に三人は大きく息を吐く。
「ミッション完了だ」
「はい」
「ええ」
「まぁ、ライアンの報告待ちだけどね。さぁ、家に帰ろう」
私はその言葉に頷きならも、帰るのが少し怖い。
何故なら今回ミッションで私はいくつものルールを破ってしまったからだ。
「ニア? どうしたんだい?」
「えっと、アーサーは怒っているわよね?」
私の言葉にジェイは少しだけ肩をすくめたのだった。
第一部 完
ジェイの言葉に私はキャサリンに話しかける。
「キャサリン、時間のようよ」
未だに涙を流していたキャサリンは顔を上げた。
その顔は希望に満ちている。
彼女は転生被害者にはならなかった。
私はそのことが嬉しくて嬉しくて仕方がない。
「ニア様……」
キャサリンは私の前に立つと真っ直ぐに見つめてくる。
「キャサリン、頑張ってね。三年後、貴女が聖女になるのを楽しみにしているわ」
「はい、なんとお礼を申したらいいのかわかりません。わたくしは、命を救われました。本当です」
「キャサリン……」
「わたくしの精一杯の感謝をアスラン大公女様に捧げます」
そう言ってキャサリンはスッと腰を落とした。
それは国王に捧げるような正式なカーテシーだった。
優雅で美しく、そして、力強い。
会場の誰もが目を見張る気品とオーラ。
「わたくしにお手伝いできることがありましたら、いつでもお呼びください」
「わかったわ。貴女の幸福を心から望みます」
私はそう言って彼女の額に手を添えた。
スッと顔を上げたキャサリンと目と目が合う。
一瞬の沈黙の後、キャサリンは立ち上がった。
「それでは、これにてお暇いたします」
「ええ」
「また、お会いできることを切に望みますわ」
「私もよ」
キャサリンは最後にニコリと微笑むとくるりと背を向けて会場の出口に向かって歩き出した。
それはまるで新しい人生に向かって歩いているように見える。
もうこの会場で彼女を『悪役令嬢』と呼ぶ人間はいない。
もうそんな転生被害者もいない。
「終わったな」
「ええ」
ジェイの言葉に私も頷いた。
「では、帰りましょう。私達も」
私がそう言うとジェイがサッと手を出した。
私はその手を掴むと歩き出す。
後ろでは未だに公爵と伯爵、ステイルも入り乱れて言い合いをしている。
不気味なのは、何も言わないで遠巻きに騒動を眺めているイザベラだが、彼女が今後どう動くのかは誰にもわからない。
もしかしたら、新たなターゲットを見つけて再び転生被害者を作るかも知れないが、その時はまた保護しに来ればいい。
私はジェイと共に馬車に乗り込んだ。
「ちょっと!! 俺を置いてくなんて酷いだろ!!」
馬車のドアを閉めようとした時、ライアンも飛び込んできた。
確かに酷かった。
「ご、ごめんなさい」
思わず頭を下げる。
「まだ、リリアンお嬢様なんだから、頭なんて下げなくていいよ。 あーあ、わかっていたけど、フラれたなぁ」
ライアンはドカリと馬車の座席に腰を下ろすと両手を頭の後ろで組んだ。
「フラれ……」
そういえば、ライアンはキャサリンと仲が良かった。それはそういうことだったのか……
「えっと、あの、ライアンならきっと他にも……」
「いいよ。いいよ。慰めなくても!」
その拗ねた様子に私とジェイは顔を見合わせて笑い声を上げた。
「ははは、まぁ、良かったじゃないか! キャサリン嬢だって、お前に感謝してるよ」
「はぁ。俺が好きになった子は全員強くてしっかりしてて自分の足で歩いていっちゃうんだよね」
そう言って肩を落とすライアンに私はキャサリンを思う。
そう。確かにキャサリンは自分の人生を自分の足で歩いていったのだ。
それは羨ましいほどの強さだ。
私は思わず自分と比べてしまい、肩を落とす。
その時ライアンがジェイに話しかける。
「よし、後は撤収だね。ジェイ、プランは?」
「そうだな。元々旅行に来たんだから、帰りますって帰ろうか?」
「え? 俺は?」
「ライアンもリリアナお嬢様に付いて行くでいいんじゃないか? 元々アスラン大公家の縁者なんだから」
「まぁ、そうだけどな。すこーし気になることがあるんだ」
「……転生者か?」
「ああ。あまりに大人しすぎだっただろ?」
「そうだな」
私は二人の会話を聞きながら、確かにイザベラが大人しすぎたことを思い出した。
あんなに怒っていたのに、最後まで後ろの方で見ていただけだ。
「私も気になりましたわ。何故イザベラは傍観していたのでしょう?」
「ふむ。帰るのはそれを見届けてからにするか?」
「いや、二人、いやリサも入れると三人か……は撤収してくれて大丈夫だ。俺だけ少し残って確認するよ」
ライアンがそう言って胸をポンっと叩いた。
「そうだな。それがいいだろう。アーサーには僕から言っておこう」
「よろしく頼むわ。えっと、ニアちゃん、今度は素で会おうね」
「ええ、はい」
そう言うとライアンが馬車の天井をトントンと叩いた。
「では、まだライアン・リドル子爵としてお別れいたしましょう。リリアナお嬢様、お会いできて光栄でした。どうぞ、道中お元気で」
ライアンがそう言うと馬車がゆっくりと停止した。
「じぁな。俺は行くよ」
