宮廷追放された医師の薬屋ハーレムライフ~宮廷で女神の祝福を授かった医者だったが、医療ミスで田舎に追放されたので薬屋として生きていきます~

笹塚シノン

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25 敵軍の作戦

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俺が困惑する両軍に牽制けんせいをしていると、シャルロッテが遅れて駆け付けてくる。

「はぁ……はぁ……アーノルド……無茶は、しないでください」

重装で一生懸命走ってきたのか、息も絶え絶えのシャルロッテだった。

「先走ってすまんな、シャルロッテ」

――ざわざわっ
シャルロッテの登場にエリナベル軍の兵士達が更に動揺し始める。

「シャルロッテ様……」
「……シャルロッテ様だ」
「本当だ、何故ここに!? 」

エリナベル軍の兵士の反応を見た俺は、シャルロッテに視線を向ける。

「シャルロッテ、すまないがエリナベル軍に戦闘行動を止める旨を伝えてくれないか?」
「……え……わ、分かりましたが、アーノルドはどうするのですか?」
「俺はアラバスト軍の奴らと話してくる。それじゃ、エリナベル軍は任せたぞ!」

俺はシャルロッテの返答を待たずに駆け出した。

「ま、待ってください! アーノルド――」

俺はシャルロッテの静止を振り切って、大勢いるアラバスト軍の前へと向かった。



俺の魔法により、勢いを完全に止められたアラバスト軍の前に到着する。
思いっきり息を吸った俺は、大声で叫ぶかのように問いかける。

「お前達の目的はポーションの生産元であるネルド村だろ!!! 俺がそのポーションを作っている張本人だ! 言いたい事があるのなら俺に言え!!!!」

俺が叫びにも似た掛け声をアラバスト軍に呼びかけると――

「道を開けるのだ!!」

――アラバスト軍の後方から聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、兵士達が道を開けるように左右に移動し徐々に道が出来る。

「……まさか」

出来た道の奥からは馬に乗った男、以前俺が付き人をしていた王子が姿を現した。

「ふん、またお前の顔を見る事になるとはな、アーノルド!!!」
(……うわ、お前も前線にきていたのかよ)

俺はどう返答しようか迷ったが――

「……えっと、どなたでしたっけ?」

――相手をするのが面倒なので適当に誤魔化すことにした。

「こいつ……我を忘れたかっ! アラバスト王国の王子であるレオナード・アラバストだ!」
「あぁ……そんなやつもいたな」

俺は白を切るのも面倒になり適当に答える。

「ぐっ……相変わらず口が減らない奴だ。……父上がお前を認めたとしても、我はお前を絶対に認めない!」

こいつは俺がアラバスト王国にいた時から俺に突っかかってくる糞王子だった事を思い出す。

「お前からどう思われようが俺には関係ないな、すぐに軍をアラバスト王国に引き返してくれないか?」
「はっ! 寝言は寝て言え! ネルド村と共にお前を消せば、リーシアは我のモノになるのだからな!」
「……は? なんでここでリーシア出てくるんだよ?」
「そんなの調べたらすぐ分かる事だ、リーシアは少し前にお前のいるネルド村に向かったときいておる」
「……あぁ、その通りだが?」
「ネルド村を滅ぼした後、リーシアだけは我の元へ連れてくるように話を付けているのだ」

なるほど、レオナードが俺に突っかかってきたのは俺とリーシアの関係が原因だったのかよ。

「……お前がリーシアの事をどう思っているか知らんが、お前達をネルド村に向かわせる訳ないだろ!」
「ふ、何も我らの軍がネルド村に出向く必要はない。……いや、むしろもう我らの役目は既に終えていると言ってもいい」
「役目? レオナード、お前は一体何を言っているんだ!」
「……ふ、いいだろう、愚かなお前に教えてやる。今エリナベル軍は我らの軍に集中している。……では、今頃ネルド村は無防備な状態なのではないか?」

俺はレオナードが何を言っているのか理解できなかった。
……いや、理解したくなかった。というのが正しい。

「……おい、まさかお前」
「ふふ、そうさ。……今頃、そのネルド村に向けてカンク帝国とエラルド公国の両軍が攻め込んでいる! 愚かなお前とエリナベル軍はまんまと餌に食いついてきたという事なのだ!!!! アーッハハハハハハハハ!!!!」

馬鹿みたいに高笑いをするレオナードを前に、俺は一瞬で頭から血の気が引く。

「……くっ!!」

歯を食いしばりながら、俺はすぐにネルド村に残してきた二人の女性の顔が脳裏に浮かぶ。
すると、傍にいた兵士が声を上げた。

「レオナード様っ!! それは最重要機密事項です! 敵兵に漏らす事ではありません!」
「ふふ、良いではないか――」

レオナードは俺を指差しながら続ける。

「――こいつはどうせ……ここで死ぬのだからな!」

――ブチッ
俺は怒りで頭の血管がプッツンしてしまったような感覚を覚える。

「……はっ……誰が死ぬかよ」

俺はそう呟くと右手をアラバスト軍を背にするレオナードに向け――

『……ホーリーゲート』

――俺は超強力な聖魔法を行使し、右手から内側が純白の輪っかを出現させる。
その輪っかの大きさは、瞬く間に糞レオナートを含めたアラバスト全軍を囲むほどの巨大な輪になる。

「……しばらく、この中にいろ」

純白の輪っかに驚くアラバスト兵は――

「ヒィ! 迫ってくる!!!」
「「「「「ギャアァァァァァァァァァァァ!」」」」」

――断末魔に近い奇声を上げながら次々と純白の輪の中に飲み込まれていく。
視界を埋め尽くす程いたアラバスト軍の兵士達は一瞬のうちに眼前から消え去った。

「……あ、アーノルド!! 一体何をしたと言うのですか!?」

突然消失したアラバスト軍に驚いたシャルロッテは俺の元へ駆けつけてくる。

「あぁ……ちょっとアラバスト軍を悪意を吸いつくす空間に隔離したんだ。安心してくれ……殺しちゃいないし、後で吐き出すつもりさ」
「そ、そうなのですね……よかった」
「あぁ……いや、それよりもシャルロッテ! 今カンク帝国とエラルド公国がネルド村に向かって進軍しているみたいなんだ!」
「……なんですってっ!? ……そ、そんな……今からネルド村に戻っていては間に合わないのでは……」

シャルロッテの顔からみるみる血の気が引いていくのが分かる。
そんなシャルロッテを見ていると、突然エイルが声を上げた。

≪……っ!? アーノルドさん! 今、ネルド村にいるラミリアさんの身に何かが起きたようです!≫
(……は!? なんだって!?)

俺は素材集めの時にラミリアの精神とエイルを繋げたような事をエイルが言っていたのを思い出す。

(……それでエイル、それが何か分かるか?)
≪……ん~~……何か外部からの干渉によるものだと思いますが……解析してみます!≫
(あぁ、頼む)

俺はエイルにお願いをしつつ、ネルド村がある方向に視線を向ける。

「……今、ネルド村で何が起きているんだ。ラミリア……リーシア!」

俺はそう呟き、はるか遠くにあるネルド村の安否を祈るのだった。
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