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序章 ハロー・マイ・ワールド
あの、私も女の子なんだけど
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苦しみ悶えることおよそ十分間。
ようやく、痛みから復帰した。幸い潰れてはいなかったらしい。
だが、これじゃあもうどうしようもない。本格的な実力行使には敵わない。このまま抵抗しても痛い目を見るだけだろうし、ここは大人しく従うとしようか。
「……分かったよ。仕事やるよ。資料は?」
とんがり帽は、おお、となぜか感嘆の声を上げると、帽子の中から紙束を取り出した。
「はいこれー。サポートは全力を尽くすから」
渡された資料をぺらぺらと捲って、
「げ。ただのコソ泥潰しかよ」
「そうねー。でも、機械科が極秘に作ってた危険物を持ち出したらしいよー」
だから殺害許可が下りちゃってる、と言って、とんがり帽は溜め息を吐いた。
「それにしてもまたー、『危険物』……ねー」
「機械科は常に『極秘な危険物』を公に作ってないか?」
「『極秘な危険物作ってます』って自分達で言うもんねー。はいー、インカムと戦闘服一式」
「サンキュ」
とんがり帽はどこから取り出したのか、黒い戦闘服を渡してきた。その場で着替える。とんがり帽は女子だが、堂々と。
恥ずかしくは無いし、向こうも長い付き合いで慣れたのかそれとも興味がないのか、特に気にしている素振りもない。
「それじゃあいっちょ、仕事しますか」
服を着終わり、一通りチェックを済ませて、軽く体操する。
「あれれ。私を持ったかの確認はー?」
「いつも腰に着けてるから不要」
「ふむふむ。なるほどねー」
とんがり帽は頷くと、小さな杖をポケットから取り出した。
「それじゃあ」ひらひらとそれを振りながら、とんがり帽は――いや、魔女は言う。
「行ってらっしゃーい。――ファ・スン・トラ」
その言葉だけで僕は、《地底》から《表層》へと、一瞬で飛ばされていた。
学校に居ては忘れがちな、《表層》の閑散とした、荒廃した、淪落した先代文明の風景。それを眺めながら、僕は腰にぶら下げた『魔装』を、その魔装に力を与えた者の事を少しだけ考えた。
僕が魂を売った魔女。とんがり帽。その名を、マイと言う。
彼女の同胞を、これから処断しに行くのだから。考えずにはいられない。
そしてやっと冒頭の状態に戻る訳だ。少し長くて済まなかった。
僕はコソ泥を待ち伏せし、追い詰めて生け捕りにすることで、処断を済ませた。
本来は殺害許可も下りている。その場で殺しても誰からも文句は言われないだろうが、マイの力が宿る武器を血で汚したくはなかった。
とはいえ――。この魔女は結局今から、非合法な拷問を浴びるように喰らってむごたらしく死んでしまうだろう。その意味で僕は、彼にとって最低の選択をした訳だ。
取月隊、ミッションクリア。ポイント、五〇〇プラス。
3
アキラが去ってすぐ、小隊室に一人残されたとんがり帽――マイの顔は、かああ……と赤くなった。
「毎回隠しもせず着替えちゃってさー。私も女子なんだよー……」
アキラの前では顔を赤らめまい、といつも苦労しているのだった。
「……っと、こうしちゃいられない。慣れないオペレーター役を全うしますかねー」
マイは壁際に設置されたパソコンの前に座り、インカムセットを装着した。
「Hello?」
ようやく、痛みから復帰した。幸い潰れてはいなかったらしい。
だが、これじゃあもうどうしようもない。本格的な実力行使には敵わない。このまま抵抗しても痛い目を見るだけだろうし、ここは大人しく従うとしようか。
「……分かったよ。仕事やるよ。資料は?」
とんがり帽は、おお、となぜか感嘆の声を上げると、帽子の中から紙束を取り出した。
「はいこれー。サポートは全力を尽くすから」
渡された資料をぺらぺらと捲って、
「げ。ただのコソ泥潰しかよ」
「そうねー。でも、機械科が極秘に作ってた危険物を持ち出したらしいよー」
だから殺害許可が下りちゃってる、と言って、とんがり帽は溜め息を吐いた。
「それにしてもまたー、『危険物』……ねー」
「機械科は常に『極秘な危険物』を公に作ってないか?」
「『極秘な危険物作ってます』って自分達で言うもんねー。はいー、インカムと戦闘服一式」
「サンキュ」
とんがり帽はどこから取り出したのか、黒い戦闘服を渡してきた。その場で着替える。とんがり帽は女子だが、堂々と。
恥ずかしくは無いし、向こうも長い付き合いで慣れたのかそれとも興味がないのか、特に気にしている素振りもない。
「それじゃあいっちょ、仕事しますか」
服を着終わり、一通りチェックを済ませて、軽く体操する。
「あれれ。私を持ったかの確認はー?」
「いつも腰に着けてるから不要」
「ふむふむ。なるほどねー」
とんがり帽は頷くと、小さな杖をポケットから取り出した。
「それじゃあ」ひらひらとそれを振りながら、とんがり帽は――いや、魔女は言う。
「行ってらっしゃーい。――ファ・スン・トラ」
その言葉だけで僕は、《地底》から《表層》へと、一瞬で飛ばされていた。
学校に居ては忘れがちな、《表層》の閑散とした、荒廃した、淪落した先代文明の風景。それを眺めながら、僕は腰にぶら下げた『魔装』を、その魔装に力を与えた者の事を少しだけ考えた。
僕が魂を売った魔女。とんがり帽。その名を、マイと言う。
彼女の同胞を、これから処断しに行くのだから。考えずにはいられない。
そしてやっと冒頭の状態に戻る訳だ。少し長くて済まなかった。
僕はコソ泥を待ち伏せし、追い詰めて生け捕りにすることで、処断を済ませた。
本来は殺害許可も下りている。その場で殺しても誰からも文句は言われないだろうが、マイの力が宿る武器を血で汚したくはなかった。
とはいえ――。この魔女は結局今から、非合法な拷問を浴びるように喰らってむごたらしく死んでしまうだろう。その意味で僕は、彼にとって最低の選択をした訳だ。
取月隊、ミッションクリア。ポイント、五〇〇プラス。
3
アキラが去ってすぐ、小隊室に一人残されたとんがり帽――マイの顔は、かああ……と赤くなった。
「毎回隠しもせず着替えちゃってさー。私も女子なんだよー……」
アキラの前では顔を赤らめまい、といつも苦労しているのだった。
「……っと、こうしちゃいられない。慣れないオペレーター役を全うしますかねー」
マイは壁際に設置されたパソコンの前に座り、インカムセットを装着した。
「Hello?」
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