ハロー・マイ・ワールド

井坂倉葉

文字の大きさ
上 下
9 / 21
一章 魔女が存在する世界

夢オチ

しおりを挟む


 3


 放課後。キリキリ胃が痛むのを堪えながら昼休み後の授業をやり過ごし、小隊活動棟の前に来た。
 正直むちゃくちゃ入りたくない。
 もう三人とも揃っているだろうか。だとしたら、凄まじく険悪なオーラが小隊室に渦巻いてそうだ。平時でさえ僕が仕事をしないからギスギスしているというのに、それを上回るギトギトした部屋に入れる気がしない。
「あー、もう帰ろうかな……。でもこのまま帰ったら多分明日タコ殴りにあうな……」
 最悪、アニーのメカのテストをさせられそうだ。あんな前衛的な芸術家の作品の一部にはなりたくない。
 ……とか何とか思っていたら。

『死ね!』

 叫び声と共に、ゴッッッ! と目の前の建物の三階部分の一部からぶっといビームが飛び出た。
「…………んん? 嫌な予感……ッ!」

『あんたこそ死ね!』

 別の叫び声と共に、ジャギンッ! と直径四、五メートルはありそうで金属的に輝く巨大な棘が、ビームが開けた穴を広げるように飛び出した。
「やっぱりかよ! もう最悪!」
 あわてて小隊活動棟に飛び込み、階段を二段飛ばしでかけ上がる。目指すは我が小隊室。
「幻覚でありますように!」
 なかば叫びながら小隊室に滑り込む。でも幻覚なんかじゃなかった。壁に大きな穴が開いていた。
 室内にはマイとアニー、それに中川の三人が既に揃っている。全員、僕が入ってくるなりそっぽをむいてしまった。
「…………誰がやった?」
 怒りを堪えながら訊くと、アニーと中川が互いを指差した。
「りあが酸素を消費しますから……」
「アニー先輩が二酸化炭素を吐き出すから……」
「お前ら一生何も吐き出せない身体にしてやろうか?」
 言い掛かりつけるチンピラか。いや、それよりもっとタチが悪い。とりあえず主犯格二人を床に正座させた。
 それにしても、
「なぜ同じ方向に攻撃を?」
「最初はねー、ただの口論だったんだよー」
 マイがソファの上で足をぱたぱた振りながら言う。
「で、段々とそれが『どっちが優秀か』的な話になってきてねー」
「機械科と魔術科が争ってどうするんだ……」
「最終的にはー、攻撃の出力競争になったわけー」
「それで室内で同方向にぶっぱなした訳か」
 うむうむ、なるほど。まあ確かに、それならば納得はいくし……殴り合いにならなかっただけは認められなくもないが、
「いや外でやれよ!?」
「「うっ」」
 バカ二人がまとめて耳が痛い痛いという顔をしている。一体何を考えてこいつらは、小隊室の中でこんな大技をぶちかましたのか。
「それはほら……、ついカッとなってその場でやっちゃったといいますか」
 中川がおそるおそる、という感じで言う。
「ついじゃないんだよ『つい』じゃ。もう少し考えて行動しろよ……。それにこの穴、一体どうするつもりだ!?」
 すると今度はアニーが堂々と言った。
「善処しますわ」
「善処しますか! ふざけんな、聞きあきたよそれ! お前、前に僕のゲームハード壊した時も『善処します』って言ってたけど、あれどーなったよ!」
「廃棄処分……ですわね」
「善処じゃない! 証拠隠滅しただけじゃん!」
「大丈夫ですわ、今回はそんな不粋な事はしませんわ」
「へえ……じゃあどうするつもりなんだ」
「世の中には、騙し絵というものがありますの」
「騙し絵! トリックアートッ!! 何をどう騙したら壁に空いた穴を誤魔化せるんですかぁ!」
 ダメだ、中川はともかくアニーには常識が全く通用しない。なんかプログラミングに失敗した人工知能と話してる気分だ。「今日の天気は?」『死ね』「今日は何月何日?」『うんこ~』「世界滅亡はいつ」『マリア・テレジア』みたいな会話を交わしている気分だ。
「もういいよお前ら。とりあえず事務室に『またぶち壊しました』って届けて反省文書いてこい」
 諦めて頭を掻くと、アニーが小さく何か呟いた。
「管理不行き届き……責任者アキラ……監視義務の不徹底……」
 ……ほほう。良い度胸だ。
「少し頭を冷やすか?」
「いいえ、必要ありませんわ」
「むしろ冷やす必要があるのはー、アキラの方じゃない?」
「なぜっ!?」
「なぜっ! じゃないよバーカ。もうとっくに授業終わったよー」
「授業? え?」
 直後。
 ガゴン! と後頭部を強く殴られた。視界が明滅する。平衡感覚が揺らぐ。


(recognize→現実)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

処理中です...