ハロー・マイ・ワールド

井坂倉葉

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一章 魔女が存在する世界

思い出の話・裏面

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 2.5


「……………………もういいかな」
 魔女の少女は雨を降らせるのを止めた。朱く染め上げられていた手は白さを取り戻していた。敵の追加はまだだろうか。そう思った矢先、ズドッ! とその首筋、脊髄を貫くように矢が突き立った。
「がッ…………!?」
 正確には、矢は首に下げられていたペンダントのチェーンを切断して、ペンダントを少女から切り離す。
『那須与一』。そう名付けられた弓と矢は、必中を願して魔法使いが祷りを捧げた武具。すなわち、それはただの弓矢ではなく、立派な霊装として機能する。
 パキバキパキバキ、と少女の首筋が凍るように固まっていく。幸いあまり深く刺さってはいない。神経に傷をつけている訳でもなさそうだ。しかし少女は珍しく慌てたように矢を握ると、
「ぐっ!」
 ぐちょ、と引き抜いた。矢じりに細かく彫られた返しが肉に僅かに引っ掛かるが、無理してそれを引き抜く。『魔女殺しの矢』をそのままにすれば、命に関わる。これが最良の選択だった。
 カラン、と少女の血肉を少しだけ付けた矢が地に落ちる。
「…………随分乱暴な一撃だ。処断委員会かな?」
「だったら何だ」
 少女の呟くような問い掛けに、誰かが答えた。辺りには姿は見えない。眼で探しても無駄だろう。力技で場所を暴くしかない。
「別に何と言うことはない」
 少女は地に落ちたペンダントを拾い上げながら、素っ気なく言った。その口の中で何かが青く光る。
「ただ少し、道案内を求めていた所でな?」
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