ライアンはそう言って馬車から降りていった。その後ろすがらはどこからどう見てもリドル子爵だった。
私はライアンがいなくなった席を見て、寂しさを感じていた。
「嵐のようなやつだろう?」
「ええ、そうですわね。なんだか寂しくなってしまいました」
「戻ってきたら後日談が聞けるよ。ライアンの報告書は読み物としても最高だよ」
そう言ってニコリと笑ったジェイに私も口角を上げた。
なんだか目まぐるしい毎日であっという間の滞在だったように感じるがもう既に一月が過ぎようとしている。
「ニア、もうすぐ大公邸だよ。もう少しだけ、リリアナお嬢様でいてね」
「はい。わかりましたわ。いつくらいに帰る予定でしょうか?」
「そうだな。国王陛下から手紙が届く前にお暇したほうが良さそうだね」
「では、早めがいいですわね。今日のことが噂に慣れば絶対にお声がかかるはずですもの」
「確かに。では、明日にしよう。あーあ、バルト達と分かれるのは辛いね」
私はジェイの言葉に頷いた。確かに寂しい。しかし、私はここにいると自分ではないリリアナという大公女でいることに罪悪感を感じていたのだ。それがなくなるだけで気持ちが軽くなる。
「寂しいですが、これ以上皆さんを騙す必要がないのですもの。それに越したことはありませんわ。では、着いた時点でバルトに伝えますわ」
「ああ、よろしく頼むよ。リリアナお嬢様」
そう言っていると馬車がゆっくりと停止した。
「あと一芝居だね」
ジェイはそう言って馬車から降りると、サッと手を差し出してくれる。
「お手をどうぞ。リリアナお嬢様」
「ええ、ありがとう」
私はその手を取って馬車から降りた。
その後はただただ大変だった。バルトに明日帰ると伝えるとかなりのショックを受けていた。ここマイヤー王国の大公邸に大公家の人間が来ること事態がイベントだったからだ。
バルトは私のためのプレゼントを沢山用意してくれた。ドレスに、靴にお菓子。私が好きだと言ったものを全て集めるような勢いだ。
私はさすがにバルトを呼んで止めるほどだった。
そうして、あっという間に翌日を迎えた。
「バルト、いろいろありがとう。楽しかったわ」
私は馬車に乗る前にバルトへ感謝を伝える。
「とんでもございません。至らぬことも多かったでしょうにお嬢様の寛大さにこのバルト感銘を受けました」
「そんな。ありがとう」
バルトはプレゼントを一杯に詰め込んだ馬車を指さした。
「あちらはお嬢様へ大公家からのプレゼントでございます。是非、ご活用ください」
「え?」
私は馬車を覗いてみて驚いた。プレゼントと呼ばれたものはドレスから装飾品、果ては私が気に入っていたチェストにテーブルまでが積み込まれている。
私が驚いて顔をあげるとバルトがウインクを返す。
「お嬢様、私はマイヤー王国の別邸とはいえ、アスラン大公家の執事長でございます。大公家に属していらっしゃる方は全て頭に入っております」
「え? では、始めから……」
「はい、その通りです。でも、ご安心ください。私は何もお聞きいたしません。ただ、一言言わせていただけると、お嬢様のお召し物は本当にアスラン大公殿下がご用意したものでございます。本当の大公女様として仕えるようにとの指示もございました」
そうか。そうだったのか。大公は全く表には出てこないが、影からしっかりとサポートしてくれていたのだ。私はバルトの手を掴んだ。
「ありがとう。バルト。また、今度会いましょうね」
「はい、今度はお嬢様の本当のお名前でお呼びできることを心より願っております」
私はバルトに少しだけ顔を寄せる。
「今度はニアと呼んで頂戴」
それだけ言うと、馬車に乗り込んだ。
「ニア様、いってらっしゃいませ!!」
外からバルトの声が聞こえる。
私は少しだけ窓を開けるとバルトが見えなくなるまで手を振ったのだった。
「バルトはなんだって?」
「私が偽物だと初めから気づいていたみたいですわ」
「流石だね。でも、そのまま騙されてくれたなんて、バルトも人が悪いな」
「リサは大丈夫だった? 大公家の侍女として残りたかったんじゃない?」
「何をおっしゃっているんですか? 私はお嬢様と別れるつもりはありません」
リサはそう言って私の手を掴んだ。
「お嬢様は私の生きがいですわ」
「……リサ、ありがとう」
大公邸を出発し、もうすぐ国境だ。本来ならばここでキャサリンを保護する予定だった。
でも、その悲劇は起こらなかった。それが全てだ。
私は心のそこからキャサリンを助けられて良かったと思っている。
「国境を越えたね」
ジェイの言葉に三人は大きく息を吐く。
「ミッション完了だ」
「はい」
「ええ」
「まぁ、ライアンの報告待ちだけどね。さぁ、家に帰ろう」
私はその言葉に頷きならも、帰るのが少し怖い。
何故なら今回ミッションで私はいくつものルールを破ってしまったからだ。
「ニア? どうしたんだい?」
「えっと、アーサーは怒っているわよね?」
私の言葉にジェイは少しだけ肩をすくめたのだった。
第一部 完
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