5 / 21
一章 魔女が存在する世界
この世界の事情・裏面
しおりを挟む1.5
(或る男の亡霊の話、機械科『降霊術機』を通してのリアルタイム記録)
僅かに23.4度傾いた世界に、私は横たわっていました。
気付いたら、全ては終わっていました。
血と、汗と、叫びと、涙と、暴力と恐怖と無慈悲に彩られた世界は……消え去りました。
私は、死んでいました。それをこうもはっきりと自覚できるのは、やはり死後の世界があったからに違いありません。
死の間際に見えたのは聳え立つオベリスクと、朱が塗りたくられた白い手でした。
オベリスク、私の魂の帰る場所。私を守り、そして私が守るべきその象徴物質。
そして現在、視界中央には私と私の仲間を殺した少女。の足。今も私の屍の頭蓋に足を載せていて、ああ、屈辱的ではあるけれど、これも報いなのでしょうか。
そして雨が降り注ぎます。汚ならしい体液と混じって、私に根を張っていた穢れも流れて行きます。
その中で私は確かにこう願うのです。
魔女を狩り続けたこの身を赦したまえ。
なんて、ね。
そして――……。
(第一魔女処断学校直上、電柱に取り付けられた防犯カメラより)
――そして天に浮かぶ街より舞い降りてきた少女は、小さく溜め息を吐いた。その手はべっとりと赤く濡れている。穢れた血だ。
その足元には、同じような服装をした男が二人転がっている。二人は仲良く、首の骨が嫌な方向に曲がっていた。
「…………またやっちゃった」
少女は片方の男の頭を踏みつけると、ぐるり、と少女は首を回して辺りを見渡す。一人くらい生きている奴はいないかな。いないみたい?
少女の回りには、足元の二人と同じ服装をした人間が更に十数人ほど横たわっていた。それらは皆、ピクリとも動かない。
死んでいる。生命活動の停止。少女の行動がもたらした結末だ。
「仕方ないな……。もう少し、踏み込んでみようか」
もう十分に魔女には危険区域であると云うのに。視界に君臨するオベリスクは、無言の警告を放ち続けていると云うのに。それでもなお、少女は中心部に迫ろうとする。
そして少女は小さく呪を呟く。すぐにぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
恵みの水は、少女の穢れを綺麗に洗い流していく。綺麗な金髪にも顔にもこびりついていた血と脳漿を擦り落とすと、僅か五〇メートルほど離れた所に高く聳え立つオベリスクを仰ぎ見て、少女は言った。
「戦争はまだ終わっていない。膠着状態に入っただけ」
私はここに宣戦布告する。あの方に会うまで、私は止まることができない。
「だから待っててくれ、あなた様」
言葉と共に、足元の男の頭蓋骨を思い切り踏み割った。
んべ、と少女は舌を出す。『穢れた血』が――――、人間の血がたらたらと流れ出した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。


〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。


〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる