宮廷追放された医師の薬屋ハーレムライフ~宮廷で女神の祝福を授かった医者だったが、医療ミスで田舎に追放されたので薬屋として生きていきます~

笹塚シノン

文字の大きさ
上 下
19 / 35

19 リーシアとの夜会話

しおりを挟む
リーシアが来た事によってラミリアと一緒に寝る事が出来ないと判断した俺は、ラミリアに自室で寝るように伝え一人で寝ようとしたのだが……寝付けなかった。
ラミリアの温もりが恋しく思いながらも皆が寝静まった後、俺は薬屋の外にある小川のほとりに座り込む。

(……はぁ、こんなんじゃリーシアに言い訳できないな)

俺はそう思っていると、深夜になった今でも未だ作業を続けているドワーフ達に気付く。

「……こんな夜遅くまでよくやるよな」

作業をしてくれている手前、俺は作業員のドワーフたちにポーションを提供しているのだが、俺のポーションを服用すればどんな疲れも吹き飛んで”翼を授かる感覚”になるようで何時間も作業を行えるらしい。

(……絶対に体に負担かけているよな)

そんな事を考えていると、薬屋から寝間着のリーシアが出てくる。

「あら、アーノルド。起きていたの」
「……リーシアこそ。眠れないのか?」
「良い部屋だったけど慣れない部屋だからね。ちょっと寝つきが悪かったのよ。……隣、いいかしら?」
「ん? あぁ、構わない」

リーシアはニコッと笑顔を浮かべると、俺の隣に座り込む。

「えへへ……こんなにゆっくりするの、私が宮廷に行った時以来ね」
「そうだな。あの時はリーシアは仕事もあったしすぐ追い返したけど、今回はそうじゃないもんな」
「えぇ。……でもシャルロッテさんもいるなんて思わなかったわ」
「はは、お前の驚きっぷりは笑えた」
「うるさいわね。……あと、ラミリアさんだっけ。あの小動物のような可愛い子とはどういう繋がりなのよ?」

――ビクッ!
俺は寝付けなかった理由を思い出し、一人ビクついてしまう。
どうやら、リーシアもラミリアに興味深々の様子だ。

「あいつは俺がネルド村に来る時に傷だらけだったのを拾ったんだよ」
「……えっ!? そうだったの?」
「あぁ……ラミリアは魔法を使える体にする為に実験として体を弄られていたみたいで……かなりひどい目にあっていたようだ」
「そう……だったんだ」

俯くリーシアを横目に、俺は自身の右手を見ながら続ける。

「俺が拾った時は瀕死状態で……俺の力を使わなかったら、恐らく死んでいただろうな」
「……相変わらず、アーノルドの力ってすごいわよね」
「まぁ……な。俺もいつも助けられているよ」

リーシアは薬屋の方をチラっと見て話す。

「ねぇ、アーノルド。ポーションってもしかして……」
「あぁ、俺の右手の力を注いだ水を小さいビンに入れて売っているんだ」
「……なるほどね。いろいろ納得がいったわ。カレンさんからポーションの話を聞いたけど、あまりにも出来過ぎた効果だったから本当かどうか半信半疑だったのよ」
「普通はそう思うさ。俺もまさかこんな効果があるとは思わなかった。……いろいろ試してみるもんだな」
「そうね。それで今はあの店でポーションを売っているの?」

リーシアは薬屋の方を指差しながら問いかけてくる。

「あぁ、ラミリアとシャルロッテにも協力してもらっているんだ」
「……ちょっと! 一国のお嬢様に何させてんのよ!」

リーシアが至極しごく当たり前の反応をする。

「リーシアもそう思うよな? いや、本人がやりたいって言うんだよ」
「そうなの? って。そもそも何でシャルロッテさんがネルド村にいるのよ」
「それが……シャルロッテのお父さんが心臓を弱めたらしくてな、亡くなりかけていたんだよ。……それでわざわざ宮廷からこのネルド村に尋ねてきたんだ」
「……そうだったのね。で、アーノルドがシャルロッテさんのお父さんを治したってわけ?」
「あぁ。それからシャルロッテもポーションの事を知ってからはネルド村に移住してきたんだ。今は薬屋の一室を貸して生活しながら全世界にポーションを広める手伝いをしてくれているって訳だ」
「……へぇ、だからアラバスト王国にまでポーションが出回ってきたのね」
「そうだろうな。でも、俺もネルド村以外の活動はシャルロッテに任せていたが、まさかこんな事になるなんて思わなかったよ」
「そうよ。アラバスト王国の動向も気になるし……こんなゆっくりしていていいの?」

リーシアは少し不安そうな表情をする。

「俺も細かい事は分からんが、シャルロッテに任せておけば大丈夫だろ。シャルロッテは物凄く有能だからな」
「それは……確かに、シャルロッテさんなら何とかしてくれそうな気はするけど……頼ってばっかりじゃダメだと思うわよ?」
「だな。俺もこのネルド村で出来る限りの対策をしようとは思っている。村長だし」
「……へ?」

リーシアが気の抜けた声を上げる。

「……アーノルドって村長だったんだ」
「まぁ……驚くよな。俺がポーションを開発した事で村に貢献した名誉を称えて抜擢ばってきされたんだ。……嫌だったけどな、断れなかったんだ」
「ふふ、アーノルドらしいわね」
「それで村長になって初めの施策として――」

