ハロー・マイ・ワールド

井坂倉葉

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一章 魔女が存在する世界

この世界の事情・裏面

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 1.5


(或る男の亡霊の話、機械科『降霊術機』を通してのリアルタイム記録)

 僅かに23.4度傾いた世界に、私は横たわっていました。
 気付いたら、全ては終わっていました。
 血と、汗と、叫びと、涙と、暴力と恐怖と無慈悲に彩られた世界は……消え去りました。
 私は、死んでいました。それをこうもはっきりと自覚できるのは、やはり死後の世界があったからに違いありません。
 死の間際に見えたのは聳え立つオベリスクと、朱が塗りたくられた白い手でした。
 オベリスク、私の魂の帰る場所。私を守り、そして私が守るべきその象徴物質。
 そして現在、視界中央には私と私の仲間を殺した少女。の足。今も私の屍の頭蓋に足を載せていて、ああ、屈辱的ではあるけれど、これも報いなのでしょうか。
 そして雨が降り注ぎます。汚ならしい体液と混じって、私に根を張っていた穢れも流れて行きます。
 その中で私は確かにこう願うのです。

 魔女を狩り続けたこの身を赦したまえ。

 なんて、ね。
 そして――……。



第一魔女処断学校直上表層、電柱に取り付けられた防犯カメラより)

 ――そして天に浮かぶ街より舞い降りてきた少女は、小さく溜め息を吐いた。その手はべっとりと赤く濡れている。穢れた血だ。
 その足元には、同じような服装をした男が二人転がっている。二人は仲良く、首の骨が嫌な方向に曲がっていた。
「…………またやっちゃった」
 少女は片方の男の頭を踏みつけると、ぐるり、と少女は首を回して辺りを見渡す。一人くらい生きている奴はいないかな。いないみたい?
 少女の回りには、足元の二人と同じ服装をした人間が更に十数人ほど横たわっていた。それらは皆、ピクリとも動かない。
 死んでいる。生命活動の停止。少女の行動がもたらした結末だ。
「仕方ないな……。もう少し、踏み込んでみようか」
 もう十分に魔女には危険区域であると云うのに。視界に君臨するオベリスクは、無言の警告を放ち続けていると云うのに。それでもなお、少女は中心部に迫ろうとする。
 そして少女は小さく呪を呟く。すぐにぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
 恵みの水は、少女の穢れを綺麗に洗い流していく。綺麗な金髪にも顔にもこびりついていた血と脳漿を擦り落とすと、僅か五〇メートルほど離れた所に高く聳え立つオベリスクを仰ぎ見て、少女は言った。
「戦争はまだ終わっていない。膠着状態に入っただけ」
 私はここに宣戦布告する。あの方に会うまで、私は止まることができない。
「だから待っててくれ、あなた様」
 言葉と共に、足元の男の頭蓋骨を思い切り踏み割った。
 んべ、と少女は舌を出す。『穢れた血』が――――、人間の血がたらたらと流れ出した。
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