38 / 43
変わらない未来
第37話
しおりを挟む
電車で一時間ほどかけて、実家へ向かった。向かう途中、何度も両親に電話をしたが、電話に両親が出ることはなかった。
地元の最寄駅に到着し、バスを待った。時計とバスの時刻表を比較すると、待ち時間が三十分もあることに気づく。待つか迷ったが、ふと、地元を散歩したいと思いたった。
仮に昨日から今日にかけての出来事が夢であるなら、僕がこの街に来たのは、大学生の時以来になる。
駅から家までの時間も、歩いて三十分ほどかかる。だが歩けない距離ではなかったので、歩いて家へと向かった。
実家へ向かう途中の道には、久しぶりに見るものがたくさんあった。昨晩の体験で見た時には無かったものだ。それでもやっぱり、地元に帰ってきたと自覚できるのは何故だろう。
幼い頃にあった建物が淘汰され、新しいものが出来上がっても、何も変わらないように感じてしまう。
昨晩の体験では、人は町や建物にそこまで興味関心が持てない故に、それらが変わっていることに気づけないと思っていたが、どうやらそういうことではないようだ。この場所にずっと存在している空気や佇まいのような、町の根幹が変わっていないから、何も変わっていないように見えるんだろう。
昨晩起こった体験のおかげで、地元に久しぶりに訪れたという感覚は発生していない。
実家に行く前に、僕は寄り道をした。その場所は、町なんかよりも何も変わっていなかった。
校庭は広々としていて、桜の木がその周りを囲んでいる。六月にもなると、もちろん花は咲いていない。校外学習で美来がスケッチをした絵にそっくりだった。
校門の前で、哀愁に浸り全体を見渡す。最後に記憶を失った場所も校門から五〇メートル先のところだ。
ここに来ると一層、昨晩の出来事が、『一日の夢』として考えることはできなかった。僕の中では一年の記憶として鮮明に刻まれてしまっている。
土曜日の学校に生徒はなく、校門も開いていなかった。雨が降っていたせいか、校庭には所々に水たまりが作り出されていて、休日に行われるはずの野球やサッカーなどのクラブの活動も今日は中止のようだった。
そんな人気のない学校の前で、立ち止まっていると、校舎の裏側から、荷車を押したおじさんがやってきた。
「どうかしましたか?」
おじさんは僕に話しかけてくる。見覚えのあるおじさんだった。
「卒業した母校でして…」
「そうですか。私も今年でこの学校にきて十五年になるんですよ」
十五年。僕の夢の記憶が頭の中を駆けていく。
「おじさん…」
「どうしましたか?」
「今って何年でしたっけ?」
気づけば、昨日の夢の最初の出会いと同じように聞いていた。
「二〇二〇年ですけど…」
「そうですか」
そう言っておじさんに笑いかけた。
おじさんは不思議そうな顔をして、僕のことを見ていた。
そのままおじさんに挨拶をし、学校から去ろうと振り返ったその時だった。
「君、春休みの時の…」
夢なんかじゃなかったんだ。あの一年間で起きた出来事は。実際に僕が触れて感じたものは、なかったことになんてならない。
おじさんの方に再び振り返り、校門越しにおじさんの手を握った。
「お久しぶりです…」
僕は本当に泣き虫になった。
おじさんは僕のことを覚えていてくれた。あの後、車で家まで送ってくれたことも、僕がものすごく戸惑っていたことも、懐かしそうに語る。
地元の最寄駅に到着し、バスを待った。時計とバスの時刻表を比較すると、待ち時間が三十分もあることに気づく。待つか迷ったが、ふと、地元を散歩したいと思いたった。
仮に昨日から今日にかけての出来事が夢であるなら、僕がこの街に来たのは、大学生の時以来になる。
駅から家までの時間も、歩いて三十分ほどかかる。だが歩けない距離ではなかったので、歩いて家へと向かった。
実家へ向かう途中の道には、久しぶりに見るものがたくさんあった。昨晩の体験で見た時には無かったものだ。それでもやっぱり、地元に帰ってきたと自覚できるのは何故だろう。
幼い頃にあった建物が淘汰され、新しいものが出来上がっても、何も変わらないように感じてしまう。
昨晩の体験では、人は町や建物にそこまで興味関心が持てない故に、それらが変わっていることに気づけないと思っていたが、どうやらそういうことではないようだ。この場所にずっと存在している空気や佇まいのような、町の根幹が変わっていないから、何も変わっていないように見えるんだろう。
昨晩起こった体験のおかげで、地元に久しぶりに訪れたという感覚は発生していない。
実家に行く前に、僕は寄り道をした。その場所は、町なんかよりも何も変わっていなかった。
校庭は広々としていて、桜の木がその周りを囲んでいる。六月にもなると、もちろん花は咲いていない。校外学習で美来がスケッチをした絵にそっくりだった。
校門の前で、哀愁に浸り全体を見渡す。最後に記憶を失った場所も校門から五〇メートル先のところだ。
ここに来ると一層、昨晩の出来事が、『一日の夢』として考えることはできなかった。僕の中では一年の記憶として鮮明に刻まれてしまっている。
土曜日の学校に生徒はなく、校門も開いていなかった。雨が降っていたせいか、校庭には所々に水たまりが作り出されていて、休日に行われるはずの野球やサッカーなどのクラブの活動も今日は中止のようだった。
そんな人気のない学校の前で、立ち止まっていると、校舎の裏側から、荷車を押したおじさんがやってきた。
「どうかしましたか?」
おじさんは僕に話しかけてくる。見覚えのあるおじさんだった。
「卒業した母校でして…」
「そうですか。私も今年でこの学校にきて十五年になるんですよ」
十五年。僕の夢の記憶が頭の中を駆けていく。
「おじさん…」
「どうしましたか?」
「今って何年でしたっけ?」
気づけば、昨日の夢の最初の出会いと同じように聞いていた。
「二〇二〇年ですけど…」
「そうですか」
そう言っておじさんに笑いかけた。
おじさんは不思議そうな顔をして、僕のことを見ていた。
そのままおじさんに挨拶をし、学校から去ろうと振り返ったその時だった。
「君、春休みの時の…」
夢なんかじゃなかったんだ。あの一年間で起きた出来事は。実際に僕が触れて感じたものは、なかったことになんてならない。
おじさんの方に再び振り返り、校門越しにおじさんの手を握った。
「お久しぶりです…」
僕は本当に泣き虫になった。
おじさんは僕のことを覚えていてくれた。あの後、車で家まで送ってくれたことも、僕がものすごく戸惑っていたことも、懐かしそうに語る。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯
あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~
両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。
「……おじさん」
主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。
「俺の所に来ないか?」
会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。
2人に訪れる結末は如何に!?
ベスティエンⅢ【改訂版】
花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。
恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。
名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。
女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。
不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。
鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも
恋して焦がれて、愛さずにはいられない。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
友人のフリ
月波結
ライト文芸
高校生の奏がすきなのは、腐れ縁・洋の彼女の理央だ。
ある日、奏が理央にキスする。それでもなにも変わらない。後悔する奏。なにも知らない洋。
そこに奏のことをずっとすきだったという美女・聡子が加わり、奏の毎日が少しずつ変化していく。
高校生の淡いすれ違う恋心と青春、傷つきやすい男の子を描きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる