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一章 魔女が存在する世界
夢オチ
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放課後。キリキリ胃が痛むのを堪えながら昼休み後の授業をやり過ごし、小隊活動棟の前に来た。
正直むちゃくちゃ入りたくない。
もう三人とも揃っているだろうか。だとしたら、凄まじく険悪なオーラが小隊室に渦巻いてそうだ。平時でさえ僕が仕事をしないからギスギスしているというのに、それを上回るギトギトした部屋に入れる気がしない。
「あー、もう帰ろうかな……。でもこのまま帰ったら多分明日タコ殴りにあうな……」
最悪、アニーのメカのテストをさせられそうだ。あんな前衛的な芸術家の作品の一部にはなりたくない。
……とか何とか思っていたら。
『死ね!』
叫び声と共に、ゴッッッ! と目の前の建物の三階部分の一部からぶっといビームが飛び出た。
「…………んん? 嫌な予感……ッ!」
『あんたこそ死ね!』
別の叫び声と共に、ジャギンッ! と直径四、五メートルはありそうで金属的に輝く巨大な棘が、ビームが開けた穴を広げるように飛び出した。
「やっぱりかよ! もう最悪!」
あわてて小隊活動棟に飛び込み、階段を二段飛ばしでかけ上がる。目指すは我が小隊室。
「幻覚でありますように!」
なかば叫びながら小隊室に滑り込む。でも幻覚なんかじゃなかった。壁に大きな穴が開いていた。
室内にはマイとアニー、それに中川の三人が既に揃っている。全員、僕が入ってくるなりそっぽをむいてしまった。
「…………誰がやった?」
怒りを堪えながら訊くと、アニーと中川が互いを指差した。
「りあが酸素を消費しますから……」
「アニー先輩が二酸化炭素を吐き出すから……」
「お前ら一生何も吐き出せない身体にしてやろうか?」
言い掛かりつけるチンピラか。いや、それよりもっとタチが悪い。とりあえず主犯格二人を床に正座させた。
それにしても、
「なぜ同じ方向に攻撃を?」
「最初はねー、ただの口論だったんだよー」
マイがソファの上で足をぱたぱた振りながら言う。
「で、段々とそれが『どっちが優秀か』的な話になってきてねー」
「機械科と魔術科が争ってどうするんだ……」
「最終的にはー、攻撃の出力競争になったわけー」
「それで室内で同方向にぶっぱなした訳か」
うむうむ、なるほど。まあ確かに、それならば納得はいくし……殴り合いにならなかっただけは認められなくもないが、
「いや外でやれよ!?」
「「うっ」」
バカ二人がまとめて耳が痛い痛いという顔をしている。一体何を考えてこいつらは、小隊室の中でこんな大技をぶちかましたのか。
「それはほら……、ついカッとなってその場でやっちゃったといいますか」
中川がおそるおそる、という感じで言う。
「ついじゃないんだよ『つい』じゃ。もう少し考えて行動しろよ……。それにこの穴、一体どうするつもりだ!?」
すると今度はアニーが堂々と言った。
「善処しますわ」
「善処しますか! ふざけんな、聞きあきたよそれ! お前、前に僕のゲームハード壊した時も『善処します』って言ってたけど、あれどーなったよ!」
「廃棄処分……ですわね」
「善処じゃない! 証拠隠滅しただけじゃん!」
「大丈夫ですわ、今回はそんな不粋な事はしませんわ」
「へえ……じゃあどうするつもりなんだ」
「世の中には、騙し絵というものがありますの」
「騙し絵! トリックアートッ!! 何をどう騙したら壁に空いた穴を誤魔化せるんですかぁ!」
ダメだ、中川はともかくアニーには常識が全く通用しない。なんかプログラミングに失敗した人工知能と話してる気分だ。「今日の天気は?」『死ね』「今日は何月何日?」『うんこ~』「世界滅亡はいつ」『マリア・テレジア』みたいな会話を交わしている気分だ。
「もういいよお前ら。とりあえず事務室に『またぶち壊しました』って届けて反省文書いてこい」
諦めて頭を掻くと、アニーが小さく何か呟いた。
「管理不行き届き……責任者アキラ……監視義務の不徹底……」
……ほほう。良い度胸だ。
「少し頭を冷やすか?」
「いいえ、必要ありませんわ」
「むしろ冷やす必要があるのはー、アキラの方じゃない?」
「なぜっ!?」
「なぜっ! じゃないよバーカ。もうとっくに授業終わったよー」
「授業? え?」
直後。
ガゴン! と後頭部を強く殴られた。視界が明滅する。平衡感覚が揺らぐ。
(recognize→現実)
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