俺はドワーフが作業をしている内壁の方を指差す。

「――ほら、見えるだろ。村の周辺に壁を作って侵入できないようにする予定なんだ」
「……なるほどね。ってこんな時間まで作業させちゃって……ちゃんと休憩をさせてあげなさいよ」
「俺もそう言っているんだけどな、ドワーフの作業員もポーションの生産地を守るって言ってやる気なんだよ」
「そう。……ほんと、ポーションって人気なのね。ちょっと飲んでみたくなっちゃった」
「……なら一つ飲むか?」
「え、いいの?」
「構わないぞ」
「……なら、お願いしようかしら」
「わかった。待ってろ」

俺は立ち上がり薬屋にポーションを一つ取りに行く。

「ほら、これだ」

手に持つポーションをリーシアに手渡す。

「ありがと……頂くわね」

――ポンっ……ゴクッゴクッ
リーシアは受け取ると、何の躊躇ちゅうちょもなくコルク栓を開けて飲み干す。

「……っ!?」

リーシアは飲んですぐ自身の両手を見て何かに驚いていた。

「凄いわね、これ。……長旅に大荷物で体が悲鳴を上げていたのに……キレイさっぱり無くなったわ」
「そりゃよかった」

もうお馴染みの反応で俺は聞き流す。

「これならカレンさんが話したくなるものわかるわ。……これにアーノルドの力を注いだ水を入れてるの?」

リーシアは空ビンを見ながら呟く。

「その通りだ。アラバスト王国だと劇薬っていう噂が出回っているらしいけどな」
「そんな噂が……はぁ、もったいない」
「はは……」

こんなにゆっくり話したのは数年ぶりだろう……心が安らぐのを感じる。
そんなことを考えていると、リーシアは背伸びをする。

「ん~……ちょっと長居しすぎちゃった。いい加減寝ないと明日に響くわね」
「そうだな。……よいしょっと」

俺はそう言いながら立ち上がると、薬屋の方から寝間着のラミリアが姿を現す。

「……アーノルド! 起きてタ!」
「ラミリアっ!? まだ起きていたのか?」
「ウン……」
(……俺がポーションを取りに行った時の物音で起きたのか?)

ラミリアは目を擦りながら答える。

「あらら……ラミリアさん、もう夜遅いですよ。寝なくていいんですか?」
「……アーノルドと一緒じゃないからぐっすり眠れないノ」
(……おいぃ! ラミリア、それをここで言うな!)

ラミリアの言葉を聞いたリーシアはゆっくりと俺に視線を向ける。

「……どういう事?」

リーシアは先ほど話していた声色とは違い、凄みのある声色で尋ねてくる。

「いやっ! あの……えっと……ラミリアは一体何をいっているんだろうな?」
(ラミリア、適当に誤魔化せ!)

俺はラミリアにも目で意志を伝えようとしたが――

「……? アーノルドといっつも一緒に寝てるノ」

――純粋なラミリアはリーシアの質問に答える。
次第にリーシアが震えだす。

「……あ、あ……アーノルド!! どういう事か私にも分かるように説明して貰えるかしら!」
「あ~もう!! ちげぇよ! 絶対勘違いしているだろ、お前!」
「……あぁ……アーノルドがいたいけな少女に手を出す日が来るなんて」

リーシアは天に拝み、全く俺の話を聞こうしない。

「もう、だから俺の話を聞けって! ……さっきも話したけど、こいつは酷い目にあわされていて、体は俺の力で治したけど一人で寝る事が出来なかったんだよ! だから俺が仕方なく添い寝をしていたんだ! 仕方ないだろ?」

俺はそんなリーシアにラミリアと一緒に寝ていた経緯を懇切丁寧に説明をする。

「……あら、そうだったの。ラミリアさん、怖かったわね……よしよし」
(こいつ……本当に理解しているのか)

事情を知ったリーシアはラミリアを抱きしめながら頭をナデナデする。

「ん~……♪」

ラミリアは撫でられて気持ちよさそうだ。

「はぁ……変な勘違いをするなよな、全く……」

俺はそんな二人を眺めながら深いため息を吐く。
そんな中、リーシアはかがんでラミリアと顔の高さを合わせてラミリアに語り掛ける。

「ねぇ、ラミリアさん。一人で寝られないのなら私が添い寝してあげましょうか?」
「え……いいノ? リーシアお姉ちゃン!」
「えぇ、もちろんです」

リーシアは特大の笑顔をラミリアに向ける。

「さぁ、ラミリアさん。危ない野獣さんじゃなくて、私と一緒に寝ましょうね!」
「ウン!」
(……誰が野獣だ)

リーシアはラミリアと手をつなぎ、俺の方に視線を向ける。

「それじゃアーノルド。私たちは先に失礼するわ」
「アーノルド、おやすみなさイ!」
「……はぁ、わかったよ。おやすみ二人とも」

俺は深いため息を吐きながら、薬屋に消えていく二人を見守る。

「……さて、俺も寝るとしようかな。……ん?」

薬屋に戻ろうとしたその時、足元にあったしおれかけた花があったので俺はきまぐれでしゃがみ込み、花に右手の力を注いでみた。
すると、萎れかけの花は見る見る元気になり、再び花開く。

「……マジか。この力、植物にも使えるのかよ」

こうして俺は新たな力の使い道と、リーシアとの久しぶりの夜会話を終えた。
その後、ラミリアをリーシアに取られた俺の寝つきが悪かったのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...